法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

憲法情報Now<シネマ・DE・憲法>

 

映画『マンデラの名もなき看守』


                                                           
H.T.記

 2年後、FIFAワールドカップが初めてアフリカで開催される国として、また、BRICsの一員として近年著しい経済成長で注目されている南アフリカ共和国。1994年に初の自由選挙によって選ばれた黒人のネルソン・マンデラ大統領のもとで、アパルトヘイト(人種隔離政策)が完全撤廃された国としても知られています。マンデラは99年に政界を引退し、今年で90歳を迎えます。そのマンデラが自身の映画化に初めて応じたのがこの作品です。27年間に及ぶ刑務所での生活の中で彼を理解し、互いに信頼し合った唯一の看守の手記が原作になっていたからです。伝説的な人物・マンデラの実像に触れることができることは、私たちにとって大きな喜びです。

 映画は、敵をも包み込んでしまう気高い魂や信念を持ったマンデラの魅力あふれる人間性をあますところなく描いています。マンデラ(デニス・ヘイスバート)の毅然とした構え、輝く瞳、深い憂い、どんな人にでも注ぐ温かく細やかな思いやりは観客を魅了するでしょう。

 映画は、マンデラの信念だった、「それでも人間は変わることができる」というメッセージを伝えてくれます。「知らない」ということ、「自分の外側の世界に目を向けず、考えようとしない」ことの恐ろしさ、愚かしさから自らを解放する人間ってこんなにも強くて誇り高い生き物なんだと希望が湧いてきます。

 オランダ、次いでイギリスの植民地として長年に渡り黒人に対する支配が続いた南アフリカでは、独立後の1948年、時代に逆行して差別を徹底化するアパルトヘイトが施行されました。出生時の肌の色で4種類の人種隔離政策(黒人が最劣位)を作った白人の狙いは、少数の白人による政治的・経済的特権を維持し、安価な労働力として非白人を使用することにありました。アフリカ民族会議の若き副議長としてアパルトヘイト反対運動を指導していた弁護士マンデラは、63年、国家反逆罪、共謀罪等で終身刑に処せられます。最初の刑務所は政治犯の収容所である孤島のロベン島。非人間的な過酷な扱いの毎日です。マンデラは、獄中からアパルトヘイト反対運動を指導し、その卓越した影響力は「マンデラ」に万一のことがあれば国中に収拾がつかない暴動が起きると恐れられていました。

 このロベン島に、68年、夫人と子ども2人を伴ってジェームズ・グレゴリー(ジョセフ・ファインズ)が看守として赴任し、マンデラの担当になります。マンデラの出生地に近い所で少年時代を過ごしたため、マンデラと同じコーサ語に通じていることから検閲官として任命されたのでした。アパルトヘイト反対運動と言えば、白人からは、黒人の共産主義者が南アフリカから白人を追い出す活動であり、マンデラは最悪の「テロリスト」だと報道され、喧伝されていました。グレゴリーもその報道を信じていた一人で、重要人物の担当者として抜擢されたことによって、将来の出世を妻とともに素直に喜びます。

  映画は、グレゴリーがマンデラの暖かで細やかな人間性に接する間に偏見から解放され、彼の深い理解者に変化していく過程をスリリングに追っています。大きなきっかけになったのは、彼の勧めでアフリカ民族会議が1955年に採択した「自由憲章」を、禁を破って調査したことです。そこには、「アカい思想」でなく、黒人と白人の平等、自由、民主主義が謳われていました。しかし、人間は外的な条件だけでは変われません。グレゴリーには、「テロリスト」に共鳴することから生じる身の危険を顧みず、昇進したいという勤労者なら普通に持っている当たり前の思いを犠牲にしてでも真実を知りたいという勇気がありました。また、虐げられる黒人を看過できない正義感がありました。でも、私たちは経験から知っているように、急に変化できるものではありません。「変化はすぐには起きません。あまりに根源的なものなので、何か特別な事件がきっかけになるというものではないのです。長い長い歳月の中でグレゴリーは変化します。その間には多くのことがありました」。監督の弁です。

 映画はマンデラの釈放で終わりますが、彼の「敵との共存・和解」の信念は映画からも十分伝わってくるでしょう。彼は、弾圧された側が権力を握ることによって起きた近現代の歴史の愚を繰り返しませんでした。マンデラが指導した政府は、報復を求めず、核兵器を廃絶し、死刑も廃止しました。

 こんなマンデラととともに過ごしたグレゴリーが手記を書いた動機は、「かつてないほど紛争や戦争が起きている今、人間には自分や世界を改革する能力があるということを伝えるべきだと思った」ことです。確かに、映画は21世紀のこれからの世界を見据えています。


「肌の色や生まれ育ち、
 宗教などを理由に生まれつき他者を憎む者などいない。
 人は憎しみを学ぶのだ。
 憎しみを学ぶことができるなら、
 愛することも学べるはずだ。
 なぜなら愛は、
 人間の本性により自然によりそうものだからだ」

  ネルソン・マンデラ―『自由への長い道』(NHK出版)より


【映画情報】
製作:2007年 フランス/ドイツ/ベルギー/イタリア/南アフリカ
監督:ビレ・アウグスト   
原題:GOODBYE BAFANA
時間:117分
出演:ジョセフ・ファインズ/デニス・ヘイスバート/ダイアン・クルーガー
上映館:東京・シネカノン有楽町1丁目他で公開中 全国順次公開
公式サイト

 
                                                           

 

[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]