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映画「靖国 YASUKUNI」の上映中止を考える


                                                           
H.T.記

話題の映画「靖国」を4月12日から上映することに決めていた映画館5館すべてが、上映を中止しました。“右翼の街宣車が来て近隣の商業施設やお客さんに迷惑をかけるおそれがある”が理由です。戦後日本の映画史上かつてなかったことで、表現の自由にとって極めて深刻な事態となっています。さらに上映自粛が広がるのか、圧力を跳ね返すために国民、すなわち私たち一人ひとりがどれだけアクティブになれるのか、今、試練の時期です。

「靖国」は、10年間にわたり、終戦記念日の靖国神社の様子などを取材したドキュメンタリー映画で、靖国神社をめぐる様々な人たちが登場しています。一般には知られていませんが、1933年から終戦までの12年間、 靖国神社のご神体とされる日本刀「靖国刀」が境内で8100振り鋳造されていた様子なども紹介されています。

映画は、日本、中国、韓国の3カ国の協力により、アジア友好を目指す合作映画として製作されました(公式HPより)。監督は、日本に19年間滞在する中国人の李纓(リ・イン)氏です。今年の香港国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞しています。

上映中止と聞いて、プリンスホテルが、右翼の街宣車による妨害が予想されることを理由に、今年2月2日の日本教職員組合教育研究全国集会全体集会の会場使用契約を解除し、全体集会が中止に追い込まれたことを想起された方が多いでしょう。契約に際しては、妨害が予想されることは説明されていました。憲法によって保障される集会の自由は、意見や情報等を伝え、交流するための重要な基本的人権として、私人間においても最大限尊重されなければなりません。この事件によって、国民の間に、憲法や他人の人権を無視してもよいという風潮が広がることが強く懸念されました。今回の上映契約に当っても、2月末には監督も出席して妨害や嫌がらせがある可能性は説明され、警備や警察との連絡態勢も話し合われ、“一緒にチャレンジしましょう”ということになっていました(4月4日付朝日新聞)。中止は、プリンスホテルの事件と同じ構図であり、早くも懸念が現実になりました。
 
3月15日には東京の1館が中止を決め、31日までの間に、上映が決まっていた東京と大阪の5館のすべてが中止しました。ある映画館は、3月20日過ぎから右翼の街宣車などの抗議を受けたことなどから、中止を自主的に判断したとのことです。3館は特に嫌がらせや抗議などはありませんでした。これは、映画館側の表現の自由の返上であり、製作者や配給会社などの表現の自由、さらには、市民の知る権利の侵害です。「面倒をおそれて自発的に場の提供を渋る雰囲気が蔓延してきている傾向を看過できない」(日本ペンクラブ緊急声明)など続々と憂慮の声が上がっています。朝日、読売、毎日、日経の全国紙の他、多数の地方紙が社説で警告を発しています。

 中止の転機になったのは、3月12日の国会議員向けの特別試写会の開催のようです。試写会は、一部の週刊誌が「反日的だ」として問題にしたことから始まります。映画の制作には、文化庁所管の独立行政法人「日本芸術文化振興会」から750万円の助成金が出ていました。この助成には、「政治的宣伝意図を有しない」との条件があります。そこで、この条件を満たしているかを疑問視した自民党の稲田朋美衆院議員(2006年2月11日の建国記念日に新人議員34人が設立した「伝統と創造の会」会長)側らが文化庁に、試写会を開催するよう求めました。公開前に全国会議員向けに異例の試写会が開かれたことについては日本映画監督協会が、「上映活動を委縮させ、自由な創作活動を精神的に圧迫している」と抗議するなど、多くの新聞が社説で批判しています。

今、立川事件に象徴されるように、従来なら自由だった反戦ビラの配布に対して刑罰を科すなど、政府や司法の側からの表現の自由に対する規制が強化され、国は取締りに神経質になっています。このように立憲主義が危機を迎えている時代だからこそ一層、国民は主権者として結束して権力への監視と抗議を強化して、自由な社会を守っていかなければなりません。今回、中止を求める声は政治団体に属する右翼に限らないようです。公的補助には適さない映画だとして中止を求める意見もあります。しかし、公的補助の適否と上映は無関係です。そもそも、公的補助の問題としても、ドキュメンタリー映画といえども、創作活動には何らかの主観が入ります。同じ助成が、平和を訴える「蟻の兵隊」や「ヒバクシャー世界の終わりに」などにも行なわれていることを考えても、「政治的宣伝意図を有しない」という条件そのものが極めて主観的です。多様な創作を国が後押しすることは、アジアとの文化の交流や共生にとって必要なことでしょう。

4日の上記朝日新聞で監督は「本当に、周囲への迷惑という表向きの理由だけなのか。だれが中止を決めたのかよく見えない」と発言しています。マスコミは、中止に至る検証をきちんとしてもらいたいものです。同時に、上映再開に向けて、あるいは、5月以降上映を予定している映画館に対して国民が圧力に屈しないよう支えることが、何よりも必要でしょう(憲法12条、97条)。
(2008年4月4日記)

 
                                                           

 

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