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映画『俺は、君のためにこそ死ににいく』


                                                           
H.T.記

1945年3月、鹿児島・知覧の特攻隊の基地から飛び立つ若い特攻兵士と、軍指定の食堂を経営していた島濱トメさんの交流の実話を基にした作品です。島濱さんは、兵士たちを分け隔てなく親身に世話して、母親のように慕われていました。
石原慎太郎氏の「特攻と日本人―ある見事な青春群像」(「文芸春秋」2004年9月号)、の映画化で、石原氏自身が脚本を書き、総指揮・製作に当たりました。

陸海軍は、敗戦必至の難局を切り開くために、特攻隊を編成します。知覧の陸軍特攻隊は、学徒出身の特別操縦見習士官と15歳〜19歳の少年飛行兵がメンバーです。特攻隊員の任務は、250キロの爆弾を抱えた隼戦闘機で、米軍艦に体当たり攻撃することです。

映画館には若い男女がたくさん観にきていました。今、多くの人に観られている映画において戦争はどのように描かれているのでしょうか。

兵士たちは、日本は敗れることを知っています。「日本は負けるよ。生き抜くことこそが将来の日本の…」。そこまで言って上官に殴り倒されます。そして、自分の死が、父母、幼い弟妹、恋人などをこの上なく悲しませ、その一生を不幸にすることに苦悩しながら飛び立って行きます。これを見つめる島濱さんの辛さも同じです。兵士たちとそれを取り巻く人たちの慟哭、呻き声が伝わって来ます。

ところで、タイトルは「君のためにこそ死ににいく」です。宣伝も、愛する人たちのために死にに行った、ということを前面に出してます。しかし、筆者は、周りの人たちのことを愛すれば愛するほど死にたくない、生きたい、という気持ちがよく現れていると感じました。タイトルは、現代の気風に合わせた集客政策ではないかと思われます。

特攻隊を国側からみるとどうなのでしょうか。映画には、(俗説では)特攻作戦を考案したと言われる大西瀧治郎海軍第一航空艦隊指令長官の次のセリフがあります。
「これは、欧米支配からアジアを解放する戦いだ。たとえこの戦いに敗れても、国体は護らなければならない。国体とは、国家、民族の意思だ。これは絶対に正しい。敗れても、国家の名誉のために、若者たちに死んでもらう」。
上官は言います。「悠久の大義に生きよ。我が国の国体を護持し、日本国の名誉のために生きて還るな。生きようとすることは不忠である。君たちは国を護る軍神だ」。
国体とは、天皇を中心とする統治体制です。青い空に編隊を組んで美しく飛び立つ隼戦闘機を「海行かば」の荘重なメロディーが送り出します。その歌詞にある「大君の辺にこそ死なめ」の「大君」とは天皇です。タイトルの「君」とは天皇だと解することが整合的です。

少年兵は言います。「俺が死んだら誰も俺のことなんか忘れてしまう」。映画は、国家は神となった彼らを決して忘れてはいけないことを訴えています。「靖国で遭おうぜ」のセリフが度々登場し、ラストは亡くなった兵士の魂が無数の蛍となって舞う靖国神社で終わります。

石原氏は冒頭、「雄々しく美しかったかつての日本人の姿を今に遺したい」と語り、特攻兵士たちの姿に「美しさ」を見ています。

映画は、陸上自衛隊の協力で製作されました。「戦争をすることができる国」にするためには、生命を捧げる行為を崇高で美しいものとし、死者を讃える靖国神社のようなシステムが必要です。映画は、国家の機関が協力し、首都の知事が製作した「準国策映画」だという見方も可能でしょう。

なお、この映画では、敵側の生命を思いやって悩むという視点は全くありません。それが、自爆テロをテーマにした映画「パラダイス・ナウ」と異なる点です。

現代において、戦争を論じる場合、相手のことや国家とは何かについて考えることが不可欠ではないでしょうか。映画「戦争をしない国 日本」や、連続講座「世界史の中での憲法」は、これらのことを考える場になると思います。

【映画情報】
製作:2007年 日本
製作総指揮・脚本:石原慎太郎
監督:新城卓
原作 :「特攻と日本人―ある見事な青春群像」(「文芸春秋」2004年9月号)
時間:135分
出演:徳重聡 /窪塚洋介 / 筒井道隆/ 岸恵子/ 宮崎美子
上映館:全国東映系劇場にて公開中
公式サイトはこちら

 
                                                           

 

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