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映画『花はどこへいったAgent Orange -a personal requiem-』


                                                           
H.T.記

映画『花はどこへいった』より
 (C)2007 SAKATA Masako

 “野に咲く花は どこへゆく 野に咲く花は きよらか”

映画は、ベトナムの美しい田園風景から始まります。清らかな水に香りたつような早苗を植える伸びやかな少女たち。

でも、その水は、山から流れてくる枯葉剤に含まれる猛毒のダイオキシンに汚染されています。少女たちには、ダイオキシンが蝕む身体と闘っている弟妹がいます。

冒頭の歌詞で始まる「花はどこへいった」の歌は、ベトナム戦争時代の代表的な反戦歌として広く歌われました(訳・おおたたかし)。これが題名として使われ、挿入歌となっています。
10代でアメリカ兵としてベトナム戦争に従軍し、その際米軍が大量に散布した枯葉剤の影響で2003年に肝臓ガンで急死した夫グレッグ・デイビスさんを追想してベトナムに行き、映画制作に挑戦した坂田雅子さんの初監督作品です。坂田さんとグレッグさんは、2人が22歳の時、京都で知合い、結婚しました。

坂田さんがベトナムで目にしたのは、枯葉剤が、人々の大地を蝕み続けている現実でした。1964年の8月、アメリカは自国の艦艇がベトナムのトンキン湾で攻撃されたと自作自演の口実で―ちょうどイラク戦争でフセインが大量破壊兵器を持っているとの口実を作ったように―、ベトナムに対して本格的な攻撃を開始しました。ベトナム人の死者は約300万人とされています。米軍は、すでに1961年から、オレンジ剤(Agent Orange エージェントオレンジ)を中心とした枯葉剤の散布を開始していました。ベトナム人が隠れる場所をなくし裸の土地にするためです。名目上はマラリアを媒介する蚊の退治だと告げられていました。ベトナム全土の12%の森林や農村に散布し、「史上最大の化学作戦」と言われています。枯葉剤には、ダイオキシンを高濃度に含ませました。ダイオキシンの毒性はサリンの2倍、青酸カリの1000倍です。ダイオキシンは、極く微量でも、細胞質内のリセプターと呼ばれる物質と結合した後、遺伝子の特定部分と結合し、ガンの発生、奇形の発生、免疫の異常、発育の異常などを起こさせます。

散布直後から、奇形児の誕生が続出しましたが、ベトナムの人たちがその原因を知ったのはずっと後になってからです。10年以上に渡る米軍が撒布した枯葉剤で約400万人が被曝しました。1975年に戦争が終わって30年以上経った今でも、ベトナムでは子どもを含む約100万人が奇形や脳障害といった重度の先天性異常やガンなど種々の疾病に苦しんでいます。ベトナム帰還の米兵の妻からも奇形児が多数生まれ、その発生率は通常の15倍で、ベトナム人の間の発生率とほぼ変わりません。

カメラは手足、脊椎、脳等に障害を負った奇形児とその家族を追っています。うめき声を上げる子ども、のたうちまわる子ども、そして必死にリハビリに取り組む子ども…。そのような子どもたちを家族が自分を犠牲にして支えています。産んだ以上は育てたい――頭が二つあり人間とも思えない子どもでも親や兄弟は本当にいとおしく育て、介助しています。奇形の子どもと家族の両方に、人間の尊厳、そして無限の崇高さを感じずにはいられません。人間賛歌です。

しかし、ベトナムの多くの家族は貧しくお金がないために、治療やリハビリを受けられない子どもがたくさんいます。庭を見たいだけのために必要な車椅子も買えず、床のない冷たい土間のむしろ1枚の上で寒さに震えながら寝ている奇形児もいます。疲れ果て、あるいは自らダイオキシンで発ガンし、子供に先立って死んでゆく親もいます。国土と人間を破壊した爪あとがベトナムの復興を妨げています。

アメリカの政府と枯葉剤製造会社は、枯葉剤の被害を訴えた退役米兵に対して、1984年、連邦地裁で和解し補償金を支払いました。しかし、米政府も製薬会社も、ベトナムの人々に対しては一貫して道義的、法的責任を否定しています。そこで、ベトナム「枯れ葉剤被害者の会」は、2004年、米政府の委託を受けて枯葉剤「エージェントオレンジ」を製造した化学大手、ダウ・ケミカルやモンサント社などを相手に健康被害に対する損害賠償や汚染土壌の撤去を求めて米連邦裁判所に提訴しました。しかし、地裁、高裁とも請求を棄却しました。枯葉作戦は国際法違反ではないこと、枯れ葉剤は人間を標的とした毒物として作られたわけではないこと、ダイオキシンと健康被害との因果関係は証明されていないことが理由です。現在連邦最高裁に係属しています。

出演者は語っています。“ダイオキシンの被害を知るためにはベトナムほど研究条件がそろっている所はない。しかし、アメリカはベトナムに近づこうともしない”“(世界の)若者たちはゲーム機で仮想の敵と戦っている。しかし現実の敵とは戦わない”

坂田さんは語っています。“戦争はまだ続いています。傷跡は個人の力では癒やされません。私はベトナムでは大変な困難と貧困の中にありながら、愛や情、暖かさを忘れない人々にあらゆるところで出会い、生かされてきました。グレッグのメッセージが世界中に広がることを願っています”。

野に咲く花は少女が摘み、少女は若者に届けます。若者は戦争へ、そして墓の下に。墓の上の野にはまた新しい花が咲き少女が摘む。人間はいつになったら戦争の愚かさに気付くのだろか?という歌ですね。

【映画情報】
製作:2007年 日本
製作・監督:坂田雅子    
時間:71分
出演:グレッグ・デイビス/フィリップ・ジョーンズ=グリフィス/マーカス・ベンズマン/マーク・ラングレン
上映館:6月14日より東京・岩波ホールにて公開 全国順次公開
公式サイト

 
                                                           

 

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