教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
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権力者を規制するものとしての憲法教育を
2010年7月5日
佐藤敬二さん(立命館大学教授)
 

 小学生、中学生、もっとも多いのは高校生に対して法教育を続けており、授業回数は多い年で年間40回程度になります。教材は、法的現象に気づいてもらうことと、法を使う主体としての力の養成、を念頭において自ら作成しています。ただ、私自身の法教育の位置を確認する意味もあって、市販されている教材も可能な限り目を通すようにしています。それぞれの教材がそれぞれに工夫されているとは思うのですが、憲法教育に関しては決定的な欠陥があるように感じています。それは、憲法とは主権者たる国民が為政者の行為を規制するためのものである、という基本的性格を踏まえていない、あるいは、意図的にあいまいにした上で、国民が憲法を守らなければならないということを強調するものになっていることです。国民間においても憲法規範が重要であることは否定しませんが、このような教材では、為政者の作成した憲法が国民に権利を付与しているのであり、国民はそれを守らなければならない、というイメージを植えつけるだけのことではないかと思います。ここからは、為政者が国民のことを思って権利を付与するために憲法改正をするべきだといった、数年前にいくつか提案された改憲案の姿勢にもつながっていきます。教材の中には、国民の主体的力の形成を念頭においているものもみられますが、上の基本的性格を踏まえずして国民の主体形成のための教育を行っても、国民間の競争を激化させるだけの効果しかないように思います。
  一昨年、小学生に対して憲法の授業をしてもらいたいとの依頼がありました。校長先生の意図は、社会科の教科書にある人権規定をわかりやすく説明してもらいたいというとこにあったようですが、社会科の教科書に憲法の上のような基本的性格を記載した箇所はありませんので、やはり、憲法の基本的性格をしっかりと把握してもらうことこそが大切だと思い、その方向で授業内容を作りました。もちろん小学六年生ですから、「国家」とか「為政者」といった高度に抽象的概念を理解することは無理ですし、「内閣」「裁判」「議会」といったレベルでも、いくら首相や市長さんの名前を語ったり、議会や裁判所の写真を見せたとしても、抽象度が高く言葉だけを暗記するに留まってしまいます。そこで、身の回りの具体的紛争事例から、みんなで決めてよいか否かを考えさせることで、みんなで決めてはいけないこと(人権侵害の内容)のあることに気づいてもらうことから、法律でもそれを決めてはいけないと展開して、憲法の基本的性格を理解してもらう授業内容を組み立ててみました。後日、受講した小学生60数人全員が感想文を送ってくれました。伝えたかったことがうまく伝わったのか自信がなかったのですが、感想文の大半は、私の伝えたかった憲法の基本的性格について触れた内容でした。事前に、担任の先生方には教案をお送りしていましたので、担任の先生方からのアドバイスもあったのだろうとは思いますが、小学生の理解力に私自身が逆に感動を覚えたものでした。
  大学の法学入門の講義でも最初に、(あえて)公法と私法の区別から講義します。これは公法が為政者を規制することを最初に明確に示すことを目的としています。もちろん、実は私法であってもその側面は重要で、結果としては公法と私法の二分法の有効性に問題があるという結論にはなるのですが、為政者に対する規制という意識のない法学初学者に対しては、あえてそれを強調することこそが必要であると思っています。このような視点で『憲法を観る』を見てみると、とりわけ第五章の内容、そこでの「憲法を守らなければならないのは、国の権力を行使する人たち」と明確に述べている点、各章の最後で「国民の権利を守るために政治家や役所の人たち、そして裁判官が守らなければならないルール、それが憲法です」のナレーションが入っていること、これだけでも、本DVDを教材として推薦することができると思います。

 
【佐藤敬二(さとうけいじ)さんのプロフィール】

香川県生まれ
立命館大学法学部教授
専門は社会法。大学ではそれ以外に、附属高校法学講義、法学入門、ジェンダー論、法政情報論などを講義。
佐藤敬二さんのサイトもご覧ください。