教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
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子どもの権利を守るために
2010年6月7日
坪井節子(つぼいせつこ)さん
(弁護士・社会福祉法人カリヨン子どもセンター理事長)
 

 弁護士会の子どもの人権相談窓口には,いじめ、不登校、虐待、少年非行、子ども買春などの困難を抱え、傷つき苦しむ子どもたちの相談が寄せられる。カリヨン子どもセンターの子どもシェルターには、居場所を失い、生きるか死ぬかという危機にある子どもが避難してくる。自分など生まれてこなければよかったと、自分を責める子ども。誰も自分になど関心をもっていない、ひとりぼっちだと落ち込んでいる子ども。自分の将来は真っ暗だ、生きる意味もないと荒れる子ども。
  想像を絶するほどの苦しみを生きてきた子どもを前にすると、その場しのぎの助言や解決策など、口にすることもできなくなる。子どもの言葉に耳を傾け、どうしたらいいのだろうと、一緒に考えることしかできない。考えられる限りの選択肢を示しながら、他にも道はあるかもしれない、何がこの子どもにとって最善なのかと、はらはらしながら、見守るしかない。
  子どもは、行きつ戻りつ、悩みながらも、必死に考えている。そして、少しずつ感じだす。「自分はひとりぼっちではないらしい。一緒に考えてくれる人がいる。見捨てられていないらしい。生きていてもいいらしい。ここから立ち上がるのは、自分自身なのだ。自分の人生は、自分で考えて歩みださなければならないのだ。失敗しても、また一緒に考えてもらえる。手助けもある。勇気を出して、一歩を踏み出そう。」
  そして、いつか選択し、その道を歩みだす。たとえ外から見たらみすぼらしくても、光があたっていないように見えても、そんなことはどうでもいいことである。子どもが、自分にしか歩けない、自分自身の人生を歩みだす。その姿のなんと誇り高いことか。希望に満ち溢れていることか。
  人間としての尊厳を奪われ、傷つけられた子どもの現実。その場に居合わせ、子どもに寄り添う大人たちの役割。命の底支えを受けて、立ちあがっていく子どもの姿。子どもの権利は、その直中で見つめられることにより、明確になる。子どもがひとりの人間としての尊厳を有する存在であることが実感される。そして人間としての権利を傷つけられた子どもの権利回復、権利保障の重要性が確信されるのである。

 子どもは、ひとりの人間である。子どもは、生きる権利、成長発達する権利を守られなければならない。国連子どもの権利に関する条約に列挙されるとおり、国籍を持ち、名前を持つ権利、親に養育される権利、自由を持つ権利、学ぶ権利、遊ぶ権利等々を保障されなければならない。いかなる差別も受けず、最善の利益を保障され、年齢相応に意見を尊重される権利をもつ。そして虐待を受けたり、病気や障害などのために困難の中にある子ども、少数民族、難民の子ども、労働搾取、性的搾取を受けた子ども、犯罪に陥った子ども、薬物依存に陥った子ども、武力紛争下にある子ども等々に対し、国や地方自治体、そして子どもに関わるあらゆる大人たちが、傷つけられ、奪われた子どもの権利回復のために、最大限の支援策を講じなければならないのである。そして子どもは、少年非行予防のための国連ガイドライン(リヤドガイドライン)にあるように、この社会の重要な構成員として、大人のパートナーとして、生きていく。
  日本国憲法に定められた基本的人権の尊重は、大人ばかりでなく、もちろん子どもの人権の尊重を包摂する。しかし子どもの権利は、大人の権利の枠組み内にとどまるのではなく、子どもが成長発達する過程にあるという特別な存在であるゆえに、上述したような豊かな内容をもつ。
  子どもの権利は、大人が守ればいいということだけではない。子ども自身が、自分のもつ権利を知り、自ら行使できるようにならなければならない。子どもたちが憲法を学ぶときには、必ず同時に、国連子どもの権利条約を学んでほしい。憲法が、大人の世界の遠い話ではなく、子どもの権利条約による豊かな内実を得て、自分たちの権利を、生き生きと保障する根拠法であることを、知ってほしい。この世界が、子どもの権利を守り、支えるために闘い、働いていることを感じてほしい。
そして自分が生まれてきてよかったのだということ、ひとりぼっちではないということ、自分にしか歩けない自分の人生を歩んでいいのだということを、誇りをもって確信できるようになってほしいと、心から願う。

 
【坪井節子(つぼいせつこ)さんのプロフィール】

1978年早稲田大学第一文学部哲学科卒業。1980年東京弁護士会にて弁護士登録。1984年坪井法律事務所開設。1987年から、東京弁護士会子どもの人権救済センター相談員。東京弁護士会子どもの人権と少年法に関する委員会委員。いじめ、虐待、少年犯罪などの問題を抱えて悩む子どもたちの相談を受け、様々な形で支援する活動を続ける。2004年NPO法人カリヨン子どもセンターを設立し、子どものシェルターと自立援助ホームを運営。現在、社会福祉法人カリヨン子どもセンター理事長。