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映画『明日への遺言』


                                                           
H.T.記

1948年、東海軍司令官だった岡田資(たすく)中将は、B級戦犯として、米軍捕虜殺害の罪で、極東国際軍事裁判(東京裁判)により死刑判決を受け、執行されました。岡田中将の法廷での証言などを綿密に調査して執筆された大岡昇平の実話小説「ながい旅」の映画化です。PRのされ方を見て、家族愛や、今はやりの「品格」論ブームに乗り「部下の責任を一身に背負った品格ある司令官」である岡田氏の英雄像を描く映画だろうか?という疑問を抱きながら観ました。
しかし、映画は、(1)自分が行なったことを受け入れて自分に向き合った一人の誠実な人間を描いていると思います。「責任を引き受ける」という意味で「品格」ある身の処し方でしょう。(2)同時に、法廷での言動を含めて戦争の不合理さを告発し、後に残した若い世代に世界の平和に貢献せよと訴えています。一人ひとりの生命の大切さを、死刑という逆説的な形で表現したのが「遺言」だと思います。

冒頭に、無差別爆撃のドキュメント映像が続きます。無差別爆撃は、空爆によって都市を破壊し一般市民を殺戮し、敵国民の抗戦意思をそぐことを主たる目的とした戦略爆撃の代表的なものです。映画は、ピカソの絵で知られるナチスによるゲルニカの爆撃、それより格段に大規模な日本軍による中国の重慶や南京爆撃、ドイツによるポーランド爆撃、東京空襲、原爆投下等を次々と映します。

そして、1945年の名古屋に対する無差別爆撃。東海軍は米軍機を撃ち、38名の米軍搭乗員を捕虜にしました。「軍事目標がないことを明らかに知りつつ女子どもを含めて大量虐殺しながら、自分たちはパラシュートで降下し生き延びるのは虫が良すぎる」という市民感情もあって、東海軍は、略式裁判で全員を処刑しました。この措置が、捕虜の人道的な処遇を定めるジュネーブ条約違反の戦犯とされ、岡田(藤田まこと)とその部下を含め20人が起訴されました。BC級の国内戦犯の審理は横浜法廷で行なわれました。岡田らの裁判は特殊だったようです。有名な石垣島事件では、米軍捕虜3人を刺殺、斬首した石垣島の兵士41人が死刑の宣告を受けました。2週間前に入隊したばかりの沖縄の農民出身の兵士も含まれていました。「私は貝になりたい」のドラマでは、同じく上官の命令に逆らえなかった末端兵士が絞首刑になりました。

岡田は、無差別爆撃は違法であり、爆撃に参加した者は有機的に一体となって責任を負い、捕虜でなく戦犯である故に略式裁判は適法である、処刑は自分の命令によるものであるからすべて自分に責任がある旨を強く主張しました。岡田の気迫や、電車の車掌(蒼井優)、孤児院の院長(田中好子)等の生々しい証言によって、弁護人、検察官、裁判官の心は次第に動かされて行きます。ついに裁判長は、「処刑は報復によるものだったのか」と救いの手を差し伸べます。「報復」ならば罪が軽減される規定があるからです。しかし、岡田は、「報復ではない。処罰である」と断言します。
この、「報復ではない」は大きなポイントです。報復ならば、さらにそれに対する報復を招き、負の連鎖が続きます。岡田は死をもってそれを断ち切ろうとしました。

「報復」と言えば、アフガンやイラクに対して「報復戦争」をしている国アメリカでこの映画の共同脚本を書いたロジャー・パルバースは書いています。「3年前だったら、この映画はアメリカでは公開されなかったでしょう。9,11以降の、イラクへの攻撃を人々は支持していたからです。しかし、アメリカが無差別爆撃という犯罪を犯したことにより、アメリカ人さえ、アメリカが正しくないという気分に襲われました。世論は、大きく変わったのです」。

もう1点。捕虜を軍律による裁判で極刑にした場合、それを軽減できる権限を持っていたのは天皇だけだったと岡田氏は述べています。さりげなく。映画は、岡田氏と天皇の責任の取り方を対比しているように思いました。皆さんはどう感じられるでしょうか。

東京裁判については、勝者による裁判である等、いろいろな議論があります。それまでの精密爆撃を批判し、対日戦略爆撃団司令官として名古屋を含む無差別爆撃を立案、指揮し、原爆投下にも関与したカーチス・E・ルメイ将軍は語っています。「もし国際戦犯裁判がアメリカに対して行われたら、私は拘引され、人道に反する罪で戦犯にされたであろう。ただ幸いにして戦争に勝ったからそうならずにすんだ」。ルメイ将軍には、1964年、日本国天皇の名において勲一等旭日大綬章が授与されました。

しかしこの映画は、「国際戦犯法廷」の不合理な側面や限界を超えた問題を扱っていると思います。極めて重い「遺言」です。

法学館憲法研究所が共同製作した映画「戦争をしない国 日本」は、「本格的な戦争ができる国 日本」へ向かっての歩みをドキュメンタリー形式で紹介しています。マンスリー上映会(6月まで)も開催中です。

岡田氏の家族への想い、会話はできないが全身で必死に夫を受け入れ、励ます妻(富司純子)の姿も見ものです。

【映画情報】
製作:2008年 日本
監督:小泉堯史
脚本:小泉堯史/ロジャー・パルバース
プロデュース:原正人
原作:大岡昇平「ながい旅」
時間:90分
出演: 藤田まこと/富司純子/ロバート・レッサー/フレッド・マックイーン/西村雅彦/蒼井優/田中好子
ナレーター:竹野内豊
上映館:全国で公開中
公式サイト 

 
                                                           

 

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