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この附帯決議は立法史上の汚点 

2013年5月27日

水島朝穂さん(早稲田大学教授・法学館憲法研究所客員研究員)

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* 以下は水島朝穂教授が自身のWEBサイト「平和憲法のメッセージ」の「今週の直言」に掲載した論稿(2007年5月21日付け)です。憲法改正「国民投票法」をめぐる問題状況が的確に整理・分析されており、水島教授の了承を得、転載します。(法学館憲法研究所事務局)
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  弁護士の猿田佐世さんは、「国民投票法」の審議のほとんどを傍聴して、メールマガジンで状況を報告し続けた。本業そっちのけ(失礼!)で、毎日のように国会に 通いつめた彼女のパワーには脱帽である。メルマガ第42号(2007年5月14日午後1時7分)のタイトルは、「附帯決議がこんな(18個)についてる法案は…?」である。「参議院の委員会で可決された法案は、附帯決議だらけ。なんと、18項目。附帯決議としては、最多記録。郵政民営化法案は、これより少ない15項目だったが、それでも『非常識』という声があがっていた」とある。これが引用される形で、ネット上で「附帯決議の多さ」がいわれるようになる。また、成立直後のテレビへのコメントで、ある野党議員は、「18本もの附帯決議がついたこと自体、この法律には重大な問題がある」と語っていた。「国民投票法」の数々の問題条項については、すでに5月3日付「特別直言」で指摘したので、今回は、18項目の異様な附帯決議にしぼって、その問題点を指摘することにしたい。
  そもそも「附帯決議」とは何か。国会の委員会が法案や予算案の採決に当たり、所管する省庁に対する運用上の努力目標や注意事項などを盛り込む決議をいう。野党側が法案に賛成する際の条件として付けることも多い。審議過程で野党側が求めた修正事項のうち、法案のなかに盛り込まれなかった事項について、政府に善処を求めることもある。附帯決議は政治的・道義的なもので、法的拘束力はないとされている。
  附帯決議の例として私の頭に残っているのは、「国旗・国歌法」のそれである。ただ、この法律が制定されたとき、私はドイツで在外研究していたので、制定過程のリアルな記憶はない。この法律には義務規定や罰則はないが、審議過程でも、実際に強制が行われるのではないかという危惧が表明された。そこで、強制にわたらないように注意を喚起する附帯決議がつけられたわけである。だが、東京都の「10・23通達」(2003年)による「君が代」斉唱強制など、附帯決議など存在しなかったかのような状況が、いま学校社会に広がっている。
  さて、5月11日に参議院憲法調査特別委員会が行った「日本国憲法の改正手続に関する法律案に対する附帯決議」は18項目あり、それを猿田弁護士は「最多記録」と書いているが、もっと多い附帯決議もある。20項目を超えるものでは、例えば、次のようなものがある。
・参議院厚生労働委員会(05年6月16日)介護保健法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議 → 24項目
・参議院厚生労働委員会(05年10月13日)障害者自立支援法案に対する附帯決議 → 23項目
・参議院文教科学委員会(03年7月8日)国立大学法人法案…に対する附帯決議 → 23項目
・参議院厚生労働委員会(06年6月13日)健康保健法等の一部を改正する法律案…に対する附帯決議 → 21項目
・参議院厚生労働委員会(05年6月28日)障害者の雇用の促進等に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議 → 20項目
  厚生労働関係が多いのは、政策的に与野党が対立しやすい分野だからだろう。すべての附帯決議を調べていないので、「最多記録」は確定できないが、18項目が多いことは確かだろう。昨年(06年)に絞ってみても、少ないもので2項目、5から9項目くらいの間が多い。法務委員会関係で、「刑事施設及び受刑者の処遇に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議」(06年6月1日)が13項目と、比較的多い方である。今国会では、07年4月10日の裁判員法改正法に付けられた附帯決議が10項目と多かった(発足前なのに、この制度の深刻な問題性を反映している)。だが、やはりこの「国民投票法」の18項目はダントツである。
  ここで、その18項目を列挙してみよう。参議院のサイトで読むことができるが(PDF)、実際の決議は、「一、」「一、」という形をとり、なぜか通し番号になっていない。ほとんどの附帯決議が「一、」「二、」「三、」となっているのに不思議である。ここでは、便宜上、「一、」「一、」を@Aという形に書き換えたことをお断りしておきたい。
 

