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新しい「連帯」への希望

2016年6月27日



岩城 穣さん(弁護士)


シンポジウム「未来を切り開く連帯〜若者たちの運動から学び会う」(2016年3月16日、大阪市)

第1 2つの「連帯」についての考察
1 「連帯」とは何だろうか。一般には、一定のグループや集団が共同の目的のために、気分を共有することだとされる。クラブやチーム、サークルなどの小さなグループでは、この意味の連帯はしばしば実感されるが、グループが大きくなり、更には階層や属性といったものにまで広がっていけばいくほど、連帯は難しく、希薄になっていく。
 しかし、人間が社会的動物であり、様々な集団、最終的には社会や国家の中でしか生きていけない以上、自ら快適に生きられるように社会を改善していくために、自主的に団体を作って連帯していくことは大変重要である(ここでは、これを「自主的連帯」ないし「下からの連帯」と呼びたい)。
 他方、国家や企業など有形無形の権力や権威を持った団体や集団は、その目的のために構成員を都合よく統制しようとし、そのために「上からの連帯」を組織・醸成しようとする。
 この「上からの連帯」は、外観的には下からの連帯と類似し、局部的には混合することもあるが、強制や処罰、排除といった不利益が付属している点で本質的な違いがあり、時には下からの連帯を妨害・破壊する役割を果たす。

2 この2つの意味の連帯について、戦前がどうだったのかについても興味があるが(例えば下からの連帯としての自由民権運動や労働・小作争議、上からの連帯の完成形としての大日本翼賛会など)、ここでは戦後について考えてみたい。
 戦後民主主義の普及や労働運動・市民運動の高揚の中で、1960年代から70年代にかけて、下からの連帯は大きく広がった。「国民春闘」やストライキ、安保闘争、学生運動やベトナム反戦運動など、枚挙にいとまがない。
 ところが、1973年のオイル・ショック以降、特に1980年代から本格化した新自由主義のイデオロギーと長期不況の中で、「自己責任論」や「同調圧力」が強まり、「下からの連帯」は困難になっていく。若者と中高年、労働者と自営業者、民間労働者と公務員、正規と非正規、男性と女性、既婚と未婚、障害者と健常者など、様々な属性を持つ者同士が対立させられ、自分の地位の向上や権利行使をするのでなく他の属性を持つ人々やグループを叩いて溜飲を下げる風潮が広がってきた。その結果、社会はどんどん細分化され、人々はバラバラになり、最後は「万人の万人に対する闘争」(隣の人間も敵)の心理になっていく。
 そして、そのようなプロセスにおいて、精神的な拠り所を与える「上からの連帯」を(時には不利益や同調圧力を伴って)提示されると、人々は容易にそこに組織されてしまう。
 近年のパワハラの蔓延、生活保護受給者や転落した有名人の袋叩き、ネットでの激しい攻撃や炎上、排外主義やヘイトスピーチ、少数者や障害者の排除、更には突然の無差別殺人などを見ていると、下からの連帯の衰退と関連していると感じるのは私だけではないと思う。

3 このような考察は、恐らく本来は社会学の課題であり、私はその専門ではないが、「下からの連帯」の高揚期の後半(1970年代前半)に思春期を迎え、その後約40年間にわたってその衰退と社会分裂、「上からの連帯」の強化を見てきた世代としての、体験に基づく実感である。

第2 新しい若者たちの「連帯」を探る企画
1 これに対し、特に憲法9条を中心とする日本国憲法の改正圧力の強化(これ自体が草の根的に組織されている)に抗して2004年に「九条の会」が結成され、また2011年の東日本大震災と福島原発事故を契機とした反原発運動など、草の根の市民運動の広がりがあったが、とりわけこの1年余りの間に、最初は若者の分野で、続いてこれに触発される形で他の世代や階層、様々な分野で、新しい自主的連帯の動きが生まれてきた。集団的自衛権を認める閣議決定や安保法制の強引な国会可決に反対する運動団体として作られた「SEALDs(シールズ)」や「ママの会」や「大学人の会」などがその典型であるが、とりわけ若者の中での運動はSEALDsにとどまるものではなく、劣悪化の進む若者の労働の分野でも、いくつもの団体や運動が生まれている。

2 そこで、私が共同代表の一人を務める「NPO法人働き方ASU-NET」(「働き方」をキーワードに若者と中高年が手をつなぐ労働者・市民のネットワーク)は2016年3月16日、「未来を切り開く連帯〜若者たちの運動から学び会う」と題するシンポジウムを大阪市内で行った。関心の高さを反映してか、会場は145人の参加者で埋まった。
 特段基調講演といったものはなく、第1部で7つの団体から7人のパネラーを出してもらい、各団体の紹介と主な活動、訴えたいことなどを報告していただいたうえで、第2部のパネルディスカッションで質疑・交流を行う、というものであった。

3 第1部の7つの団体のパネラーからの報告の要旨は、以下のとおりである(なお、要旨は私がまとめたものであり、文責は私にある。)。

@労働相談に取り組みブラック企業を社会問題化した「NPO法人POSSE」の坂倉昇平さん
 年間1500件の労働相談に取り組み、起こっていることを社会的に発信して、社会問題化し政策課題としていくことを重視している。最近では美容・塾など大手企業において、業界全体に影響を与える取り組みを強めている。

Aアルバイト学生を組織し団体交渉も行っている「関西学生アルバイトユニオン」の北村諒さん
 今の学生には奨学金が重くのしかかっている。ブラックバイトで泣き寝入りする状況を変えていきたい。学生が相談しやすいのは学生であり、"耐える力を変える力に"をモットーにして、働くこと・学ぶことを問い直している。

