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「自衛隊」と「国防軍」の間——憲法9条の存在意義

2013年4月29日

水島朝穂さん(早稲田大学教授・法学館憲法研究所客員研究員)

何でも9 条のせい?

 「こういう憲法でなければ、横田めぐみさんを守れたかもしれない。…日本の戦後体制、憲法は13歳の少女の人生を守れなかった」。安倍晋三自民党総裁は、今年2月の党憲法改正推進本部でこう挨拶しました。安倍氏が憲法に対してどのような想いをもち、またどんな思い入れがあろうとも、それは自由です。しかし、公人として憲法の改正を主張する以上、あまりに情緒的な物言いは慎むべきでしょう。同時に安倍氏は、「ドイツは何度も憲法を改正したからテロリストと戦えた」と断言しました。旧西ドイツ赤軍(RAF) のハイジャック事件(モガジシオ空港事件)での対テロ特殊部隊の活動を念頭に述べたようですが、あのGSG9は連邦軍ではなく、連邦国境警備隊(現在の連邦警察)の部隊です。外国のケースについての事実認識も怪しい。さらに安倍氏は、憲法改正草案9条で「国防軍」とする理由として、「『自衛隊』だと〔海外で〕『わがまま』(selfish) ととられるから」という趣旨のことも述べています。「自衛」(selfdefense)の"self"が私利・私欲のようにとられると言いたいようですが、「国防軍」にする理由としては非論理的で、あまりに"selfish "ではないでしょうか。

立憲平和主義の意味

 そもそも憲法で平和のありようについて定めるというのはどういうことでしょうか。日本国憲法9条は、国家が対外的に行為する際、「やってはならないこと」を命ずる禁止規範として、軍事的オプションを剥奪したところに意味があります。第2次世界大戦後に制定された憲法の多くが不戦条約や国連憲章を踏まえ、何らかの形の平和条項を持つようになりましたが、日本国憲法は戦力不保持と交戦権否認という徹底した平和主義を採用しました。国家間にトラブルが生まれた場合でも、憲法はどこまでも武力によらざる解決を要求します。武力なき平和の創り方について、憲法は前文で、「平和を愛する諸国民(peoples)」との連携と連帯を築き、そのなかで実現していくことを示唆しています。国連の集団安全保障を前提にした設計ですが、それにとどまらない、より広い"peace loving peoples"のネットワークによって平和を構築していく方向性がそこから出てきます。また、平和的生存権を保障することによって、「戦争か平和か」の選択を多数決に委ねることをせず、常に「平和の選択」を義務づけています。これらが重なり合って、日本国憲法の立憲平和主義を構成しているのです。

「国防軍」の狙い

 その一方で、現在の自衛隊は世界有数の実力装置に発展しています。憲法規範とそれに反する憲法現実が半世紀以上にわたり「併存」していることを、憲法改正の理由に挙げる人がいますが、それは違います。「自衛隊は軍隊ではないから合憲」という形で今日まできたのは、権力担当者が「憲法9条を守らされてきた」ことの結果です。アジア諸国の世論や、平和を求める運動のみならず、権力内部における微妙な政治力学もさまざまに投影して、これまでの政府解釈(内閣法制局)は、自衛隊は「自衛のための必要最小限度の実力」であって違憲の「戦力」ではないという「自衛力合憲論」をとってきました。この「自衛力合憲論」を基礎に、武器輸出三原則、非核三原則、海外派兵禁止原則、集団的自衛権行使の違憲解釈などの「『準憲法的な』政治的了解」が生まれました。これらはあるいは徐々に、あるいは急速に空洞化されてきましたが、まだ正面から否定されてはいません。そこに憲法9条の規範力がなお存在しているわけです。
 では、国防軍にするというのはどういうことか。端的に言えば、普通の国の普通の軍隊になるということです。交戦権も軍刑法も軍事裁判所(軍法会議)も憲法上認められて、軍としての全属性が具備されることになります。冷戦時代のような巨大な軍事ブロック間での大規模な軍事衝突の可能性はほとんどなくなり、地域紛争とその連鎖、テロ活動など、紛争は「低強度」化してきました。国土を守る「国土防衛軍」(略して国防軍)から、市場と資源とそれとのアクセスを確保する「国益防衛軍」(略して国防軍)に機能的に転換しつつあります。自民党「憲法改正草案」の「国防軍」も、かつての国土防衛軍ではなく、海外展開して市場や資源の軍事的確保を狙う「国益防衛軍」となるのでしょうか。米軍の後方支援から、前方展開任務も担う部隊に変わっていく。これまでの抑制もかなぐり捨てて、「国益」追求の手段として柔軟に運用されていけば、これは、日本国憲法が期待する平和の創り方とは明らかに異なるだけでなく、長年にわたって築き上げてきたこの国の「平和国家」としてアイデンティティも大きく損なわることになるでしょう。その意味で、「憲法改正草案」は、日本国憲法の「同一性」を毀損するおそれがあると言えるでしょう。厳密に言えば、この草案は、憲法改正の限界を超える可能性が高いということです。


◆水島朝穂(みずしま あさほ)さんのプロフィール

早稲田大学法学学術院教授。
『現代軍事法制の研究』(日本評論社)、『武力なき平和−日本国憲法の構想力』(岩波書店)、『18歳からはじめる憲法』(法律文化社)、『東日本大震災と憲法—この国への直言』(早稲田大学出版部)など著書多数。
「平和憲法のメッセージ」というホームページを開設。

 


 

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