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マンガ「ワンピース」と「日本国憲法」(イラク派兵差止訴訟で学んだこと)(その2)
2010年6月28日
川口創さん
(弁護士・イラク派兵差止訴訟弁護団事務局長)
 

声を上げた普通の市民
  僕たち日本は,アメリカとの「日米同盟」を重視するだけで,イラクの市民を「命ある人」,「家族のある人」,「幸せをつかもうとしている人」として見ませんでした。
  そして,多くのイラクの市民の命を奪う立場に立ちながら,過ごしています。
  そんな日本が許せない,そんな自分が許せない。加害者になりたくない。そのために、イラクから自衛隊の撤退をさせたい。
  その時気づくわけです。「日本政府を批判しているだけでは駄目だ,周りの政治に無関心な人たちを冷めた目で見ているだけでは駄目だ,声を挙げるのは自分なのだ」と。
  そして,どう声を挙げるか考えた時にこう考えます。
  「そうだ,日本には,戦争放棄を誓った憲法がある。憲法は政府の暴走を止めるためのものだ。この憲法を使って,イラクから自衛隊を撤退させよう」。
  そして,全国各地に普通の人たちが立ち上がり,憲法9条を使って,「自衛隊のイラク派兵は戦争放棄を誓った憲法9条1項に違反する」として、2004年2月に,名古屋の裁判所に「違憲判決」をもとめて裁判を起こしたのです(名古屋は航空自衛隊がイラクに派兵される拠点でした)。

「違憲判決」を勝ち取るまで
  裁判は,ネットや口コミで全国に広がり、全都道府県の市民3268人が名古屋の裁判に参加しました。老若男女,大学生も高校生も原告になりました。
  北海道や東京や大阪など各地でも同種の裁判が起こり,全国で合計5600人の市民が裁判の原告になり、800人の弁護士が弁護団に加わりました。
  しかし,裁判は苦難の連続でした。「違憲判決」は,この国ではほとんど出されていません。その「違憲判決」を求める闘いですから,大変なのは当たり前です。
  僕たちは,より事実に迫るため,イラクの隣国ヨルダンにも行きました。また,日本の新聞の切り抜きも毎日毎日やり抜き,そこから事実を立体的に積み重ねていきました。
  法廷では,イラクの市民が犠牲になっている深刻な事実を,若い女性弁護士が涙を流して訴えました。
  そして,2008年4月17日,名古屋高等裁判所は,ついに「自衛隊のイラクでの活動は憲法9条1項に違反する」との違憲判決を出しました。また,憲法が定める「平和的生存権」についても,それまでは単に「理想」が憲法に書かれているだけ,と言われてきたのですが,裁判所は,「平和的生存権は現実に使っていける市民の具体的権利だ」ということを正面から示しました。
  初の高等裁判所での憲法9条違反判決。初の「確定判決」。初の「憲法9条1項違反を言った判決」です。この判決は,とても画期的な判決でした。
  政府は当初,判決を見下し,これに従わない態度をとりましたが,ついに違憲判決が出た年の暮れには,自衛隊をイラクから撤退させました。
  自衛隊を撤退させたのは、市民が憲法を使った歴史的な成果です。

声をあげたからこそ
  この判決はなぜ出たのか,いろいろ理由は考えられますが,何より「裁判を起こした」から「判決が出た」のです。
  「どうせ駄目だ」と諦めていたらこの判決はありませんでした。「おかしいことはおかしい」と声をあげた。誰に命じられるのでもなく,5600人の普通の市民が,自分の頭で考え,行動し,闘いぬいた。その結果,勝ち取った「違憲判決」であり,「平和的生存権」なのです。
  「権利」は与えられるものではなく,市民の闘いの中で勝ち取っていくものです。まさにそのことを,僕たちは学んだわけです。
  この裁判は,名古屋では3268人の原告と100人の弁護団が力を合わせました。全国では5600人の原告と,800人の弁護団が力を合わせました。
  みな,激しい個性の持ち主ばかりでしたから(「ワンピース」の登場人物ほど、愛されるキャラクターばかりではありませんでしたから…)大変なことも多かったですが,楽しかったのも事実です。
  個性豊かな人たちで議論しあい,ともに行動し,失敗もし,その中で諦めずに前進してきたからこそ,違憲判決に到達できたのだと思います。

「自分らしく生きていく道」と憲法
  学校の中でも、また、社会に出ても「自分の頭で考え、責任を持って行動する」という選択肢を取らなくとも、生きていくことは可能ですし、その方が「楽」かもしれません。
  でも、どうせなら、個性を発揮しあい、互いを尊重しあった人たちと生きていく方が、ずっとおもしろいはずです。自分自身が自分の頭で考え、他人の考えや生き方も尊重できる人であれば、自然とそういう出会いにつながっていくはずです。
  みなさんには、社会に出たときに、自分の頭で考え行動し、また、他人との違いや、他人の生き方を尊重できる道を選択してほしいと思います。
  そして、「おかしい」と思ったときには声を上げ、同じ仲間を増やし、時には社会にも立ち向かっていく、そして社会をよりよくしていく。そういった生き方をしてほしい、そう思います。
  日本国憲法は、あなたらしく生きること、その豊かな生き方を支えようとしています。
  そしてもしかしたら、あなたにとってとても大事なもののために、あなたが社会に立ち向かわないといけないときがあるかもしれません。その時は憲法を使って、あなた自身が社会を変えていくことも出来るんだ、ということを覚えておいてほしいと思います。そして、簡単に自分の大事なものと、自分の道をあきらめてしまわないでほしいと思います。

 
【川口創(かわぐちはじめ)さんのプロフィール】

1972年埼玉県生まれ
現在名古屋第一法律事務所所属
イラク派兵差止訴訟弁護団事務局長