教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
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「冤罪事件をなくすために 〜憲法教育への期待」
2010年5月31日
瑞慶覧淳さん(日本国民救援会中央本部事務局長)
 

刑事裁判への国民の関心の高まり
  足利事件の菅家利和さんが再審(裁判のやり直し)裁判で無罪確定、最高裁で布川事件の再審開始決定や相次ぐ冤(えん)罪事件の無罪判決は、国民に大きな衝撃を与えています。また、それが裁判員制度のスタートとも重なり、冤罪を構造的に生み出す日本の刑事司法制度の抜本的改革の必要性をあらためて浮き彫りにしました。いま、刑事裁判について国民の関心が強まっています。あらためて、この機会に冤罪事件を憲法の立場から考えてみることは大切なことだと思います。

憲法違反の「自白」の強要と自白偏重裁判
  憲法38条は、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と、黙秘権を国民に保障し、つづいて「強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることはできない」、さらに「何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない」と、自白による裁判を厳しく禁止しています。
  しかし、多くの冤罪事件は、警察によってやってもいない犯罪を「自白」させられることが原因です。警察の密室での取り調べでは、「やっていない」と何度言っても、警察はいっさい聞く耳を持ちません。重大事件であればあるほど、朝から晩まで「お前がやった」「証拠がある」「自白すれば罪を軽くしてやる」などと「自白」を強要されるのです。足利事件の菅家さんもそうでした。そうやって作られた「自白」を裁判所は安易に信じてしまって有罪判決を書いてしまうのです。
  〈少年が冤罪事件に巻き込まれた大阪地裁オヤジ狩り事件の場合〉
  2003年2月、大阪市住吉区帝塚山の路上で、当時の大阪地裁所長が高校生風の4人組に襲われ全治3カ月の重傷を負い、現金6万3,000円を奪われるという事件が発生しました。近隣の少年たちが多数警察官に連行され、暴力的な取り調べにさらされました。
  少年たちの「自白」をもとに、2人の青年が起訴され裁判になりましたが、犯行現場近くの家の防犯カメラには青年らと違う人物が映っていたことから地裁・高裁ともに無罪。少年審判で少年院送致などの結論が出ていた3人の少年達も全員、無実であることが明らかになりました。いま無罪が確定した青年は、警察の責任を追及する国家賠償裁判を提訴してたたかっています。
  その裁判で少年たちは、警察のひどい取り調べの実態を以下のとおり証言しています。
●A少年の証言
  取り調べで黙秘権の意味がわからず、警察官に「黙秘権のことを聞いたら、『お前がやったんやろう』と言われた。髪の毛を捕まれて引っ張られ振り回された。首を捕まられて壁に押しつけられて『お前がやったんやろう』言われた。午後に気分が悪くなっても休憩させてくれなかった。医者にも診てもらえなかった。そして自白調書にサインさせられた。内容も(警察の)言われたとおりにした。」
●B少年の証言
「警察に脅されて、誰一人信用できなくなる状態までに追い込まれてウソの自白をしてしまった。少年院さえ行けば警察も来ないし、ずっとウソを続けきた。警察の取り調べは恐ろしいという気持ちだった。無罪になるまでは罪人ということ。無罪になって普通の人間になれたのが嬉しかった」
このように、警察がいったん犯人と見込んだ少年に対して、自白を強制する実態が明らかにされました。多くの少年冤罪事件では、精神的・身体的にも幼い少年達が親や弁護士の付添もない長時間の取り調べで、警察が言うままに「自白」調書が作られ、事件に全く関係ない少年達が冤罪に巻き込まれています。

冤罪になくすために期待される憲法教育の重要性
  冤罪と「自白」の問題について書きましたが、冤罪事件の原因は、それに限られたものではありません。被告人に有利な証拠を検察官が隠し、誤った判断で冤罪に陥れられる事件もあります。これが、憲法の保障する「公正な裁判」と言えるでしょうか。
  9条も世界に誇れる日本国憲法の魅力ですが、「人身の自由」についても、憲法は31条以下10条も詳しく具体的に規定しています。これは、世界でも珍しいと言われています。逮捕、捜査、押収について原則として裁判所の発する令状を必要としたり、不当な勾留や拷問を禁じたり、公正な裁判を実行するために証人尋問権や弁護人依頼権を認めています。そして、たとえ「犯人」とされ有罪とされても、「残虐な刑罰」は禁止されています。(これは、戦前の日本国民の人権が踏みにじられた反省に生まれたもので世界的には誇ることではないのかも知れませんが?)
  まだまだ、日本国憲法から冤罪を生まないための知恵や力を学ぶ必要があると思います。
  裁判員裁判がスタートしました。中学生・高校生も、あと数年も経てば裁判員となって実際に具体的事件の判決に直接関与することになります。だから、なおさら憲法がめざす捜査・裁判のあり方、人権保障や国民の権利を学び、権力の不当な行使を監視し、抵抗力をもった主権者を育てる憲法教育が期待されます。

 
【瑞慶覧淳(ずけらん あつし)さんのプロフィール】

1957年沖縄県生まれ、1980年立命館大学U部法学部卒
現在、日本国民救援会中央本部事務局長、再審・えん罪事件全国連絡会運営委員。
ビラ配布・言論弾圧事件や再審・冤罪事件などの支援活動を行っている。
「冤罪入門」(発行・日本評論社、再審・えん罪事件全国連絡会編)