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若者と社会を繋ぐ

2016年8月29日



蟇田 薫さん(産業カウンセラー・認定特定非営利活動法人育て上げネット)

 認定特定非営利活動法人育て上げネットは、15歳から39歳の若者就労支援を柱に2004年から活動しています。すべての若者が社会的所属を獲得し「働く」と「働き続ける」を実現できる社会を目指しています。
 皆様は、16人に1人の若者が無業であることはご存知ですか?ちょっとしたボタンの掛け違いや、些細なつまずきから、誰もが若年無業者(ニート・ひきこもり)になる可能性があるのです。昨今の有効求人倍率を見ると、職種さえ選ばなければ1人に1つ仕事を探すことができます。しかし、平成20年から平成25年までは1人に1つ求人はなく、「働きたくても働けない」状態に陥り無業になった若者は少なくありません。
 また、親世代が育ってきた1980年代は、新卒一括採用によりスムーズに就職することができました。それに比べて現代の若者は、バブル経済崩壊による第1次就職氷河期やリーマンショックの影響による第2次就職氷河期など予想外の出来事や、景気に左右され、就職事情が大きく変化し「社会人デビュー期」のハードルが高くなっています。
 「社会人デビュー期」にスムーズに移行できず、不本意に若年無業者(ニート・ひきこもり)になってしまった場合、世間では、自分の蒔いた種であり「自己責任」であると責められてしまいます。親世代の社会のあり方と平成の今では、大きなギャップもあるので「自己責任」として片付けてしまうのではなく、さまざまな困難により無業になった若者を支えていくことが重要だと考えています。
 このような若者を支援する代表的なプログラムがジョブトレ(若年者就労支援基礎訓練プログラム)で、育て上げネット設立時から継続している支援プログラムです。
 「これから何をしたら良いのかわからない」「コミュニケーションや人付き合いの苦手を克服したい」「働くための自信をつけたい」「空白期間が気になる」「仕事やアルバイトが長続きするようになりたい」等々、支援を求めて無業の若者がやってきます。若者の悩みや希望に応じて、課題を設定し、グループ行動を基本として働くための基礎作りから支援を始めます。毎日、職場体験をする中で、小さな目標を立て実行し、スタッフと振り返りをすることで達成できたことを承認していきます。自己肯定感が低い若者も少しずつ自信を取り戻すことができます。また、職場体験を通じ働くイメージを持ちやすく、就労に向けて少しずつステップアップしていきます。
 ジョブトレは、有料プログラムでありますが、3年前より、経済的に困難を抱えている若者にも利用いただけるよう、個人・企業からの寄付によって、一定期間、無償でプログラムを利用できる「若者就労応援パッケージ」の仕組みを構築いたしました。
 「若者就労応援パッケージ」は、低所得世帯の若者が自己負担なくジョブトレを受講する機会を無料提供しているだけでなく、寄付企業の店舗での職場体験の機会が提供されるなどします。この、「若者就労応援パッケージ」を利用した若者のエピソードを紹介します。
 20代のA君は、高等学校入学後、学校に馴染むことができず1か月で不登校となり、夏休みが終わる頃中退してから、約10年近くひきこもっていました。社会から10年離れてしまうと、空白を埋める方法を自分で考えることもできず、どうしてよいかわからないまま、30歳になる前に「何とかしたい」という気持ちから支援を探す中で「若者就労応援パッケージ」を見つけ申し込まれました。
 家族以外の人と話すこともなかったので、入会当初は、ほとんど口を開くこともなく、目を合わすこともできず無表情で、髪も髭も何年も伸ばしているようでした。3カ月後、実店舗にて実習ができるか、正直不安に思っていたのですが、毎日の職場体験の中で課題を一つ一つクリアし、また仕事もとても丁寧であったので、ほのかに期待を抱き支援を続けました。毎日、小さな目標を立て、達成し、承認を繰り返すうちに、笑顔も出て表情に変化が表れてきたのです。表情が明るくなったので、後は何年も伸ばしている髪と髭をどうするか、何度か切ることを指導したのですが、中々言うことを聴いてくれません。ある日、見かけない若者が訓練にやってきたので、良く見るとA君、びっくりするほど爽やかな青年に変身していたのです。
 このころになると、自ら率先して仕事の段取りをしたり、皆に話しかけたり行動変容していきました。実店舗での職場体験を無事終えることができ、3カ月過ぎたころには、本格的な就職活動を始めました。丁度、大型ショッピングモールができ、大量にあったオープニングスタッフの募集の中から、以前より興味のあった飲食の仕事に応募し見事に合格したのです。今でも、時々、仕事帰りに顔を出してくれるのですが、「うちの商品です」と差し入れの気遣いができる青年になっていることに驚いています。10年間、就職活動ができなかった若者が、「若者就労応援パッケージ」をきっかけとして、経験を学び直し、社会に一歩、踏み出すことができたのです。
 さまざまな原因により困難を抱え無業となる若者を支えていくことは、容易なことではありません。「こんなはずではなかった」と、一人でもがき苦しみ、ちょっとした勇気を手に入れて支援機関に繋がってくるので、私たちは、まずは労い、励まし、承認し、「笑顔」を取り戻していくことをサポートしていきます。
 若者自身の未来を拓くことは、社会全体で若者に対して十分なサポートをしていくことです。それは、私たちの社会にとっても大きなプラスであり「社会投資」として捉えることができます。
 「若者と社会をつなぐ」これからも、私たちは、果たすべき使命を大切にしていきます。

認定特定非営利活動法人育て上げネット

◆蟇田 薫(ひきた かおる)さんのプロフィール

産業カウンセラー
1982年日本航空株式会社入社。国際営業などに携わるほか、組合執行委員などとして社員の労働相談や労使協議も担当。2005年退職。2010年、特定非営利活動法人「育て上げネット」に入職。かわさき若者サポートステーション所長として行政との交渉などマネージメントや若年無業者の就労支援に従事。2013年より母親の会「結」の事業責任者に。2014年〜2018年神奈川県青少年問題協議会委員、2016年東京都教育委員会教育支援センター(適応指導教室)等充実方策検討委員会委員。 子育てや子どもの就職に関する講演経験多数。2015年 10月KADOKAWA「ひきこもりになりかけたら〜」上大岡トメ 著 監修・協力。



 



 
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