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映画『宇宙戦争』


                              
F・J記

H. G. ウェルズの空想科学小説の古典を、スティーブン・スピルバーグ監督が映画化。
「21世紀初頭の今日、我々はまだ気づいていない。人類より優れた知能を持つ彼らが、ゆっくりと、しかし、確実に地球侵略を企てていることを。彼らは観ていた。ずっと前から。私たちが、微生物を観るような目で」
「19世紀末の…」―原作の冒頭から1世紀余りの時間を越え、ナレーション(モーガン・フリーマン)が始まる。

港湾労働者のレイ・フェリアー(トム・クルーズ)は、アメリカ東部、ある街の自宅裏庭で、異様な稲光を目撃する。突如、落雷のあった地中から三本足の巨大な物体が出現し、周囲を攻撃し始めた。レイは、別れた妻から預かった子どもを必死に守りながら生きのびようとする。しかし、人、街、世界は、次々と破壊されてゆく…。

静かに歩み寄る恐怖、畳みかける迫力、追い詰められた難民のパニック、極限状況に震える。スピルバーグ監督とトム・クルーズの創り出す映像には、もはや言うことはない。彼らの政治的立場もここでは問わない。強調されるのは、原作にこだわって、途方もない巨大かつ異常な出来事を舞台に「個人」や「人間性」へ光を照らしている点である。
監督は言う。「家族を愛することが、他国で戦争することよりもはるかに重要であることを分かって欲しい」。

アクチュアルな問題もスクリーンから垣間観ることができる。序盤、異星人の襲来と飲み込めないパニック状況の最中、「テロリズム!?」と叫ぶ声が二度ほど聞こえる。半世紀前に映画化された『宇宙戦争』(1953年)では、二度の世界大戦、ソ連や核兵器のメタファーがあった。1898年原作の時代背景には、英国ではドイツ帝国からの侵略の恐怖があった。しかし、ウェルズは同時に逆の視点も盛り込んでいた。地球人による動物種の絶滅、さらに、大英帝国によるタスマニア人の絶滅(人間狩りや性病を持ち込んだ結果)など植民地主義とその反省の記述も見られる。このことと現在の戦争の態様を想定してみても、「もし攻められたら」より「攻めてしまうこと」にリアリティを感じないだろうか。
なお、原題を直訳すれば『諸世界の戦争』、「文明の衝突」という意になる。また、1938年、原作がラジオ・ドラマ化され、アメリカ東部で現実のニュースと勘違い、集団パニックを起こした有名な話がある。それに対して、9・11やイラク戦争が、日本の日常ではテレビや映画の映像として別世界としか認識されないのは、なんとも皮肉である。

原作にオマージュを捧げる『インデペンデンス・デイ』やブラックにコメディ化する『マーズ・アタック』などB級映画も決まって異星人の「襲来」しか描かず、異星への「侵攻」は想定していない。もっとも、ウェルズ原作『月世界最初の人間』(1901年)、映画『H. G. ウェルズのSF月世界探検』(1964年)において、地球人による1899年初着陸後の月人の絶滅という視点を、彼自身が発表している。
『タイム・マシン』、『モロー博士の島』、『透明人間』などウェルズの他の1890年代原作や第二次大戦前後の映画化作品には、アクチュアルな風刺や警句による「人間」への問いかけがあった。しかし、本作も含めて近年のリメイク作品では、表層的な家族愛やラブストーリー、視覚的なSFXやアクションが観どころとなって、彼が本当に問いかけようとした本質が何か骨抜きにされている感が否めない。

というのも、ウェルズは、飛行機や核兵器を予言した空想科学小説家にとどまらないためである。『世界(文化)史大系』、『生命の科学』のほか、(以下、浜野輝訳)『解放された世界』、『ホモ・サピエンス 将来の展望(人類の運命・新世界秩序)』、(小林直樹監訳)『人間の権利』など多数著わした思想家でもある。さらに、彼はF. D. ルーズヴェルト大統領と書簡を交わし、「四つの自由宣言」、日本国憲法へも影響を与えたといえば、この欄で紹介する意味も増してくるだろう。しかし、それは、浜野輝『H・G・ウェルズと日本国憲法―種の起源からヒロシマまで』、『日本国憲法と新世界秩序―現代のミッシング・リンクからみる』、長谷川正安「巻頭言」法律時報1981年8月号などを参照していただこう。ここでは、丸山真男『日本の思想』が、人間を道具ではなく創造者とみることにラディカリズムの本質があるとして、「十八世紀的」啓蒙家と評価して引いたウェルズの言葉で幕を閉じたい。ここに発想の転換があろう。

「―飛行機だって30年前〔1903年まで〕はユートピアだったじゃないか!」

【原題】 "The War of the Worlds"
【原作】 H. G. ウェルズ(イギリス、1898年)
【製作】 アメリカ、2005年
【監督】 スティーブン・スピルバーグ
【出演】 トム・クルーズ、ダコタ・ファニングほか
【上映】 6月29日より、日本・大阪アポロシネマ8ほか、80か国同時公開


                              

 

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