1.活動の始まり
保護司をしていた40年前に担当する子どもから「お腹がいっぱいになればシンナーが止められる」と言われたことから、単純に、「ではこの子どもにご飯を食べさせれば、立ち直れるかもしれない」と思って食事提供をしてきたのがきっかけで現在まで続けています。
当初は、自分の住まいで近所の有志(現施設長)の手伝いを得ながら、自費で細々と行っていましたが、担当した子どもが同じような境遇の子どもたちを勝手につれてきて、気が付くと6-8人にまでに増えてしまっていました。お米代、水道光熱費など、日々の出費が追い付かなくなった時期もありましたが、家族や支援者の理解もあり続けていました。
こうした中、この先が心配になり、観察所の担当官に相談したところ、会の名前を付けて組織としての活動として、関係団体の助成金等を受けられるようにしたらどうかということで「食べて語ろう会」の名前を付けました。企業等の支援をいただけるよう助成金の申請をしましたが、申請後すぐにというわけにはいかず、実際は1-2年後に採択されました。初めての助成金は30万円、マツダ財団からでしたが、本当にうれしく思いました。
2.特定非営利活動法人食べて語ろう会の活動
その後、こうした活動を安定して継続するために、平成27年8月に、特定非営利活動法人を設立し、令和2年8月で5年目を迎えようとしています。
1年目は、活動基盤を固めることに懸命で、2年目は、現在の活動場所である「基町の家」を作るために助成金をいただき活動基盤を作りました。3年目は、活動基盤をもとに、基町の家や公民館での食事提供、学習支援、弁護士相談等の現在の活動の基本形が整いました。
4年目の令和元年は、これまでの活動の中での課題を解消することに重点を挙げて活動してきました。例えば、食事スペースが狭隘すぎて新しい子どもたちを受け入れる環境でないこと、個人情報に配慮した相談スペースの常設化ができていないこと、子どもたちの学習スペースは事務室と同部屋で仮住まい状態だったので、集中できないとの子どもの声もありました。事務室も部屋の片隅で必要最小限のスペースで書類等の管理が十分ではないことなどの多くの課題が生じてきましたので、広島市から隣家を借り受けられるよう調整した結果、了承が得られ倉庫状態であった隣家の改修を行いました。
当時、資金がありませんでしたので、クラウドファンディングでの資金調達を行うこととし、結果的に、目標額であった500万円以上をご支援いただき改修、備品等をそろえることができ、現在は、2室を行き来できるよう動線を確保し、1つの家として活動ができる状態になっております。子どもたちも、スタッフも、以前と比較くにならないほど穏やかな時間を過ごしています。それぞれの「居場所」として長く大切に育ててくれることを願っています。
また、今年は、広島市内の別の場所に1室、自立準備ホームを創設しました。現在は、帰住先のなかった青年を一人引き受けており、6か月間、食事や生活面での支援を行ってきて、何かとありますが、日々、青年の変化、成長を見ることができ、その人のペースで自立に向けて歩いていく青年の支援ができていることに大いに満足しています。これからも続けてまいります。
3.「更生保護」から社会の一員としての自立支援
基町の家に来所してくる青少年たちは、1度や2度は少年院や刑務所に入っている経験を持っているものが多く、その上に保護者の課題も多く、本人の生きづらさ、本音の部分になかなか手が届かない状況は否定できないと思っています。
これからは、今までどおり、子どもたちにお腹一杯ご飯を食べさせることを大切にしながら、それぞれの子どもたちの抱えている生きづらさを少しでも解消できるよう、こどもたちに寄り添いつつ伴走し続けてゆきたいと考えています。また、「更生保護」から「社会復帰」に向け、子どもたちがそれぞれのペースでまたそれぞれの特性を抱きながらも社会の一員として生活がスムーズに移行できるよう、社会福祉、児童福祉、医療、教育関係など、子どもたちに関わる専門家のご意見をいただきながら支援してまいりたいと考えています。
そのためには、我々スタッフも大いに勉強し、情報収集を欠かさないように努力を続けなければならないと再認識しています。
4.点から線、面としての広がりを
広島市の基町で活動している一特定非営利活動法人である食べて語ろう会の活動に限界もあることは事実であり、もっと、広く全国で若者たちが生きやすい環境の確立が必要であると考えています。
現在、名古屋市の再非行防止サポートセンター(高坂朝人理事長)、大阪市のチャレンジライフ(野田詠氏理事長)と当会食べて語ろう会(中本忠子理事長)で全国再非行防止ネットワーク協議会を組織しており、年3回官民連絡意見交換会を開催させていただいています。相互に現場で起こっている課題を提示させていただいており、こういった場があるというだけで感謝したいと思っていますが、甘えてばかりではいけませんので、全再協としても一歩前進してみたいと考えています。令和2年度は、具体的に、全国の自立準備ホームへのアンケート調査、11月には東京でシンポジウムを開催する予定です。そのほかにも少年院に入院している子どもたちについてもいろいろ検討しているところです。
5.最後に
全国で、非行少年の支援をされている団体も数多くあります。犯罪を予防する観点から、犯罪に至っていない少年、グレーゾーンの少年たちを社会で支援する環境を拡大し、官民での協働体制の早期の構築が望まれます。
食べて語ろう会は小さな組織ですが、意を同じくする友人たちと手をつなぎ、さらに多くの方々と一緒に、生きづらさを抱えている子ども達に寄り添い、自立に向けての支援を精一杯行ってまいります。
最後になりましたが、こうした活動に際して、行政サイドの制度的、財政的な支援が手薄い感じがしています。民間としては、十分に頑張っていると思いますが、このままの状態が続くと、既存事業の継続が手一杯になり、新規事業に向かっていく気力、体力、財力に限界を感じます。民間団体が活動しやすい枠組み、地域版ネットワーク等の構築を期待しています。
◆中本忠子(なかもと ちかこ)さんのプロフィール
所 属 NPO法人食べて語ろう会 理事長
所在地 広島県広島市中区基町20-7-559
主な経歴
●平成27年8月NPО法人食べて語ろう会を立ち上げ、理事長として活動。
●非行少年等支援をしてきた青少年は、延べ300人を超える。
●保護司として、昭和55年から平成22年まで活動。保護司在職中は関連組織の役職を歴任、また、昭和57年から現在に至るまで更生保護女性会会員としても活動。
●法務大臣表彰、瑞宝双光章受章、法務省保護局長特別感謝状、公益財団法人社会貢献支援財団社会貢献者表彰等数々受賞。
●マスコミ(報道関係、出版業界等)からの多くの取材依頼があるほか、全国各地から講演依頼が寄せられている。