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憲法24条を大切にしよう

2013年5月13日

二宮 周平さん(立命館大学法学部教授)

自民党の憲法改正案

 「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」。これを憲法24条の第1項として新設しようというのが、自民党の憲法改正案です。2010年国勢調査の速報値によれば、1人暮らし世帯が全世帯の31.2%と最多となり、夫婦と子から成る世帯は28.7%にまで下がっています。このような現実の変化があるのに、個人ではなく、家族を社会の基礎的な単位として位置づけるのはなぜなのでしょう。私たちは学校、勤務先、地域、趣味のグループなどでお互いに助け合って暮らしています。なぜ家族だけ、憲法で助け合いを義務づけられるのでしょう。そもそも現在の24条では何か不十分なことがあるのでしょうか。

憲法24条の意義は

 今から115年前、1898(明治31)年に制定された民法旧規定(明治民法)では、家族の基本は家制度でした。家長である戸主が家族を統率し、戸主の地位と家の財産は、原則、長男子が承継する制度です。家族は戸主の同意がなければ婚姻できません。また明治民法では、妻は「無能力者」とされ、夫の同意なくして契約など法律上の行為ができません。夫が一家の主人として夫婦の財産を管理し、子の親権者となります。さらに家の存続が何よりも重視され、妻に子どもができない場合には、夫は妻以外の女性との間に子をもうけ、後継ぎを確保することが公然と許されていました。他方、妻は夫以外の男性と交われば、姦通罪として処罰の対象となります。
 このような不平等な仕組みを否定し、家族を民主化するために憲法24条が制定されました。だからこそ、第1項に「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」と規定したのです。当時の新聞を見ると、「新憲法実施のよろこび 男女の権利は同じ 結婚は父母の同意なくできる」(大分合同新聞1947年5月3日)、「堅苦しい戸主権よさらば 男女は完全平等に」(新潟日報1947年5月4日)など、大歓迎されています。

個人を基礎とする改正民法

 1947年12月に改正された民法は、日本国憲法を根拠に、家制度を廃止し、男女平等を徹底しました。妻の無能力規定や姦通罪も廃止され、夫婦が各自の財産を所有し管理する別産制、父母の共同親権などが規定されるなど、当時、世界で最も男女平等度の高い立法でした。また死別・離別に伴う女性の不利益をなくすために、妻の相続権や離婚の際の財産分与の権利が新設されました。民法は、家族を、夫と妻、親と子、親族相互、個人と個人の関係として規定し、個人を基礎に置いたのです。もはや民法に家族を団体として捉える規定は存在しません。まさに憲法24条2項「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない」のとおりです。

日本社会の変化と家族の役割

 1960年代以降、日本は高度経済成長を果たします。この時代に標準とされたのが、夫婦と未成熟の子から成る核家族であり、かつ「男は仕事、女は家庭」という性別役割分業型の家族でした。1980年代、大手の宅配便会社が従業員の家庭に届けた『主婦の健康管理術』には、「一家の主婦は家計のやりくりから、家族ひとりひとりの面倒をみ、炊事、洗濯、掃除など、家庭を維持していくための活動、いいかえるならば家事のすべてを担当しています。夫がすこやかに職場で全力投球し、子どもを丈夫に育て、お年寄りの世話をし……」と続きます。家庭の中で女性が家事・育児・介護を担えば、政府は社会福祉予算を節減できます。経済効率を優先し、家族を「含み資産」と位置づける日本型福祉社会の誕生です。

そして今

 1990年代以降、少子高齢化の一方、女性の職場進出が進み、共稼ぎ世帯が専業主婦型世帯を上回るようになりました。1999年には、男女共同参画社会基本法が成立します。男女が社会の対等な構成員として、自らの意思によって社会のあらゆる分野における活動に参画する機会が確保される社会の実現を目標とします。そのためには、男女が共に家庭と仕事の両立を図ることのできる仕組み、例えば、保育所や高齢者施設の増設、育児・介護休業制度の充実、労働時間の規制などが不可欠です。
 「家族の尊重」や「家族の助け合い」は耳当たりの良い言葉ですが、もしかしたら、家制度のような男女の役割の固定化や、家事・育児・介護を家族の中で女性に負担させることを意図しているのかもしれません。人の生き方も家族関係も多様です。今求められているのは、家族のあるなしに関わらず、人が個人として大切にされ、尊重される社会であり、それこそ現在の憲法24条を実現することにほかならないのではないでしょうか。24条を変えてはなりません。


◆二宮 周平(にのみや しゅうへい)さんのプロフィール

立命館大学法学部教授、法学博士。家族法専攻。日本学術会議連携会員、ジェンダー法学会理事長。主著として『家族と法』(岩波新書)、『事実婚の現代的課題』(日本評論社)、『家族法〔第3版〕』(新世社)など。 

 


 

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