「日本国憲法の改正手続に関する法律案に対する附帯決議

平成十九年五月十一日

参議院日本国憲法に関する調査特別委員会

@国民投票の対象・範囲については、憲法審査会において、その意義及び必要性の有無等について十分な検討を加え、適切な措置を講じるように努めること。
A成年年齢に関する公職選挙法、民法等の関連法令については、十分に国民の意見を反映させて検討を加えるとともに、本法施行までに必要な法制上の措置を完了するように努めること。
B憲法改正原案の発議に当たり、内容に関する関連性の判断は、その判断基準を明らかにするとともに、外部有識者の意見も踏まえ、適切かつ慎重に行うこと。
C国民投票の期日に関する議決について両院の議決の不一致が生じた場合の調整について必要な措置を講じること。
D国会による発議の公示と中央選挙管理会による投票期日の告示は、同日の官報により実施できるよう努めること。
E低投票率により憲法改正の正当性に疑義が生じないよう、憲法審査会において本法施行までに最低投票率制度の意義・是非について検討を加えること。
F在外投票については、投票の機会が十分に保障されるよう、万全の措置を講じること。
G国民投票広報協議会の運営に際しては、要旨の作成、賛成意見、反対意見の集約に当たり、外部有識者の知見等を活用し、客観性、正確性、中立性、公正性が確保されるように十分に留意すること。
H国民投票公報は、発議後可能な限り早期に投票権者の元に確実に届くように配慮するとともに、国民の情報入手手段が多様化されている実態にかんがみ、公式サイトを設置するなど周知手段を工夫すること。
I国民投票の結果告示においては、棄権の意思が明確に表示されるよう、白票の数も明示するものとすること。
J公務員等及び教育者の地位利用による国民投票運動の規制については、意見表明の自由、学問の自由、教育の自由等を侵害することとならないよう特に慎重な運用を図るとともに、禁止される行為と許容される行為を明確化するなど、その基準と表現を検討すること。
K罰則について、構成要件の明確化を図るなどの観点から検討を加え、必要な法制上の措置も含めて検討すること。
Lテレビ・ラジオの有料広告規制については、公平性を確保するためのメディア関係者の自主的な努力を尊重するとともに、本法施行までに必要な検討を加えること。
M罰則の適用に当たっては、公職選挙運動の規制との峻別に留意するとともに、国民の憲法改正に関する意見表明・運動等が萎縮し制約されることのないよう慎重に運用すること。
N憲法審査会においては、いわゆる凍結期間である三年間は、憲法調査会報告書等で指摘された課題等について十分な審査を行うこと。
O憲法審査会における審査手続及び運営については、憲法改正原案の重要性にかんがみ、定足数や議決要件等を明定するとともに、その審議に当たっては、少数会派にも十分配慮すること。
P憲法改正の重要性にかんがみ、憲法審査会においては、国民への情報提供に務め、また、国民の意見を反映するよう、公聴会の実施、請願審査の充実等に努めること。
Q合同審査会の開催に当たっては、衆参各院の独立性、自主性にかんがみ、各院の意思を十分尊重すること。
右決議する。

