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まずは憲法改正を提起するにふさわしい国会づくりを

2013年7月18日

植村勝慶さん(國學院大學法学部教授)

 安倍首相は、憲法96条が定める憲法改正手続を改正することを主張している。具体的には、国会が憲法改正を発議する条件である「総議員の3分の2」を「総議員の過半数」にしたいようである。もしそのような憲法改正案が提案されると、現行の改正手続にのっとり改正がなされるはずであるから、改正されるべき手続をその改正手続で改正するということを求められることになる。いままさに行っている手続が「おかしい」「変えるべきである」と言いながら、その手続に従っているのはさぞや不思議な感覚だろう。
 さて、このような提案は、「国民主権の制約を取り除く」という理屈で説明されることがある。「総議員の3分の2」という条件が厳しすぎるから、国民には憲法を改正するチャンスが巡ってこないのである、と言いたいらしい。しかし、この条件は、国民を制約する条件ではなくて、国会の権限を制約する条件である。国会が、国民に憲法改正の承認をせっつくことを安易にしてはいけないという制約を課していると考えるべきである。
 なぜ安易にしてはいけないか。それは、国民が承認するに値するしっかりとした憲法改正の発議をしてもらいたいからである。国民は、その発議に対して、イエスか、ノーしか言えない。そうであれば、それ以前の国会審議の段階で、数多くの関連する論点について議論を尽くし、改正することで何がどう変わるのかを明らかにして、国民に発議してもらいたいものである。
 同じ「過半数」であっても、「出席議員の過半数」と「総議員の過半数」は、形式的には、かなり違う。国会は総議員の3分の1を定足数とし会議を開けるから、総議員の6分の1プラス1議員で法律は各議院で可決される。しかし、多くの法律がほとんどの国会議員が出席して審議され、可決されているし、そうあるべきである。だとすれば、実質的には、「出席議員の過半数」と「総議員の過半数」は、かなり近い数字になるはずである。憲法改正を国会が発議する条件を「総議員の過半数」にしてしまうと、法律の可決の条件と憲法の改正案の発議の条件が限りなく近づいてしまう。それでは、あまりにも憲法の扱いが軽すぎないだろうか。
 「総議員の3分の2」という条件も、それほどは厳しくはない。昨年暮れの衆議院議員総選挙では、戦後最低の投票率となったこともあり、自由民主党は、総定数480議席の6割を超える294議席を獲得して、もう少しで3分の2の320議席に届く勢いである。しかしながら、詳細に見れば、小選挙区で自由民主党の候補者に投票したのは、全有権者の24.67%、得票率が43.01%そして議席獲得率は79%である。比例代表区で自由民主党に投票したのは、全有権者の15.99%、得票率が27.62%そして議席獲得率は31.67%であった。
 これだけ水増しされている。「総議員の3分の2」という条件は、一見して「国民の3分の2」が納得しそうなことを決める条件設定になっているようであるが、決して現状はそうではない。日頃の政策論議のみならず、国会が憲法改正論議を真剣に考えるのであれば、まずは憲法改正を提起するにふさわしい国会づくりをしてもらうことが大切である。例えば、もっと国民の意見を十分に反映できる選挙制度を実現することが必要であろう。そのためには小選挙区制を改めること、議員定数の不均衡を是正することが急務である。両院の「ねじれ」を解消することが大切であると言われるが、それもまた国政選挙の結果である。現在の選挙制度が、国民におけるわずかな意見の変動を過大に選挙結果に反映させる小選挙区制を中心につくられていることが大きな原因である。したがって、両院の「ねじれ」が問題ではなくて、国会と国民との「ねじれ」を生じさせている選挙制度を改革することが必要である。自由民主党の憲法改正案では、議員定数不均衡について、「各選挙区は、人口を基本とし、行政区画、地勢等を総合的に勘案して定めなければならない」とすることを提案しており、人口要件を緩和することを試みているが、議員定数不均衡の問題を真剣に受け止めていない証拠であろう。解説では、衆議院議員選挙区画定審議会設置法3 条1 項の規定を参考にしたというが、「その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2 以上とならないようにすることを基本」とすべきとする最も枢要な点がこっそりと除かれており、あまりにも不誠実であろう。
 両院の「ねじれ」を解消するために、一院制を主張されている。確かに2つの議院があるから「ねじれ」の可能性があるのであり、一院であれば「ねじれ」が生じることはありえないという点で根本的な解決方法だと言いたいのかもしれない。しかし、国民の意見を国政に反映するチャンネルを半分にすることが望ましいとは思えない。また、両院があるから、3年後の参議院と4年ごろの衆議院の組み合わせで、1、2年ごとに民意が問われることになっている。面倒でも、こまめに民意を問いつつ、政治を進めてもらいたい。
 一院制については、実は、自民党内でも合意形成がむずかしいらしい。改正草案の解説は、「一院制の導入の具体化には、詳細な制度設計を踏まえた慎重な議論が必要ですが、今回の作業の中でそれを行うのは困難であり、党内での合意形成の手続がなお必要と考えました。」という。他の改正案についても、もう少し慎重な議論が必要であると思う。そして、このように、無理矢理に決めることをしないということが大切である。「決めることのできる政治」が強調されるが、何をどう決めるのかについて合意がないからこそ、決められないのであり、自分が決めてほしいことが決まらないからと言って「決められない」を一方的に非難するのは、いかがなものであろうか。そのような人たちが「日本人らしさ」を同時に主張していることに違和感を抱くのは、私が古いからであろうか。

 

◆植村勝慶(うえむらかつよし)さんのプロフィール

國學院大學法学部教授(憲法学)。
著作として、『現代憲法入門講義(新3版) 』(共著、北樹出版、2011年)、 『日本国憲法の多角的検証』 (共著、日本評論社、2006年)、 『新訂版 現代憲法入門』 (共著、一橋出版、2004年)など。

 


 

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