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今週の一言
裁判員年齢の引き下げ~18歳から裁判員に
2022年2月21日

大城 聡さん(一般社団法人裁判員ネット代表理事・弁護士)


1 裁判員年齢引き下げの法改正
 2021年5月、裁判員に選ばれる年齢(以下「裁判員年齢」といいます。)が20歳以上から18歳以上に引き下げられる法改正がありました。2022年4月1日から施行され、秋に作成される「裁判員候補者名簿」から18・19歳の方も裁判員候補者として掲載されます。2023年1月1日以降は、18・19歳の方も裁判員に選ばれることになるため、高校生でも裁判員に選ばれる可能性があります。 

2 裁判員年齢を引き下げるプロセスの問題
 裁判員年齢を18歳以上に引き下げる法改正は、「少年法等の一部を改正する法律」の一部として行われたため、正面からその是非が議論されることはありませんでした※1。
 これは、司法への市民参加の制度である裁判員制度にとって大きな問題です。裁判員として参加する市民が主体的に議論することなく、重大な改正が行われたことになります。私は、裁判員経験者ネットワークの共同代表世話人である牧野茂弁護士と一緒に記者会見を行い、裁判員制度の重要な変更が議論なく行われたことの問題を指摘しました※2。それを契機に新聞、テレビなどでこの問題が報道されるようになりました。
 裁判員制度は、国民主権の原理に基づくものですから、裁判員年齢を選挙権年齢に合わせることに合理性はあります。しかし、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられた後、これまでは18歳以上20歳未満の方は選挙権を有していても裁判員には選ばれていなかったので、選挙権と裁判員年齢が異なる制度設計もあり得るはずです。今回、改正された少年法では18・19歳は「特定少年」として少年法の適用を受けます。また、裁判員年齢は民法の成人年齢と一致することが求められるわけではありません。このように、少なくとも今回の少年法改正によって裁判員年齢を直ちに引き下げなければならない理由はありませんでした。
 裁判員制度は、市民が司法に直接参加する制度です。裁判員制度のあり方について、法律の専門家だけではなく、司法の担い手である市民の声を反映させることが必要です。10年以上行われてきた裁判員制度の実施状況をもとに裁判員年齢を18歳以上に変更することの是非を、裁判員になるかもしれない市民の間で幅広く議論して決めていくことが本来のあるべき姿であったと思います。

3 若者の裁判員制度に対する意識
(1)裁判員になりたいか
 一般社団法人裁判員ネット(以下、「裁判員ネット」といいます。)では、2017年4月から5月初頭にかけて、東京都内の大学生などを中心とする若者(18歳から25歳まで)を対象に「法教育・裁判員制度についてのアンケート」を行い、高等学校での法教育の現状及び若い世代の裁判員制度に関する意識調査を実施しました。アンケート調査の結果、1,064人(男性566人、女性492人、その他6人)から回答を得ました。
 その中で「裁判員になりたいと思いますか」という質問をしたところ、「ぜひなりたい」62人(6%)と「できればなりたい」201人(19%)を合わせて裁判員になることに積極的な回答が25%、「できればなりたくない」627人(59%)と「絶対になりたくない」167人(16%)を合わせた消極的な回答が75%でした。

(2)選挙権と同様に裁判員も18歳以上から選ばれるようにすべきか
 また、「現在、裁判員は20歳以上の国民から選ばれますが、選挙権と同様に18歳以上の国民から選ばれるようにすることについてどう想いますか」と質問しました。これに対しては、「20歳以上のままがよい」が785人(74%)で、「18歳以上にするのがよい」267人(25%)を大きく上回りました。
 「20歳以上のままがよい」と選んだ理由(自由記述)としては、「義務教育での裁判員制度についての学習が乏しいため」「未成年には荷が重い」「高校生にとっては負担が過重」「高校生は社会的経験が少ない」などがあげられており、18歳以上にした場合に高校生が裁判員になることを不安視する意見が多く見られました。
 一方、「18歳以上にするのがよい」と選んだ理由(自由記述)としては、「若い人の意見を取り入れられる」「投票権が認められたなら、裁判員になる権利もある」「年齢よりも知識を優先するべき」「より多くの国民の意見を取り入れるべき」などがあげられました。
 この調査を行った2017年時点では、裁判員の年齢引き下げに関する若者の意向は否定的であることがわかりました。その背景には、裁判員制度が国民主権に基づく制度であるにもかかわらず、選挙権年齢引き下げの際に、裁判員制度との関係が議論される機会が少なかったこともあるように思われます。