B労働相談と団体交渉で成果を上げる個人加盟労組「地域労組おおさか青年部」の北出茂さん
 一人でも入れる地域ユニオンとして、20代〜30代を中心に労働相談から企業との交渉も行い、解決まで取り組んでいる。パワハラや職場の労働条件の劣化と闘う若者に"正しくキレよう"を合い言葉に学習・交流に取り組んでいる。

C民主主義を原点に戦争法の廃止を訴える「SEALDs KANSAI」の寺田ともかさん
 与党は国会で何でもやれてしまう3分の2の議席を占め、憲法を改正しようと目論んでいる。今止めなければという思いで野党間の結集を求め、「統一候補を立ててください」と地方でもテーブルを設けてきた。また、大学に投票場を設ける運動もしてきた。3・11の原発事故やイラク戦争などを通じて政府や報道に疑問を持ったことが声をあげる活動に参加するきっかけとなった。

D戦争法に反対し街頭での対話活動に取り組む「SADL(サドル)」の中村研さん
 サドルは大阪都構想の取り組みから生まれた。単に賛成か反対かではなく不安に思っている人との対話を大事にしてきた。サドルの特色はそれぞれのライフワークでつながり、一人ひとりの背景を活用し、何ができるかを持ち寄って街の雰囲気を変え、国会の内と外をつなげようとしている。「チャット」をするように該当で対話するのはその手段であり、イメージは井戸端会議。政治のハードルを下げていきたい。

E堺市で戦争法廃止の署名活動をする「ANTS(アンツ)」の磯田圭介さん
 堺市で戦争法を廃止させることを目標に地域に根差して結成した。気軽に集まり戦争法反対の声を上げるゆるい組織。昨年6月から毎月1回のデモや駅前でのスタンディングに取り組んできた。SNSで呼びかけるので常に新しい人が参加し、中学生たちも「カッコいい!」と署名を集めてくれ、お母ちゃんたちから差入れもある。署名活動は心意気。

F最低賃金1500円への引き上げを求める「AEQUITAS(エキタス)京都」の橋口昌治さん
 「最賃1500円」「中小企業に金をまわせ」「経済にデモクラシーを!」がスローガン。運動で引き上げさせていくことに意義がある。街頭・路上での活動が中心になっている。しかし、最賃は本来労働組合の重要な課題でもあるはずである。


パネルディスカッション、コーディネーター・岩城穣

4 第2部のパネルディスカッションでは、私がコーディネーターとなって「各組織のコミュニケーションの取り方」「デモやサウンドの形態」「各団体の苦労や悩み」「民主主義やサイレントマジョリティの受け止め方」といったことについて質問し、興味深い議論がなされた。
 最後に「社会は変えられるのか」と質問したところ、「社会は絶対変えられる。しかし、今まで政治の話をしなかった人たちに働きかけない限り変わらない。変えることをみんなでやりたい。」「社会は変わっている。自分も変わった。展望と希望を持つことで今では他の人を変えたいという気持ちになった。」「今の若者の動きを労働者階級全体に広げることが大事。」「『野党は協力』という、今まで考えられなかったことができている。社会は変えようと思えば変えられる。」「全ての人が安心して働ける方向に変えられる。人生の先輩の皆さんは、もっと私たちに成功した話だけでなく失敗した話も教えてほしい。」「戦争法反対の大きなうねりが労働相談に来る若者たちの変化につながっている。『助けてほしい』から『職場を変えたい』と言う人が出てきている。」など、率直で前を見据えた発言が次々となされた。

5 7つの団体は大きくいって「労働系」と「平和系」に分けることができると思うが、共通するのは若者が主体となって民主主義を志向しているということである。1、2部を通して、どの団体もとても個性的で、困難を抱えながらも、生き生きと活動していることがわかった。デモのサウンド一つをとっても古い世代とはずいぶん違うが、若者が声を上げ始め、柔軟で多様性がある活動を展開していることを知り、参加した若者同士も盛り上がり、また中高年の参加者たちも元気と勇気をもらって、熱気の中で閉会した。二次会にも若者を中心に30人以上が参加し、分野を超えて更に交流を深めた。

6 このような若者の自主的連帯の動きに対し、様々な攻撃も行われている。また、当然のことながら、若さゆえの間違いや行き過ぎも出てくるかもしれない。しかし、このような新しい下からの連帯の動きは、大きく見れば半世紀ぶりのことであり、また、その柔軟さや多様性において過去に例のないものである。折しも18歳・19歳の若者に選挙権が広げられ、若者の政治・社会への積極的参加が期待される中、日本国憲法を日本社会に内実化させ、日本社会全体が豊かに発展していくために、これらの動きや交流を大切に育てていきたい(共に育ちあいたい)と願っている。

◆岩城 穣(いわき ゆたか)さんのプロフィール

 1988年弁護士登録(大阪弁護士会)、いわき総合法律事務所所長。
 弁護士登録の直後から、過労死問題にライフワークとして取り組む。
 現在、大阪過労死問題連絡会事務局長、過労死弁護団全国連絡会議事務局次長、NPO法人働き方ASU-NET共同代表、過労死等防止対策推進全国センター事務局長、厚生労働省過労死等防止対策推進協議会委員。
 また、1995年の阪神大震災を契機に結成された欠陥住宅被害全国連絡協議会(欠陥住宅全国ネット)の事務局長・副幹事長などを歴任し、現在は欠陥住宅関西ネットの代表幹事。



 



 
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