  項目の相互の関連や体系性などはまったく考慮せず、ダラダラと18項目の決議が羅列されている。審議過程で野党側から出てきた主張なども、そのまま投げ込んだようなところがある。「国民投票法」は議員立法なのに、提案者の側からたくさんの附帯決議が付けられていることも特徴である。
  18項目の内容を眺めてみると、法律施行に伴う必要な措置や、審議過程での積み残しの論点が書かれているというだけにとどまらない。そこにはきわめて重大な問題が含まれており、その異様さにたじろぐほどである。『読売新聞』は18項目すべてを紹介したが、新聞各紙は、数項目を「要旨」にまとめて伝えたところもある。18項目から何を拾い、何を落としたかで、担当記者のセンスがわかる。
  18項目のなかで最も異様なのは、Kである。「罰則について、構成要件の明確化を図るなどの観点から検討を加え、必要な法制上の措置も含めて検討すること」とある。これを初めて見たとき、思わず目を疑った。新聞各紙の附帯決議要旨の紹介で、このKを入れていないものもあった。法学部出身の記者ならば、このKの異様さには気づくはずである。なぜなら、罰則の構成要件の明確化が図られていないのであれば、もっと慎重な審議を行い、それを明確にするよう、修正案を提出するなどして「必要な法制上の措置」をとるべきだった。それを急いで採決して、附帯決議でこんなことを書いている。これは審議の手抜きと 拙速を自ら告白するようなものだろう。
  本来、附帯決議は、「構成要件が明確なものとして可決された」罰則について、人権保障の観点から、その運用上の注意を促すもののはずである。「構成要件が不明確であるが可決された」ために、今後構成要件を明確にするように求めるというのは、立法府の仕事として恥ずかしいを通り越して、信じられない、あり得ない話である。
  野党が、政府提出法案に欠けている政策について附帯決議の形で書き込むことで、与党と政治決着をはかるということはしばしばあることである。だが、それはあくまでも政策論である。Kでいう「構成要件の明確化」は政策論ではなく、法律論のなかでも最も重要な憲法論に関わる問題であり、それを附帯決議に送り込む感覚はまったく理解できない。従来の附帯決議の例から見ても、Kはきわめて異例であって、何がなんでも法案を成立させようという与党の節操のなさが集中 的に表現されている。
  「国民投票法」第8節「罰則」には、109条(組織的多数人買収及び利害誘導罪)以下さまざまなものが列挙されている。103条には公務員・教育者の国民投票運動規制が定められているが、その罰則が当初はこの第8節にあった。それが審議過程で削除されたのだが、Kは今後、公務員・教育者についても「より明確な構成要件」をもった罰則を「復活」させたいということの表明なのだろうか。
  なお、同法100条で「学問の自由…を不当に侵害しないように留意しなければならない」とあるが、附帯決議のJでは、「教育の自由等を侵害することとならないよう特に慎重な運用を図る」を加えた。Mでは国民の自由一般の「萎縮」について触れている。100条で「学問の自由」をいい、附帯決議で「教育の自由」を加える。Mで国民の自由一般の「萎縮」について触れていることともあいまって、大学や学校に対する萎縮効果(チリング・エフェクト)満載の法律であることを、附帯決議は正直に語っている。この法律の罰則が適用されて訴訟になって、裁判所で構成要件の不明確性が問われた場合、この附帯決議は、「違憲の疑いを自覚しながら、十分審議せずに急いで制定した」として、違憲主張の根拠になるだろう。
  さて、次に問題となるのは、Eの最低投票率制度への言及である。「低投票率により憲法改正の正当性に疑義が生じないよう、憲法審査会において本法施行までに最低投票率制度の意義・是非について検討を加えること」とあるが、このような重大な問題は、附帯決議ではなく、今回の法案審議のなかでその是非の議論が十分になされるべきだったのではないか。「憲法改正の正当性」に関わるような重要な問題である。それを附帯決議に持ってきたこと自体、法案審議の不十分さを示しているとはいえまいか。しかも、「憲法審査会」は改正原案を審議する場であり、手続上の重要問題である最低投票率の審議になじむ場ではない。この附帯決議は、最低投票率については「もう検討しない」といっているのに等しい。
  さらに問題なのは、この附帯決議は一体、誰に向かってなされているのかということである。附帯決議には、「政府は、次の事項について、適切な措 置を講ずるべきである」などの文言が冒頭に付され、この後に項目が列挙されることが多い。だが、今回の附帯決議には、そのような文言がなく、附帯決議の「名宛人」が不明確である。政府なのか、それとも全体としての国会なのか、参議院の委員会だけなのか。誰がこの附帯決議によって拘束されるのかが、まったくわからない。政府に対して、最低投票率制度や構成要件の明確化を要求するのは筋違いというものだろう。参議院が衆議院を「名宛人」として決議をして、衆議院の審議を拘束できるかといえば、二院制の原則からして、それはむずかしいだろう。「これは参議院の委員会の附帯決議であるから、衆議院はこの附帯決議に拘束されない」という意見が衆議院側から出てきても不思議はない。
  附帯決議は、内閣提出法案(閣法)に対して、制度そのものは認める(立法権の行使)が、その運用(行政権の行使)について国会が注文をつけるというのが通常のパターンである。他方、議員提出法案であることが前提となっている憲法改正手続法案(国民投票法案)の審議において、構成要件の明確化や最低投票率制度の導入といった、制度そのものの導入(立法権の行使)について注文をつけられる「名宛人」は、国会しかない。自分で自分に制度の根幹に関わる重要な注文をつけるのならば、なぜ今回の法案の審議のなかでしっかり議論を深めなかったのか。自分で自分に突っ込みを入れているだけの愚かな附帯決議であるとしかいいようがない。そこまで国会は落ちたのだろうか。
  なお、議員立法の審議の場にまで、行政府の長である総理大臣がしゃしゃり出てくる異例の展開(これは参議院の見識が問われる)だったので、通常の法律とは比較にならないほどに政治力学が働いていることは十分に推測される。附帯決議Qが、「衆参各院の独立性、自主性にかんがみ、各院の意思を十分尊重すること」と書いているのは何とも皮肉である。法律論的にどのようなほころびがあろうとも、「総理の任期中に憲法改正をするために、すみやかに国民投票法を成立させる」という政治論がすべてに優先したのだろうか。18項目の附帯決議と、5月11日の参議院憲法調査特別委員会の異様な風景、すなわち、議員立法の提案筆頭者が座る席に安倍首相が座って、答弁している姿は、日本立法史上の「汚点」として残るだろう。

 

◆水島朝穂(みずしま あさほ)さんのプロフィール

早稲田大学法学学術院教授。
『現代軍事法制の研究』(日本評論社)、『武力なき平和−日本国憲法の構想力』(岩波書店)、『18歳からはじめる憲法』(法律文化社)、『東日本大震災と憲法—この国への直言』(早稲田大学出版部)など著書多数。
「平和憲法のメッセージ」というホームページを開設。

 


 

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