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改憲を問う!

 

拝啓 安倍晋三様 あなたが「改憲」に前のめりになるのは筋が違いませんか?

2013年4月15日

法学館憲法研究所

 安倍さん、あなたは首相在任中の「憲法改正」に強い意欲を持っているそうですね。まずは国会による憲法改正案の発議を容易にする96条の「改正」から手がけるということは、あなた自身の口からも度々語られています。そして、同じように「改憲」を唱える「日本維新の会」に、参議院選挙後の連携を見据えて接近を図っているとも伝えられています。しかし、ちょっと待ってください。あなたがこのように「改憲」に前のめりになるのは筋が違いませんか?それは、次のような問題があるからです。

 第一に、いまの国会の構成が、衆議院も参議院も「違憲」状態にある、ということです。昨年末の衆議院選挙については、全国で16件の「一票の格差」訴訟が起こされましたが、その16件の訴訟すべてにおいて各高等裁判所は「違憲」(14件)または「違憲状態」(2件)の判決を言い渡し、うち2件では選挙無効の宣告さえなされています。これだけ見事に「違憲」判断がそろい「合憲」判断は1件もなかったのですから、現在の衆議院の構成が「違憲」状態にあることは、もはや明白といわなければなりません。最高裁の判決ではないからといって無視することは、とうてい許されうる状況にはありません。また、参議院については、昨年10月の最高裁判決が「違憲状態」であると断じていますから、現在の参議院の構成もやはり「違憲」状態にあるということになります。
 「違憲」の選挙は、本来無効です。これまで裁判所は、「違憲」と判断しても選挙じたいを無効とすることは避けてきましたが、それは、選挙を無効とした場合に生じるさまざまな問題を考慮してのことであり、「違憲」の選挙に正当性を認めたものではありません。まさにいろいろな「事情」を考慮して無効とすることは避けた(「事情判決」)、というだけであって、「違憲」の選挙は本来無効であるという原則そのものを変えたわけではないのです。ですから、「違憲」の選挙によって選ばれた現在の国会議員は、あなた自身も含めて、本来からいえば国会議員たりえないはずなのです。「違憲」の選挙は本来なら無効なのですから。
 要するに、いまの国会は、衆議院も参議院も、本来なら無効であるはずの選挙によって選ばれた議員、つまり本来なら議員たりえないはずの議員によって構成されている、ということです。その意味で、いまの国会議員は「正当に選挙された代表者」(憲法前文)とは言いがたいのです。それでも議員としての地位が一応認められているのは、さまざまな事情を考慮した一種の「緊急避難」的措置としてのことに過ぎません。このような立場にある議員がなしうることは、選挙制度の違憲状態を解消したうえで憲法に反しない正当な選挙を速やかに実施することまで、と考えるべきでしょう。それまでの間、国民生活に支障を及ぼさないために必要最小限の国政事項を処理することは、「緊急避難」のうちに入ることとして認められるでしょう。しかし、そこまでです。とりわけ、憲法改正の発議のような国の枠組みの根幹にもかかわる事項は、本来なら国会議員たりえないはずの、正当性に瑕疵のある国会議員によって扱われてはならない事項の最たるものというべきです。そういう意味で、あなたがいま「改憲」を言うことは、まったく不適切なことなのです。

 第二は、あなたが首相として「改憲」をめざすとしていることと憲法との整合性の問題です。言うまでもないことですが、内閣には憲法改正権はありません。憲法改正権は国民にあり、国民にのみ帰属します。「国民の代表」にも憲法改正権はありません。文字どおり「国民にのみ」あるのです。それは、憲法というものが、そもそも、「統治権に対する法的制限」を意図したものであり、「権力担当者に対する国民からの指示・命令」としての意味をもつものだからです。内閣および各大臣、国会および国会議員は、いずれも、憲法によって「制限される側」であり、国民から「指示・命令される側」に立っているのです。「制限される側」、「指示・命令される側」が、その制限や指示・命令の内容を自由に変えられるというのでは、制限も指示・命令もまったく無意味なものになります。だから、内閣に憲法改正権がないのは当然のことであり、また、国会も、「国民の代表者」によって構成される「国民代表機関」であっても、憲法改正権そのものはもちえないのです。
 ただ、憲法は、国会が「国民代表機関」であることにかんがみ、国会に憲法改正の発議権を委ねています。この、国会の発議権は、憲法改正権は国民にのみあるという観点からいえば、国会が憲法改正を主導できるということを意味しません。国民の側から、具体的にここをこう改正すべきだという声が上がり、それについて国会で議論せよという声が高まったときにはじめて、国会はその国民の指示を受けて憲法改正原案をまとめ国民に提示する、というのが本来のあり方なのです。そうではなく、国会議員たちが「ここは自分たちにとって都合が悪いから変えたい」といって改憲発議をするのは、本来筋違いなのです。国会議員が改憲に前のめりになるべきではないのです。まして、憲法改正の発議権が委ねられているわけでもなく、なによりも政権担当者として統治権の中枢を担う内閣が憲法改正を主導することは、絶対に避けられなければなりません。それは、政権の都合のいいように憲法を変えることにつながりかねない行為であり、「統治権に対する法的制限」としての憲法の意味を大きく損なうこととなるからです。その意味で、あなたが首相として「改憲」をめざすというのは、筋が違うといわなければならないのです。

 このように考えてくれば、憲法96条の国会による発議の要件を衆・参それぞれ総議員の「3分の2以上」から「過半数」に変えようというあなた方の企図には、重大な問題があることがわかると思います。「過半数」で発議できるということは、基本的には、ときどきの政権与党だけで改憲発議できるということを意味します。つまりこれは、政権の都合のいいように憲法を変えることをより容易にすることになります。ですから、この「改憲」は、「3分の2」か「過半数」かという単なる数字の問題ではなく、憲法の意味そのものを大きく損なうことにつながりかねないものなのです。あなたは、「憲法について国民に議論してもらう機会は多いほうがいい」ということを「過半数」にすべき理由の一つとしてあげているようですが、「憲法について国民に議論してもらう機会」を国会が提供するという発想自体、憲法改正は国会が主導すべきだという誤った考え方に立っているものといわなければなりません。かりにそのことを問わないとして、「過半数」にするという96条の変更をどうしてもやりたいというのであれば、同時に、政権に都合のいいような憲法変更の可能性をできるだけ防ぐため、政権与党は憲法改正原案を国会に提出できないこととする、といった制限を設けるべきでしょう。そこまでやるというのなら、あなた方の96条「改正」企図も、善意のものと受け止めましょう。それでも、その発想自体は誤っていると、私たちは考えますが…。

法学館憲法研究所
所   長:伊藤真(伊藤塾塾長・弁護士)
顧   問:浦部法穂(神戸大学名誉教授)
客員研究員:水島朝穂(早稲田大学教授)
客員研究員:村井敏邦(大阪学院大学教授)
客員研究員:森 英樹(名古屋大学名誉教授)

 

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