(3)若者の意識が重要な鍵に
 この調査結果からは、当事者である若者の意識は、裁判員年齢引き下げには消極的・否定的であったといえるでしょう。しかし、今年4月から民法の成人年齢が18歳になることや今後の法教育の充実によって、これから若者の意識が変わってくる可能性もあります。若者の意識だけで年齢引き下げの是非が決まるわけではありませんが、若者がどのような意識を持っているかは、今後も裁判員年齢引き下げの是非を考える重要な鍵になるはずです。

(4)18・19歳の方でも裁判員を務められる
 裁判員ネットは、これまで18・19歳の方を含む多くの若者と一緒に裁判員裁判を傍聴し、傍聴した事件をもとに模擬評議を行ってきました。その経験から、18・19歳の方でも裁判員として審理に参加し、評議で意見を述べ、責任をもって評決に参加することは十分にできると私は感じています。若い世代だからこそ言える意見もあるはずです。多様な視点を刑事裁判に生かすために、18・19歳という若い世代が裁判員になることは大きな意味があります。

4 裁判員年齢の引き下げで浮き彫りになる課題
 裁判員年齢の引き下げは、これまで裁判員制度が抱えていた課題を浮き彫りにするという側面があります。
 社会経験や人生経験が少ない18・19歳の方にとっては、裁判員経験を知る機会がなければ不安に感じることもあるはずです。これまで20歳以上の方たちにとっても裁判員は未知の経験であり、裁判員経験の共有が必要でした。しかし、守秘義務が壁になって、その共有を妨げているという問題があります。裁判員の年齢引き下げを機会に、裁判員経験が広く社会で共有できるような取り組みが求められます。
 また、裁判員の心理的負担についても同様です。18・19歳の方が裁判員を務めると、心理的負担がより大きく、その影響も深刻になるという懸念があります。裁判員の心理的負担をどのように軽減するかという課題に対応する必要性は、より高くなってきているといえます。
 更には、裁判員年齢が18歳以上に引き下げられることで、法教育の役割はより差し迫った重要なものになります。
 これらの課題は、裁判員年齢が引き下げられることによって浮き彫りになった課題であると同時に、もともと裁判員制度が抱えていた課題でもあります※3。裁判員年齢の引き下げは、裁判員制度の課題そのものを浮き彫りにしたと言えます。この機会に、私たちは主権者として制度の課題と正面から向き合うことが必要なのだと思います。

※1  詳しくは、「裁判員に選ばれる年齢「18歳以上」に法改正---もっと知り、考える機会を」をご参照ださい。
※2  「裁判員に選ばれる年齢 18歳に引き下げへ 選任は再来年から」(NHK NEWS WEB 2021年10月5日)
※3  一般社団法人裁判員ネット「裁判員制度 市民からの提言2018」

◆大城 聡(おおしろ さとる)さんのプロフィール

弁護士。一般社団法人裁判員ネット代表理事、裁判員経験者ネットワーク共同代表世話人として裁判員制度を市民の視点から考える活動を続ける。中央大学法学部卒。同大学院修了(政治学専攻)。山梨学院大学法科大学院修了。主な著書・論文(共著含む)に『良心的裁判員拒否と責任ある参加』(公人の友社)、『裁判員制度と知る権利』(現代書館)、「裁判員制度と法教育」(法と教育Vol.4)、『築地移転の謎』(花伝社)、『あなたが変える裁判員制度』(同時代社)、『裁判員制度の10年』(日本評論社)など。

一般社団法人裁判員ネット 
裁判員経験者ネットワーク 
『あなたが変える裁判員制度』 
『裁判員制度の10年』 
弁護士大城聡のホームページ 

【関連HP:今週の一言・書籍・論文】

今週の一言(肩書きは寄稿当時)

裁判員経験の共有と活発な議論を
「裁判員裁判を傍聴したことがありますか?」
大城聡さん(一般社団法人裁判員ネット代表理事・弁護士)

裁判員制度の9年間を考える〜裁判員経験者からの提言
高橋博信さん(裁判員経験者)

裁判員制度がもたらした変化
伊藤和子さん(弁護士)

書籍『あなたも明日は裁判員!?』



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