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男女平等のさらなる実現に向けて
2010年6月14日
植野妙実子さん
(中央大学理工学部教授・公共政策研究科委員長)
 

はじめに
  日本国憲法14条1項は、法の下の平等を定め、性別による差別の禁止も明らかにしている。また24条は家族生活における個人の尊厳と男女平等を定め、2項は、国家が法律制定に際して、個人の尊厳と男女平等に立脚すべきことも示している。

1、解釈上の問題点の克服
  これらの規定がありながら、十分に男女平等が進まなかったのは次の二つの点が問題となっていたからである。一つは「合理的差別」という解釈、もうひとつは「憲法規定の私人間効力」に限界があるという考え方である。「合理的差別」とは、平等は、等しいものを等しく取扱うことで、異なるものを異なる程度に応じて取扱うことは否定されないとするものである。確かにすべての人間を同一に処遇することがそもそも平等の実現になるかは疑わしい。しかし、異なる程度が何を意味するのかが問題となる。さらに男女間は私的な事柄に属すので、双方の合意によって決めればよい、憲法の規定は宣言的なものにすぎない、とする考え方も根強かった。
  こうした解釈に一定の楔を打ちこむことになったのが、女性差別撤廃条約である。1979年、国連で採択された女性差別撤廃条約は、社会及び家庭における男女の固定的・伝統的な役割分担の廃止を男女平等達成に不可欠とし、妊娠・出産以外の男女間の異なる取扱いを認めないものである。この条約によって、日本の男女平等をめぐる状況は以前と比較すると飛躍的に進歩した。「合理的差別」を極めて限定的にしかとらえることを許さず、また法上の平等の確立をはかるのみならず、慣行・慣習における差別も放任せず、事実上の平等の確立をめざしたからである。

2、日本の女性の現状
  女性差別撤廃条約やその後の女性問題をめぐるグローバルな動向を受けて、日本の女性問題の解決もはかられていった。しかし、その効果はあまりあがっていない。「人間開発報告書2009」は、日本の人間開発指数を世界10位、ジェンダー開発指数を14位、ジェンダーエンパワーメント指数を57位としている。ジェンダーエンパワーメント指数とは、女性が政治及び経済活動に参加し、意思決定に参加できるかどうか測るもので、具体的には、国会議員に占める女性割合、専門職・技術職に占める女性割合、管理職に占める女性割合、男女推定所得を用いて算出される。この数値が低いということはそれぞれその基本となる数値の低さを意味し、日本ではまだ女性が社会的に十分活躍していないことを示している。
  最近ではワークライフバランスということもいわれるようになり、仕事と生活の調和が課題となっている。とりわけ女性は、出産を機に約7割の女性が離職するといわれており、女性の就業継続は、厳しい状況にある。さらに子育てが終わったあと、再び就労を望んでも、自分のキャリアや専門的知識をいかした職には女性はつけないのが現状である。基本的なことは、一方にしわ寄せされることなく、男も女も仕事も生活も双方楽しめる状態であるかどうかということである。男も女も仕事をしながら、子育てや生活の充実を楽しめるかということが問われ、そのためのさまざまな社会制度が整っているのかが問題になる。日本の状況は、課題が大きいといわざるをえない。

3、男女平等の展望
  フランスでは1999年7月の第五共和制憲法の改正によって、パリテ(男女同数)という考え方を政治的決定の分野に導入した。さらに2008年7月の改正によって、この
パリテという考え方を政治的分野のみならず、職業的・社会的決定の分野にまで拡大した。このことにより、政治・労働・社会的活動の分野での女性の活躍を確保しようとしている。日本では、まだこれらの方面における女性の活躍をいわゆるクォータ制(わりあて制)によって確保しようという具体的な動きはないが、参考になろう。なお、このようなアファーマティブアクションやポジティブアクションは、女性差別撤廃条約4条において差別とならない特別措置として認められている。また男女共同参画社会基本法8条には積極的改善措置という言葉で導入は認められている。
  2010年4月中旬に政府の男女共同参画会議が、男女共同参画基本計画の改定に向けてとりまとめた中間整理は、2000年の第一次計画策定から10年を経ても、男女共同参画社会が実現していないことを認め、経済や政治などの各分野での指導的地位の女性割合を一層高め、選挙での女性候補者にクォータ制を導入することも盛込まれている。
  しかし、企業の管理職の女性割合を高めるのには、ワークライフバランスの推進が不可欠であるし、選挙での女性候補者の増加には、女性自身が政治に目を向け、候補者としてふさわしい政治的知識や経験、決断力を身につけることも必要となる。他方で、政治家のあり方も、冠婚葬祭や飲み会にばかり顔を出すキャンペーンを主とするのではなく、政策を真に問う活動が求められている。男女平等は、男を基準として良しとしていた政治活動のあり方に、人間という視点から、問い直しをはかるよいチャンスにもなるのだ。

 
【植野妙実子(うえのまみこ)さんのプロフィール】

中央大学理工学部教授・大学院公共政策研究科委員長
専攻:憲法、フランス公法
著書
『Justice,Constitution et droits fondamentaux au Japon』(LGDJ・2010)
『憲法二四条 今、家族のあり方を考える』(明石書店・2005)
『憲法の基本−人権・平和・男女共生』(学陽書房・2000)
『「共生」時代の憲法』(学陽書房・1993)
編著:『要約 憲法判例205』(学陽書房・2007)
編著:『ジェンダーの地平』(中央大学出版部・2007)
編著:『21世紀の女性政策?日仏比較をふまえて』(中央大学出版部・2001)
編著:『現代国家の憲法的考察』(信山社・2001)
共著:『法女性学への招待[新版]』(有斐閣・2003)
その他
毎年、フランスのエックサンプロバンスで開かれる国際憲法裁判学会に日本の憲法裁判の報告者として出席している。