教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
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憲法を学ぶことは、生きる力を持つこと
2010年4月12日
上原公子さん(前国立市長)
 

 今一番心配なことは、貧困がますます深刻になり、希望する学校を断念せざるを得ない子どもがいるだけでなく、せっかく入った大学や高校を辞めなければいけない子どもがいることです。中には、親の失業で極貧の生活の中で栄養失調になったり、国民健康保険料が払えないため、骨折しても医者にかかることができずに、足が曲がったままになった子どももいます。
  これは、遠い国の話ではなく、日本で起っていることです。
  貧困は、確実に子どもの体と心をも蝕むのです。
  こんな情況を承知の上で、大阪府の橋下知事は「定時制高校の教科書無償の廃止」と「私学助成金削減」を打ち出しました。高校生たちが署名を集め知事に反対を訴えましたが、知事は「この国は自己責任論が原則だから、それが無理だったらあなたが政治家になって変えるか、この国から出て行け」といったのです。高校生達は「学ぶ権利は自己責任ではなく、基本的人権である」と反論しました。その結果、年収350万円以下の家庭の高校学費の無償化が実現しました。
  高校生達が、理不尽な知事の言葉に堂々と主張できたのは、「憲法や子どもの権利条約で守られていることを学んできたから」なのだそうです。そしてこの経験から「権力者や『自己責任論』に打ち勝つためには自分たちの権利を知ること、学んでいくことが大切だとわかった」といっています。なんと素晴らしい子どもたちなのでしょうか。彼らの勇気のお陰で、貧困の中で悩み苦しんでいたたくさんの子ども達が救われたのです。
  憲法第26条には子どもには教育を等しく受ける権利と、教育を受けさせる義務が書いてあります。そして、第25条には健康で文化的な最低限度の生活を営む権利も書いてあります。子どもの貧困に象徴されるような悲惨な暮らしの人たちがいれば、直ちに救いの手を差し伸べるのが国の責任であり、身近な地方行政の一番の仕事です。弁護士をしていた法律の専門家であるはずの橋下知事に対して、見事に反論した高校生たちは、憲法が貫く「基本的人権」をきちんと学び理解していたのです。
  憲法の前文に「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」とあります。
政府は、ときに誤ることがあります。その時、過ちを正すのは主権者の役割です。国家という権力者が過ちを犯さないように、憲法には国民の基本的人権が書かれてあるのです。だからこそ、憲法に示された「基本的人権」を主権者である私たち自身が知ることが、重要なのです。
  日本の教育の中では、ほとんどが憲法のことをじっくり学ぶことがありません。そのため、憲法は難しいという先入観があります。
  しかし、私たちが、基本的人権とか民主主義とか国民主権とか学ぶ場所は、実は教科書だけではありません。日々の暮らしの中で、その権利を使うことにより成長させることができるのです。そのことを、実践できるのが、私たちが住む自治体です。
  日本国憲法では、第8章をわざわざ設けて「地方自治」のことが定めてあります。
  その第92条で「地方自治の本旨に基づいて」という言葉が出てきますが、これは地方の政治は、その地域に住む住民の意志で決められるということです。自分の住むまちはどんなまちにするのか。子どもの育つ環境は、どうすればいいのか。そのことを決めるのが、主権者である住民です。ところが、住民が自分の権利を知らなければ、政治を担う権力者のなすがままになってしまいます。住民自治は憲法の基本的人権の保障を発揮できる場所として、また学びの場として、基礎になるのです。まさに、大阪の高校生が経験したように、憲法を学ぶということは、一人一人が自分らしく生きるための権利を知り勝ち取っていくことです。
  1996年に強行採決で改正されてしまった「旧教育基本法」の前文には、「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本的において教育の力にまつべきものである。」とあります。教育こそが、民主主義社会を築き上げる力であることを明確に謳っていました。
  子ども達が、憲法に示された権利を学び、そのことを暮らしの中で実現させていく力を養っていく。このことが、自分らしく生きる力にもなります。
  子どもが悲惨な中で放置されている社会に、未来はありません。
  可能性をたくさん持った中・高生の皆さんが、希望を持って生きていくためにぜひ分りやすく映像で描いた「憲法を観る」で学んで欲しいと思います。学ぶことは、理想を切り拓く力になるのですから。

 
【上原公子さんのプロフィール】

1949年5月3日(憲法記念日)宮崎県生れ。
国立市市会議員を経て都内初の女性市長として国立市長を2007年4月まで2期、務めた。
<著書>
『〈環境と開発〉の教育学』(同時代社)
『どうなっているの? 東京の水』(北斗出版)
『地球を救う133の方法』(家の光協会)
『国民保護計画が発動される日』共著(自治体研究社)
『しなやかな闘い』(樹心社)