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映画「硫黄島からの手紙」


                              
H.T記

米国人のイーストウッド監督による、「父親たちの星条旗」に次ぐ、硫黄島二部作です。1945年2月、南方の日本軍を次々と撃破したアメリカ軍は、5万人余の圧倒的な艦隊で日本本土への出撃拠点の獲得を目指して硫黄島に迫っていました。2万人を超す硫黄島守備隊を補給したり援軍を出す力は日本には既に残ってなく、島の兵隊は孤立していました。大本営の方針は“玉砕”です。

島の指揮官は栗林忠道中将(渡辺謙)です。栗林氏は実在した人物で、アメリカでの生活が長く、その強大な国力を知り尽くしていたため、日米開戦には反対でした。しかし、軍務には忠実に、一日でも長く戦い本土攻撃を遅らせるために、知略をめぐらし、多くの洞窟を掘って、5日で陥落すると言われた島を37日間に渡る壮絶な戦いで守りました。映画は、部下には厳しくも細やかな配慮をする栗林氏とパン屋出身の一兵卒西郷(二宮和也)を軸に、個性的な人物を配して残酷極まる戦争の実態を展開していきます。彼らはもう届かないであろう手紙を家族に書き続けるなど、残された者への思いやりに溢れています。家族をも破壊することが、戦争の残酷さを一層浮き彫りにしています。

 硫黄島の戦いを、両国側から二部作で描くことによって、戦争に勝ったか負けたか、戦争の目的が正しかったか否かという問題を超えて、戦争で殺し合うことの悲惨さ、さらには戦争そのものへの怒りを強烈に伝えています。

この映画はテレビを含めメディアで盛んに採り上げられ、栗林氏の名将ぶりと家族思いが賛美され、高い評価が溢れています。そこでここでは、これらの評価を肯定したうえで、気になったことにあえて触れます。
まず、戦争への怒りは、戦争の主体である国家、具体的には戦争を遂行する権力者への怒りに向かわないと形にならないでしょう。「父親たちの星条旗」は、当時のアメリカの内情を具体的に描写することによって、兵士をモノ扱いして戦争に利用する権力者たちを明確に批判しています。これに対して、こちらの映画ではその点不明確です。1945年2月といえば、近衛首相が昭和天皇に、これ以上犠牲者を増やさないために降伏交渉すべきだと提案した月です。天皇は、「もう一度戦果をあげてから」と主張してこれを拒否しました(参考資料「日本という国」)。この提案が受け入れられていたとしたら、硫黄島の兵士たちの何人かは家族のもとへ帰れたかもしれません。新聞報道によれば、栗林氏は持久戦に持ち込むことによって、講和の時間をつくろうとしたとのことです。このあたりのことが映画に現れていれば、より深みを増したと思われます。映画では、死を覚悟した兵士たちの集団は、決まって「天皇陛下万歳」を唱和します。ここには戦争を遂行する天皇制国家への直接的な批判は感じられません。今なお戦争責任をあいまいにしている日本の世論を踏まえての興行収入への配慮でしょうか。日本の監督が本格的にきちんと提起すべき課題でしょう。

栗林氏には、多数の部下を死なせることへの苦悩が感じられません。陸軍の幹部として、お国のために殉じるのは当然であるという考え方でした。この側面も客観視しないと、国家のための「英雄」を排除する「父親たちの星条旗」の考え方と矛盾することはないでしょうか。氏は、勝てそうもない戦争だったから反対したのでした。

 “戦争への怒り”については、イーストウッド監督には具体的なイメージがあるといわれています。イラク戦争です。我が航空自衛隊は、04年3月以来、クウェートからイラク国内に武器を携行した米軍兵士等を400回以上空輸してきました。今年7月からはバクダットや北部のアルビルという「戦闘地域」にまで米軍兵員・物資を輸送しています。自衛隊のイラク派兵が始まったころ、「戦争に行くんじゃないかと心配した国民もいたが、報道で反対意見が少なくなった」(06年10月9日付け朝日新聞の報道検証記事)。「復興支援」だけを繰り返し報道し、解説した日本のメディアに、政府は感謝しているでしょう。
今は、「戦争をしている国 日本」です。法学館憲法研究所は、映画「戦争をしない国 日本」を共同製作しました。こちらもご覧ください。

製作:2006年 アメリカ
時間:141分
監督:クリント・イーストウッド
出演:渡辺謙 、二宮和也 、伊原剛志 、加瀬亮 、中村獅童
上映館:全国各地でロードショー中
公式サイト

                              

 

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