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IBMロックアウト解雇事件(1次2次)勝訴の意義と課題

2016年5月23日



今泉義竜さん(弁護士)

1 社長交代の2012年以降に乱発され始めた解雇
 日本IBMは、2008年末から、RAプログラム(リソース・アクション・プログラム)と呼ばれる大規模人員削減計画のもと、低評価を付けた従業員に対して執拗な退職勧奨を組織的に行いました。その結果、1300人もの労働者を退職させるに至りました(その過程において退職強要があったとして組合員が起こした損害賠償請求訴訟は、残念ながら、退職強要があったとまでは認定できないとの裁判所の判断が確定しています)。
 ただ、この時期には、あくまでも会社は労働者に自主退職を選択させる手法でリストラを行い、「解雇」の手段は一切とってきませんでした。
 ところが、2012年に米国本社から派遣されたマーティン・イエッター社長が就任した直後から、労働者の業績不良を理由とした解雇が乱発されるようになりました。
 会社には、JMITU(日本金属製造情報通信労働組合)日本アイビーエム支部という労働組合がありますが(http://www.jmiu-ibm.org/)、会社は、2012年7月〜10月にかけて組合員11名、2013年9月5月〜6月に組合員15名を、2014年3月に組合員4名を、2015年3月〜4月に組合員5名を解雇しました。これ以外に、非組合員15名も解雇通告されています。本件1次・2次訴訟の原告は2012年及び2013年に解雇された組合員ですが、他にも解雇された組合員6名が地位確認訴訟を提起し、現在東京地裁に係属しています(3次〜5次訴訟)。

2 「ロックアウト解雇」とは
 会社が原告らに交付した解雇理由書には、「業績が低い状態にあり、改善の見込みがない」という抽象的な理由がほぼ同一の文言で記載されているだけで、具体的な個別の理由は記載されていません。しかも、10年、20年以上勤務してきた原告らを理由も言わずに突然会議室に呼び出し、解雇理由書を読み上げ、直後に同僚に挨拶をする間も与えずに社外に追い出す(ロックアウト)という乱暴なものでした。この乱暴な解雇手法は、俗に「ロックアウト解雇」と呼ばれており、主に外資系企業で横行しているやり方です。
 原告らは長年にわたり会社に勤続してきた労働者で、表彰を受けたり同僚から働きぶりを評価されたりしてきた方々です。ところが、会社は、人員削減と労働者の「新陳代謝」を図るという目的で、解雇を強行したのです。労働契約法16条は、合理的理由と社会通念上の相当性がない解雇は無効と定めており、とりわけ人員削減を目的とする整理解雇については、4要件(人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続きの相当性)という厳しいハードルが課されるというのが日本の確立した裁判例です。本件ロックアウト解雇は、IBMによる米国流「解雇自由」を実現するための、日本の解雇規制法理に対する挑戦ともいうべきものでした。
 また、2012年7月以降の会社全体の被解雇通告者50名のうち、解雇通告当時組合員であった者が34名であったことからすれば、本件解雇は、以前より一貫して会社のリストラ策に反対してきた労働組合の弱体化をも狙ってなされたものと推察されました。

3 解雇は無効とする東京地裁の判断
 審理においては、被告はあくまでも個別の労働者の業績不良による解雇であると主張し、各原告について複数の上司を証人として立て、原告の能力不足を立証しようと試みました。原告らは、本件は組織的なリストラであるとともに、組合攻撃であるという主張を総論においた上で、個別の原告について、過去の評価書やメールなどの客観的証拠と被告の主張の矛盾を突いたり、そもそも解雇手続きに上司が関わっていなかった事実を引き出したりするなどして、本件解雇の不当性・違法性を明らかにしました。
 3年超にわたる審理の結果、東京地裁民事第36部(吉田徹裁判長)は、2016年3月28日、会社のなしたロックアウト解雇を違法無効として、原告5名全員につき地位確認及び賃金の支払いを命ずる原告ら全面勝訴の判決を言い渡しました。
 東京地裁は、解雇の有効性については、「相対評価による低評価が続いたからといって解雇すべきほどのものとも認められない」などとして、労働契約法16条にもとづき、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、権利濫用として無効というべきである」としました。判決が、これまでの判例法理を踏襲し、日本の労働法規制を無視した会社のやり方を断罪した点は、高く評価できます。組織的なリストラ目的であるという点について判決は言及しませんでしたが、かかる組合の主張は裁判所の判断に事実上影響を与えたものと思います。
 もっともその一方で、東京地裁は、上司が本件組合に対する否定的な評価の発言をしたことを認定しながらも、解雇の判断に直接つながるような内容ではないとして、本件解雇が組合弱体化を狙ったものであるとの評価はしませんでした。また、ロックアウト解雇という手法そのものについては、「対立状態となった労働者は機密情報を漏えいするおそれがある」などという一般論を理由にして、解雇予告とともに会社から追い出す措置をとったこと自体については違法とまではいえないと判断しました。この二点は、不当な判断です。

4 今後の課題
 会社は控訴し、舞台は控訴審に移ります。また、1次2次訴訟に続いて3次〜5次の合計6名の組合員の解雇訴訟が東京地裁で審理中です。また、本件ロックアウト解雇等について組合が東京都労働委員会に不当労働行為救済申立てをしており、これも現在審理中です。組合と弁護団は、組合員の復職を伴う全面解決をなるべく早く実現すべく、これからも尽力する決意です。
 また、現在安倍政権は、外資系企業に自由な活動をさせるために、違法な解雇であっても会社が一定の定額の金銭を支払えば雇用契約を解消できるとする「解雇の金銭解決制度」導入を実現しようと、厚生労働省に「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」を設置して議論をさせています。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-roudou.html?tid=307309
 解雇の金銭解決制度が導入されてしまうと、本件のような違法なロックアウト解雇も一定の金銭支払いを条件にすべて合法になってしまいます。これは「解雇自由社会」をもたらすものに他なりません。会社が一方的に能力不足と判断した労働者や、会社に盾突く労働者を簡単に解雇することができるようになるのです。すべての労働者のみなさんの雇用を不安定にし、ますますものを言えない職場になっていく危険があります。厚労省の検討会では、労働組合や弁護士、裁判官が反対意見を述べるなどし、必ずしも政府の思うような議論の方向に進んではいないようですが、このような制度導入を決して許さないという声をもっと大きくしなければいけないと思います。

◆今泉義竜(いまいずみ よしたつ)さんのプロフィール

静岡県浜松市出身。2008年弁護士登録。東京法律事務所所属。労働者側の労働事件を中心に、交通事故、借地借家、離婚・相続、証券取引被害などに取り組む。日本労働弁護団事務局次長。B型肝炎訴訟弁護団、IBM退職強要・ロックアウト解雇事件、ブルームバーグPIP解雇事件、首都圏青年ユニオン弁護団、全大教弁護団などの弁護団に参加。
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