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これって実は憲法問題
2020年11月24日

日本学術会議問題について

日本学術会議会員の任命拒否
菅義偉首相が、日本学術会議が推薦した会員候補者105名のうち6名の任命を拒否していたことが、10月1日の報道で明らかになりました。日本学術会議の推薦者を首相が会員に任命しなかったのは、現行制度では初めてです。
任命されなかった宇野重規教授、芦名定道教授、岡田正則教授、小沢隆一教授は、新安保法制は憲法違反であると反対する立場をとり、松宮孝明教授は共謀罪に批判する意見を国会で述べ、加藤陽子教授などは秘密保護法の危険性について指摘されていました。
このように、今回拒否されたのが、これまで政府が強行採決などの手法で強引にすすめてきた新安保法制、共謀罪、秘密保護法などの政策に批判的立場をとる学者であったことから、「政権にもの言う学者を排除した」「学問の自由に対する侵害ではないか」との批判がなされています。

日本学術会議会員の選考
日本学術会議は、我が国の科学者の内外に対する代表機関で、内閣府の「特別の機関」にあたります。1949年に「科学が文化国家の基礎であるという確信」のもとに、「わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献」、「世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命」として設立されました。
政府に政策提言や答申、勧告を行うため、政府から独立して職務を行うとされています。(日本学術会議法3条)。この会議に対するコントロール権限は政府になく、この点が通常の審議会などと全く異なります。会員の選考については、日本学術会議法7条2項によれば、「会員は、第17条の規定による推薦に基づいて、内閣総理大臣が任命する。」とされ、17条では「日本学術会議は、規則で定めるところにより、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員の候補者を選考し、内閣府令で定めるところにより、内閣総理大臣に推薦するものとする。」とされており、選考権限は学術会議にのみあることが明白です。
1983年の国会の政府答弁では「私どもは、実質的に総理大臣の任命で会員の任命を左右するということは考えておりません。」「形式的に任命行為を行う」という政府答弁がなされており、これとの矛盾も指摘されているところです。

学問の自由との関係
では、今回の任命拒否は憲法で保障された学問の自由(憲法23条)の侵害といえるのでしょうか。ここで教科書検定が検閲にあたるかという論点を想起してみます。検定不合格処分によって教科書として使えないだけであり、一般図書としての発表は問題なくできるのであるから、検閲にはあたらないという判例の理屈です。それと同じように今回任命されなかった6人の学者の方々も今まで通り、大学での学問研究は何ら制約を受けていないのですから、学問の自由を制限されたとは簡単には言えなさそうです。
しかし、今回任命拒否された6人の個人的な人権侵害という観点だけからこの問題を考えるのでは不十分です。任命拒否が学問の自由に与える影響は大きく、独立を保障された学術会議の存立目的を否定し、一定の方向へ学問を誘導するような総理大臣による人事介入は、決して許されるものではありません。
そもそも学問の自由を憲法が保障した趣旨を思い出して下さい。学問が真理の探究にかかわり人類文化にとって意義あるものでありながら、その批判的性格ゆえにときの権力による干渉を受けやすいこと、また、日本では明治憲法下に滝川事件(1933年)や天皇機関説事件(1935年)のように学問の自由が直接国家権力によって侵害された歴史があることから、特にその自律性を尊重すべく規定されたものだったはずです。

政府の人事介入
こうした学問の自由の保障の趣旨から考えると今回の任命拒否はかなり露骨な学問の自由への介入です。本来は形式的任命権に過ぎなかった人事権を通して学問をコントロールしようとすることは許されません。裁判官や検察官人事と同じ問題です。形式的任命権が内閣にあったとしても、実質的にはその被任命者の独立を保障すべき場合があるのです。これまで安倍内閣の人事に関する姿勢には目に余るものがありました。アベノミクスのための日銀総裁人事、集団的自衛権行使容認のための内閣法制局長官の交替、そればかりか最高裁判事、検事総長の人事も従来の慣行を破る姿勢に疑問が持たれました。
人事権を形式的なものに留めて、実質的な独立性を確保してきたこれまでの制度運用を無視して、実質的な人事権を行使して介入し、後は忖度させる。この手法によって、本来は独立性が保障されなければならない組織が政権の意のままに動かされています。権力が集中することによる弊害を除去しようとして、過去から学んで制度設計がなされたものを、そうした過去に学ぶことなく壊してきました。学問研究に従事するエリートとしてこうした制度破壊を見過ごすことなどできないに違いありません。

いつか来た道?
安倍政権は、文化・芸術への助成金も恣意的で違法といえる選別を行いました。そして今回は、菅政権による学問の世界にまでの介入です。どこまで自らの意のままにあらゆる組織と人を動かしたいのでしょうか。独立性を保障するべき組織の独立が失われ、政府に追随するだけの機関や組織となってしまって本当にいいのでしょうか。多様な意見の応酬からよりよいものを見つけ出すというプロセスが省略され、自分の政策や意見が正しいという信念に基づいた無謬性を前提にしています。そもそも人間は過ちを犯す弱い生き物だからこそ、憲法や権力分立が必要だったはずなのですが、官僚の忖度がはびこり、多様な叡智を結集できずに道を誤る。いつか来た道をまっしぐらということでしょうか。

*「塾長雑感 第303回  エリートの矜持」より抜粋し、当研究所で見出しをつけました。

<YouTube動画>

2020.10.2
日本学術会議の任命拒否報道から思うこと
法律家も受験生も最後まであきらめない ~受講生・受験生の皆さんへ 第28弾
 (1分6秒くらい~6分35秒くらいまで)

https://www.youtube.com/watch?v=myrPTTEbseE

2020.10.9
日本学術会議の問題と憲法・学問の自由
「学問」と「勉強」の違い ~受講生・受験生の皆さんへ 第29弾
 (26秒~8分58秒くらいまで)

https://www.youtube.com/watch?v=sFuYzdTZJrY

*伊藤塾塾長でもある当研究所所長の伊藤真による、受講生・受験生の方に向けたメッセージですが、日本学術会議問題について語っていますので、ご覧ください。


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