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映画『サラエボの花』


                                                           
H.T.記

 サラエボといえば、旧ユーゴ時代の1984年、冬季オリンピックが開催された美しい町としてご存じの方も多いでしょう。最近では、サッカーの日本代表監督だったオシム氏の出身地としても知られています。映画の、サラエボの「花」とは、この町に住む、「深紅のバラの花のように輝いていた女性たち」のことです。

 しかし、1992年、サラエボを首都とするボスニア・ヘルツェゴビナが旧ユーゴからの独立を宣言すると、民族同士が領域の拡大、「民族浄化」を目指して激しく衝突しました。死者20万人、避難民200万に及びました。オリンピックのスタジアムだった所は、今は広大な墓地となっています。この、いわゆるボスニア紛争については、紛争の責任者を追及する側からの映画『カルラのリスト』を先日紹介しました。『サラエボの花』は、被害を受けた女性の視点から描き、国際的に高い評価を受けた作品です。06年のベルリン国際映画祭で金熊賞、平和映画賞その他たくさんの賞を得ました。

 舞台は、紛争が終わってから12年経ったサラエボです。12歳の少女サラと、母親エスマは二人で細々と暮らしていました。サラの父親は、紛争で犠牲になったシャヒード(殉教者)とされてきました。サラの卒業も近くなり、修学旅行の季節になりました。エスマは、夜も仕事をかけもちして、必死に旅行費を工面しようとします。しかし、シャヒードの子どもは、旅行費が免除されることを知ったサラは、父親の死亡証明書を取ってくるようエスマに懇願します。でも、なぜか、エスマはそれを拒みます。

 映画の公式サイトのトップでオシム監督も触れていますので、ネタバレを承知で書きますが、サラは、紛争の際、セルビア人によるレイプによって生まれた子どもでした。このとき、2万人が被害に会いました。捕らえられたエスマは、おなかが大きくなってからも毎日数人によって被害を受け続けました。まさに性奴隷です。エスマは生まれてくる子どもの顔なんて見たくないと思っていました。しかし、生まれた赤ん坊の顔を見ると、この世にこんなに美しいものがあるのかと感動します。

 かつて筆者は、ある母親から聞きました。「出産した女性は子どもの姿を見ると、子どもは『存在そのものがウレシイ』のだと感じる。誰かに、または何かにほほえんでいるのではなく、『生きていることそのものがウレシイ』 。この世に、これ以上のものは、ありません」。

 でも、エスマのトラウマは消えることはありません。このトラウマと、サラへの愛情との間の葛藤は続きます。女性にとって最高の感動であるはずの生命を生み育てること自体に関わる葛藤の深刻さは、筆者には想像できないものです。現在、エスマと同じような境遇にある女性たちが魂の抜け殻のような孤独な表情をして映画に登場しています。

 やがてサラは、自分の出生の秘密を知らされます。サラは果たして‥‥。

 映画は、生まれてきた生命の重さと輝き、それを強く抱きしめる母親の深い愛情という、人間の持つ崇高さを描いた傑作だと思います。でもこのことは、犯罪を決して免罪するものではないことも訴えています。

 ところで、日本では性奴隷を描いた映画を大々的に制作し、大きな映画館で公開し、海外にも広めることが今なおできていません。被害の程度はボスニアの比ではないのに。改めて、今の日本の実情を考えずにはいられない作品でもあります。

【映画情報】
製作:2006年 ボスニア・ヘルツェゴビナ
監督:ヤスミラ・ジュバニッチ
原題:Grbavica
時間:95分
出演:ミリャナ・カラノヴィッチ/ルナ・ミヨヴィッチ/レオン・ルチェフ
上映館:東京・岩波ホールで公開中、1月より全国で順次公開
公式サイト

 
                                                           

 

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