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映画『長江哀歌』


                                                           
H.T.記

 北京オリンピックを1年後に控え、ますます注目を浴びている中国。巨大な経済発展、広範な貧困と拡大する経済格差、その中で暮らす個人の自立と家庭の維持‥‥。これらの諸問題を等身大で活写した意欲的な作品が生まれました。
 これが評価され、06年のベネチア国際映画祭で金獅子賞グランプリを獲得しました。監督は、中国映画界新世代の旗手といわれるジャ・ジャンクー氏(36歳)。

 舞台は、長江(揚子江)の山峡。四川省から湖北省に至る全長2400キロの渓谷です。
古代より山水画の題材に好んで描かれ、李白や杜甫なども多くの詩を残し、中国を代表する景勝地でした。この地に、長い間の論争の末、治水と発電の目的で「山峡ダム」の建設が1994年から始まりました。「万里の長城」以来の大事業で、既に100万人が移住し、2009年には世界一のダムが完成する予定です。
 
 映画の冒頭は、長江の乗合船の乗客たちの姿を延々と映し出すことから始まります。出稼ぎ風の上半身裸の現場労働者の姿が目立ちます。「今中国では、底辺の労働者への関心が持たれず、テレビや映画で彼らの姿が大きく映るということはありません。あえて拘って彼らを描写しました」と、監督は述べています。経済の発展を支えつつも、その影に隠れがちな庶民たちの労働現場や貧しい生活を、監督は温かい眼で細やかに追っています。
 そんな労働者の群像の一部として、山峡の一角にある古都、奉節(フォンジェ)に、乗合船に乗って2組の男女が山西省からやってきました。1人は、16年前に別れた妻と娘を探しにきた炭鉱夫ハン・サンミン。昔、妻が住んでいた場所は、すでに水の底に沈んでいました。サンミンは、しばらく奉節に腰を落ち着け、ダム建設のための建物の解体作業をしながら妻子を探します。
 もう1人は、三峡の工場に働きに出て2年間音信不通の夫を探しにきた看護婦のシェン・ホン。必死になって探し当てた夫は、住民撤去管理部を取り仕切り、違法な立ち退き強制もやっている会社の社長になっていました。しかし、夫には厦門(アモイ)人である裕福な女性オーナーの愛人がいました。
 映画のタイトルは「長江哀歌」です。3つの哀歌(エレジー)が描写されていると思います。
 一つは、失われる大自然とそれに包まれた地域社会への挽歌。北京での物質的な生活に疑問を感じた監督が魅かれた他ならぬ大自然が音を立てて消えてゆきます。まだ残る水墨画の世界の山水を背景に、破壊されていく姿が批判的にではなく、既定の事実として淡々と描かれています。
 二つ目は、庶民の生活の貧しさと拡大する格差。そしてなお残る不合理な因習。シェン・ホンの夫が経営する会社で働く地上の裸の労働者たちと、絶景を見下ろすビルの屋上でグラスを傾けてダンスに興ずる成金風の男女たち。炭鉱夫ハン・サンミンの妻が失踪したのは、サンミンとは売買婚で結婚したことも原因だったことが示唆されます。低賃金で働く解体労働者たちは、サンミンが働いていたという高賃金の炭鉱で働くことをこぞって望みますが、その炭鉱が年に10人は事故死する非合法のものだと知って二の足を踏みます。
 三つ目は、妻や夫を懸命に探す男女の限りない孤独。夫に女性がいることを知ったシェン・ホンは、自立の道を選びます。「自我に目覚めた現代の新しい中国女性の姿を描いた」とのことですが、新しい孤独が待っているようです。サンミンも苦労して妻を探し当てますが‥‥。これらの孤独は、上記の2つの問題と関係している部分とそうでない部分とがあるようです。見方は分かれるかもしれません。
「哀歌」という形で社会的な素材を扱いながらも抑制されている政治的な要素を感じ取る感性が必要な作品でしょう。中国の都会や景勝地を訪れる観光だけでは見えない中国の実像を理解するために、かっこうな映画です。今の日本にも通じるところが多々あり、考えさせられます。

【映画情報】
製作:2006年 中国
時間:113分
原題:三峡好人 英語題:STILL LIFE
監督・脚本:ジャ・ジャンクー
出演:韓三明/沈紅/王東明/郭斌/麻
上映館:18日より全国で順次ロードショー中
公式サイト 

 
                                                           

 

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