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中学・高校での憲法教育と地方自治――教育への期待――
2012年1月23日
小谷順子さん(静岡大学准教授)
 

1.地方自治と憲法教育――社会の有為な形成者たる「公民」の資質の養成――
 中学校の社会(公民的分野)、高等学校の公民(現代社会、政治・経済)に代表されるように、学校教育のなかで「憲法」を学習する機会は多い。社会・公民科目の目的は、高等学校学習指導要領(公民)によると、「民主的,平和的な国家・社会の有為な形成者として必要な公民としての資質を養う」ものとされる。つまり、社会・公民教育に求められるのは、単なる知識の習得の機会ではなく、国家・社会を支える人間の養成の機会であることになる。
 このことを念頭に置きつつ、以下、地方自治体の条例と憲法上の権利や自由の保障との関係をめぐる話題を切り口に、地域の中学校や高等学校における憲法教育の重要性を強調したい。

2.地方自治と憲法
 地域政治をめぐり、昨今、全国の自治体の暴力団排除条例、東京都の青少年健全育成条例、大阪府の教育基本条例など、個人の権利や自由と抵触するおそれのある内容を含む条例の制定・改正が話題となっている。
 日本国憲法の下では、地方自治体には条例制定権が認められており、住民が主体的に自らの居住地域のルールを定めることができる。この側面からみると、地方の自主性は尊重されるべきであり、独特な条例制定は好ましいことであるともいえる。
 しかし、条例制定権は万能ではない。条例制定権は「法律の範囲内」(憲法94条)又は「法令に違反しない限りにおいて」(地方自治法14条)認められているにすぎないし、いわんや、憲法に反する条例を制定することは許されない。

3.青少年条例と憲法
 ここでは、青少年健全育成条例(以下、青少年条例と記す)に基づく有害図書規制を例にして、以下、条例と憲法との関係を考えてみたい。
 近年、東京都の青少年条例の有害図書の指定対象を大幅に拡大するという話が議論を呼び、指定対象の拡大は図書の発行の自由を侵害する、すなわち憲法21条の「表現の自由」を侵害する、という改正反対論が主張された。
 実は、このような有害図書規制反対論は今回初めて登場したものではない。青少年条例による有害図書規制はほぼ全都道府県に存在しており、かねてから、刑法上のわいせつ表現よりも幅広い性表現を規制対象とする青少年条例については、表現の自由の保障に抵触するという指摘がなされていた。
 青少年を取り巻く環境は地域ごとに様々であるがゆえに、地方自治体が各々の地域事情に応じた有害図書規制を設けることは正当であるようにも思われる。しかし、有害図書規制が、国の法律ではなく地方の条例によって設けられている背景には、国レベルにおいて、有害図書規制が表現の自由の保障に抵触するおそれが憂慮されているという現状がある。この現状をふまえると、地方自治体が有害図書を規制することを正当化するためには、本来、当該地方自治体に特殊な事情が存在しており青少年の健全育成のためには有害図書規制が不可欠であることが示される必要があるのだが、従来、このような特殊な事情は示されてきていない。
 条例による有害図書規制の合憲性の問題については、より詳しくは拙稿(「条例による有害図書規制の行方」新井誠・小谷順子・横大道聡編著『地域に学ぶ憲法演習』(日本評論社、2011年))で論じたが、有害図書規制をめぐっては、上記の問題点に加え、インターネットの普及に伴って県境を越えた表現物の流通が常態化している今日、都道府県単位での青少年条例に基づく有害図書規制の合憲性への疑義は、さらに強まっていると言える。

4.再び、憲法教育
 上に挙げた青少年条例は、憲法上の権利や自由と抵触するおそれのある条例の一例にすぎない。憲法上の疑義のある条例はこれ以外にも存在している。
 自分の暮らす地方自治体の条例が憲法に適合しているのかどうかは、他の地方自治体の住民には「他人事」なのであるから、当事者である当該地方自治体の住民が常に意識的に注視するほかない。そして、そのためには、一人一人の住民が、憲法上の権利や自由ないし条例制定権についての基本的な知識を身につけている必要がある。
 中学校・高等学校の社会・公民教育を通して、そのような知識・資質を身につけた住民が育成されてこそ、健全な地方自治が実現されるように思われる。

 
【小谷順子(こたに じゅんこ)さんのプロフィール】

1972年生まれ。慶應義塾大学大学院法学研究科博士後期課程単位取得退学。現在、静岡大学人文学部准教授。共編著に『地域に学ぶ憲法演習』(日本評論社、2011)、共著に『表現の自由T――状況へ』(尚学社、2011年)、分担執筆に『判例憲法』(有斐閣、2009)など。