教員が集う 中高生のための映像教室 『憲法を観る』
 
 
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中学生・高校生たちに憲法を伝える
2010年1月27日
伊藤真さん(伊藤塾塾長・法学館憲法研究所所長・弁護士)
 

 私は、法律家を目指す人たちが司法試験などに合格できるよう、日々法律を教えています。毎年多くの学生や市民が私の塾に入塾してくださり、勉強に励んでいます。その塾生たちに日常的に接して感じるのですが、彼ら彼女らの多くが学校で憲法の規定とその考え方をよく学んできています。それは中学校や高校の社会科の先生方の熱心な教育の賜物だと思います。
  ただ、司法試験をめざす大学生などが憲法の基本的な考え方を身につけているかというと、私は必ずしもそうでないように感じます。そもそも憲法は何のために存在するのか、憲法と他の法律との基本的な違いは何なのか、憲法を守らなければならないのは誰なのか、などについて正確に理解している学生は多くありません。かなりの学生が"法律の中で一番重要なのが憲法であり、国民が一番に守らなければならないのが憲法だ"と思っているのではないでしょうか。
  法律は国民の権利を守るためにお互いの権利を制限するもので、国民には法律を守ることが求められます。一方、憲法は国民の権利を守るために、政治家や公務員など権力を行使する人たちが守らなければならないものです。法律は国民を縛り、憲法は権力者を縛るものと言えます。こうした憲法と法律の違いや憲法の存在意義はあまり学生たちに伝わっていません。
  私は、こうした状況になっている背景として、一つには、中学生や高校生の社会科の学習が受験で必要となる知識の吸収に追われてしまっていることがあると思います。物事を考える力よりも知識偏重の今日の教育と社会状況を変えていかなければならないと思います。
  もう一つには、大人たちも憲法の基本的な存在意義を学んでいないことがあると思います。私は毎年市民団体に招かれ100件を超える講演をしていますが、毎回のように「憲法を守らなければいけないのは国民ではなく、権力者だったんですね。目から鱗でした」という感想をいただきます。憲法は国民の権利を守るために権力を制限する規範だということ、この立憲主義の考え方が広がる必要があります。

 私は学校に招かれ、中学生・高校生たちに憲法の話をする機会もあり、「個人の尊重」ということが憲法の基本的な考え方なのだとお話します。その際、(1)「人はみな同じ」、誰もがかけがいのない存在だということ、(2)「人はみな違う」、勉強が得意な子も、運動能力が高い子もいるし、みな趣味も違って当たり前だということ、この両方をお話するのです。すると、中学生・高校生たちから「他人と違っていてもいいんだ、ということがわかりました」という感想をよくいただきます。生徒たちは学校で、できるだけ整然と、同じように行動するように求められるところがあるでしょう。また、他人と違うところがあると集団生活しづらい雰囲気が生まれることもあるようです。しかし、中学生・高校生たちが、他人と違っても自分なりに生きていくということ、お互いが「個人の尊重」ということの意味を理解し、元気になっていく姿に接すると本当に嬉しくなります。いま、様々な理由で将来に希望を見出せない中学生・高校生が多くなっているのではないでしょうか。憲法の基本的考え方を広げることで、多くの中学生・高校生が元気になるよう、私は引き続き微力を尽くしていきます。

 私は昨年『中高生のための憲法教室』(岩波ジュニア新書)を出版しましたが、今般中高生向けの憲法映像教材の製作にもたずさわってきました。全国各地の社会科の先生方のご意見もいただきながら、中高生たちに憲法の基本的な価値やその存在理由を理解していただき、将来の主権者として元気にはばたいてもらえるよう、ともに頑張っていく所存です。