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映画『DV(ドメスティック・バイオレンス)』


                                                           
T.K.記

フレデリック・ワイズマンという名前を聞いたことがありますか。1967年以来アメリカ社会の日常生活を撮りつづける、世界で最も偉大なドキュメンタリー映画作家。今年で78歳を迎えるはずですが、今もなお現役(昨年新作『州議会』発表)です。

今回は、そのフレデリック・ワイズマンによる2001年作品『DV(ドメスティック・バイオレンス)』を紹介します。

フロリダ州最大のDV被害者保護施設「スプリング」に取材したこの作品には、数多くのDV被害者と、施設で働くカウンセラーたちが登場します。まず、わたしたちは、彼らの間に交わされる言葉の、その量に圧倒されることになります。彼らはひたすら、しゃべって、しゃべって、しゃべり続け、カメラはそんな彼らをじっと凝視し続けるのです。

ナレーションや字幕が全く用いられていないこと、インタビューという手法が排除されていることは注目に値するでしょう。ワイズマンは、自らの言葉で被写体を解釈しようとすることも、彼らから思うような言葉を引き出そうとすることも禁欲し、ひたすら観察者に徹しているのです。ここには、被写体への真摯な尊敬の念が表れているように思います。これら名もなき人々こそが主人公である!こう高らかに宣言するがごときワイズマンは、真の民主主義者と解してもよいのではないかと思います。

同時に、ここには、現場で撮(録)られた画と音のみで映画を成立させるという自らのスタイルへの揺らぐことのない確信があるようにも思えます。ワイズマンは原理主義者でもあるのです。
もちろんこの厳しさは、フィルムの作り手が余計な何ものかを付与してしまうことへの警戒に由来すると思われます。しかしわたしなどは,限界までに削ぎ落とされたこのスタイルそのものに、身震いするほどのカッコ良さを感じてしまいます。そんなわたしは軽薄なのかもしれませんが…

ところで、驚くべきなのは、そのような制約(ナレーション・字幕・インタビューなし)を自らに課しつつも、この映画がDVという現象への良質な解説たることを回避していない点です。なぜ人はDVの加害者となり被害者となるのか、そこにはいかなる構造が隠されているのか、被害者にはどのようなケアがなされるべきなのか。観客に対し、これらの問いへのこれ以上ない明晰な回答をキッチリと提示しているのです。啓蒙性と、作品としての完成度が、高い水準で合致している稀有な例をここに見ることができます。

そして、作品の最後に用意された一幕の、あまりに複雑な余韻。
ある中年夫婦の間に生じた諍い。疲れ果て眠りに落ちようとする妻に、夫は自分の言葉を聞くよう暴力的に言い募る。どうやら夫が呼んだものらしい二人の警察官が、粘り強く説得による事態の収拾を試みる…。
実に多様な力のせめぎあう、非常に緊張感に満ちた、この作品の圧巻とも言うべき場面です。ここに、現実なるものと法なるものとの間のギリギリの鍔ぜり合いが演じられていると見ることもできるでしょう。そして、カメラはそのことに率直に驚いています。この驚きは、法廷での審理を捉えた続篇『DV2』に受け継がれることになるのですが、ともかくも、このようなところに、法律家でもあるワイズマンの面目躍如たるものがあるように思います。

ワイズマンは、単に民主主義者であるばかりではありません。何よりも、アメリカ合衆国における民主主義という名の装置の、もっともミクロなレベルでの作動ぶりを冷徹に観察する記録者なのです。決して特殊ではない、日常的に生起している出来事の中に驚きを見いだすことを教えてくれる教師でもあります。この教師は、作品上において自らの見解をストレートに表白するようなことは決してしないのですが、そのことが逆に押し殺した迫力を生んでいるのは間違いありません。彼が何を思っているのかは、彼が何を見せているのかによっておのずから明らかなのですから。

この『DV』という作品、そしてフレデリック・ワイズマンに興味を持った方は(もし、東京近辺にお住まいなら)、この早春(2月19日〜3月15日)、神田駿河台のアテネ・フランセ文化センターに足を運ばれることをお勧めします。きっとワイズマン・ファンになってしまうこと、請け合いです。

 
                                                           

 

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