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今週の一言
『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』
2020年5月3日

上西充子さん(法政大学キャリアデザイン学部教授)



 『国会をみよう 国会パブリックビューイングの試み』(集英社クリエイティブ、2020年2月)は、国会審議を解説つきで街頭上映する国会パブリックビューイングの取り組みの実践とねらいを書き下ろしたものです。2018年6月15日の新橋SL広場での「働き方改革」の国会審議の街頭上映に始まり、14名で「国会パブリックビューイング」という団体を立ち上げて私が代表となり、寄付を募って機材を揃え、その後、外国人労働者受け入れ拡大に向けた入管法改正、統計不正問題、共通テストへの民間英語検定試験の導入問題、「桜を見る会」、検事長の定年延長問題など、取り上げるテーマを広げてきました。本書ではそれらの活動のうち、1周年記念交流会(2019年6月)までの時期を取り上げています。

映像から読み取る
 従来型の街宣がスピーチを主としているのに対し、国会パブリックビューイングは国会審議映像が主であるという点が大きな違いです。働き方改革関連法案の国会審議中、私は国会前の抗議行動でスピーチをしたことがありましたが、この法案によって影響を受けていく可能性が高いホワイトカラーの方たちに、この形では法案の問題点が伝わっていかないという問題意識をもっていました。
 「働き方改革」という、あたかも働く人のために長時間労働を是正する法改正であるかのような体裁をとりながら、実際のところは労働時間規制の強化策と緩和策を抱き合わせの一括法案にして、残業代を払わずに長時間労働させることを可能にする裁量労働制の拡大や高度プロフェッショナル制度の創設をもくろんでいたのが働き方改革関連法案でしたが、その法改正に警戒心のない人に警戒心をもってもらうことは、数分のスピーチでは容易ではありません。危険性を前面に出して訴えても、かえって素通りされてしまいます。
 けれども、実際の国会審議映像を新橋や新宿や松本などの街頭に持ち出して解説つきでスクリーンで上映してみると、仕事帰りの人たちが足を止めるのです。そして、野党のまっとうな指摘に安倍晋三首相や加藤勝信厚生労働大臣が不誠実な答弁を繰り返す様子を見れば、そこでねらわれているのが「働く人のための働き方改革」ではないことに、見る人自身が気づいていくのです。
 街宣では1つの問題について数分のスピーチを何人かが順番に行うことが多いのに対し、国会パブリックビューイングでは1つのテーマについて3分程度に切り出した国会審議の場面を解説つきで5つほど紹介し、全体として60~80分ほどの時間をかけています。それだけの時間をかけても、じっと足を止める人が増えていきました。

実際の国会を見ることの意味
 本書では働き方改革関連法案や入管法改正、統計不正問題について、国会でどういうやり取りがあったかも紹介しています。
 よく「野党は反対ばかり」「野党はだらしない」「野党はパフォーマンスばかり」などと言われますが、それらの言葉は実際の国会のやりとりに国民の目を向けさせないための煙幕です。実際の国会審議を見れば、野党が問題を指摘しているのに、政府側がそれに向き合わずに無意味な時間つぶしの説明や不誠実な論点ずらしを続けていることがわかります。
 「朝ごはんは食べなかったんですか?」「ご飯は食べませんでした(パンは食べましたが、それは黙っておきます)」――これは私が2018年5月6日にツイートしたもので、働き方改革関連法案の国会審議における加藤勝信厚生労働大臣の論点ずらしの答弁ぶりを比喩的に表現したものです。紙屋高雪氏によって「ご飯論法」と名付けられ、私がツイートで積極的に拡散したことによって国会でも言及されるようになり、新語・流行語大賞にもノミネートされて広く知られるところとなりました。
 不都合な事実を隠すために、意図的に論点をずらして答える、そんな答弁が国会では繰り返されています。国民の代表たる国会議員の指摘に対して政府がそのような不誠実な答弁を続けていること自体が大問題だと私は思うのですが、新聞もテレビも、そのことを問題だとは、これまで真剣に伝えてこなかったように思います。
 テレビでは国会のやり取りが短く編集されて紹介されるので、あたかも野党の質疑に政府側が端的に答えているように見えます。新聞でも野党の指摘を安倍首相が「かわした」などとまとめられることも多く、それだけを読めば、まるで野党が筋違いな非難をしているかのようです。そのように編集され、要約されることによって見えなくさせられている国会の実情と政府の不誠実さを実際の映像で自分で見てもらう――国会パブリックビューイングのこの取り組みは、従来のメディアの報じ方を問うものでもあります。

異なる専門性を持つメンバーが組むことの強み
 街頭に国会審議映像を持ち出すことはスピーチ中心の街宣に比べ、手間がかかり、専門スキルも必要です。私自身は国会審議のこの場面を紹介したい、と切り出しの指定をして解説を加えることはできますが、実際に映像を切り出して字幕をつけて街頭で上映できるように編集してくれるのは、別のメンバーです。映像制作の仕事をしてきた横川圭希さんと、さまざまな街頭デモを撮影しYouTubeで配信を続けてきた生協労連の書記次長の真壁隆さんが、国会パブリックビューイングの映像制作を担ってくれています。
 異なる専門性を持つ者が組めば、それまでできなかったこんな新しい表現ができる、その可能性の広がりも国会パブリックビューイングが注目を集めた理由の一つであり、また、私たち自身がこの活動を楽しんで続けてこられた理由の一つでした。自分たちで創意工夫して新しい運動を生み出していく、その動きが、京都や大阪などで同様の独自の団体の結成を促していくことにもなりました。
 今年の3月25日に国会パブリックビューイングは本書の出版記念ライブトークを行い、私と前述の横川圭希さん、真壁隆さん、そして街頭上映でゲスト解説を担ってくれてきた全労連の伊藤圭一さんの4人が、これまでの活動をそれぞれの視点から振り返りました。その様子は国会パブリックビューイングのYouTubeチャンネルで公開しています。本書と合わせてご覧いただけると、この活動のユニークさを実感していただけると思います。

◆上西充子(うえにし みつこ)さんのプロフィール
法政大学キャリアデザイン学部教授、同大学院キャリアデザイン学研究科教授。専門は労働問題。国会パブリックビューイング代表。主な著書に、『大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A』(石田眞・浅倉むつ子との共著、旬報社、2017年)、『呪いの言葉の解きかた』(晶文社、2019年)など。



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