西暦2020年、令和2年。遅ればせながら賀詞をお届け申し上げます。
1994年、11月、皇太子夫妻(当時)の成婚後最初の海外訪問は中東(サウディ・アラビア、オマーン、カタール、バーレン)でした。
さて、この新年早々(1月11日~15日)、安倍晋三首相がサウディ・アラビア、UAE、オマーンを訪問しました。
今回、その経緯、目的、行程を見ていて、元中東駐在の商社マンとしては基本的なところの理解を進言せねばなりません。
1)今回の不穏な中東情勢 ← 米トランプ大統領の国連憲章違反が発端
2)5月のNY国連におけるNPT(核兵器不拡散条約)の最終検討会議
筆者の「九条は世界の宝」という主張の元(もと)は中東(及びNYC)駐在における紛争・テロとの遭遇、即ち「武力で平和構築は不可能」です。
1) 不穏な動きの中東情勢:
1-1) 1月2日、トランプ米大統領の命令で、イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官がドローン攻撃標的殺害。
これについて、国際民主法律家協会(IADL)は「国連憲章違反の違法な侵略行為であり、正当化されるものではない」と糾弾しています。
これは、トランプ米大統領の外交が「思いつき」であるという基本的危険性を指摘しています。
続いて、1月7日、暗殺のためのドローンが飛び立った在イラク米軍航空基地にむけてイランがミサイルを発射しました。
そのような一触即発の中東地域に、安倍内閣は自衛隊の派遣を決定。それに従い、1月10日、河野太郎防衛大臣は、護衛艦1隻と哨戒機2機の派遣を命令しました。(国会審議なしに)閣議決定によるその目的は「調査・研究」とのことですが、安倍晋三首相の「周辺国との平和協力をとりつける」という地球儀俯瞰外交の危険性が露呈しています。
そして、この新年早々、安倍首相が夫人連れで、サウディ・アラビア、UAE、オマーンを訪問。
1-2)サウディ・アラビアはイランと国交を断絶しており、また、UAEも同様イランとの外交関係は険悪です。そんな深刻な敵対関係ある危機を(安倍外交が)仲介する? あり得ないことです。 唯一あり得るとすれば「世界の宝憲法9条」「核兵器廃絶」という日本ならでの平和主義の行使です。
1-3)そして、余り報道されていませんが問題なのはオマーン訪問。
親イランとされるオマーンのカブース国王は永く病床にあり、結局、安倍首相の出発と同時刻に逝去しました。つまり、最初からトップ会談という可能性はなかった。にもかかわらず訪問を強行したということです。
カブース前国王は後継者を明らかにしておらず、唯一遺言状に残し、そこにハイサム・ビン・ターリク・アール=サイード遺産文化相が指名されており、そこで初めて新国王が誕生したわけゆえ、その政治方針は不明です。無駄を承知での外遊ということです。
1-4)そして、問題はオマーン前国王の弔問式に安倍首相が参加しなかったこと。
報道(NHK)によれば、前国王の死去を受けて、現地には13日までにサウディ・アラビアのサルマン国王やクウェートのサバハ首長など湾岸諸国の首脳。さらにはイランのザリーフ外相、そしてイギリスのチャールズ皇太子などヨーロッパの各国の王族も次々と弔問に訪れたとのこと。まさに、弔問外交が行われたわけですが、安倍首相はその絶好の機会を生かさなかった。
以上をまとめると要するに「中東訪問外交」は文字通り外遊に過ぎないということ。
「関係国に自制を求めることに成功した、自衛隊艦船の中東派遣を各国が歓迎した」と自画自賛が流れてきますが、問題は深刻です。
「地球儀俯瞰外交」で、何より、仲介、説得すべき相手はトランプ米大統領なのです。
付記:
アラブ(=サウディ)とペルシャ(=イラン)は人種も宗派も異なる。同じイスラム教のスンニ派、シーア派の分布図。
出典:livedoor.blogimg
2)国連軍縮NPT会議:核兵器の不拡散に関する条約(Treaty on the Non-Proliferation of Nuclear Weapons)
2-1)さて、いよいよの2020年。
7月のオリンピック・パラリンピックばかりが話題になっていますが、
「世界」「未来」「平和」「次の世代」に目を向けて、今、最も注目せねばならないのは5年毎のNPT検討会議の最後の目標年だということです。
私は、幸運にも、昨年9月、NY国連軍縮でその核心たる2020年5月、NPT再検討会議に関連するサイドイベントの情報(提案)を入手、鋭意その準備中です。
ことに4月22日~24日の世界会議には多くの識者が集まり、熱の入った論議がなされます。
中で、Nチョムスキー教授(MIT)や、2017年ノーベル平和賞受賞ICANのフィン事務局長が登壇とのことで、再会を楽しみにしています。
このコーディネータ J Gerson氏(American Friends Service Committee米国フレンズ奉仕委員会)とは2018年5月12日、TWO MUNUTES TO MIDNIGHT以来のやり取りです。
2-2)さて、改めてこのNPT会議のことを確認しましょう。
国連広報センターによると:
「 2000年に成立した合意によれば、準備委員会は再検討会議に対する勧告を含む合意報告書の作成に向け、全力を尽くすことを期待されていました。こ の目的を達成するため、数回の会合が開かれたにもかかわらず、見解の相違は解消せず、委員会は検討中の具体的課題について合意できませんでした。」
(2015年.5年前の会議報告)
NPTのレビューは5年毎に開催ですから、本2020年は4回目。最終回という最重要な会議。
過去3回はいずれも見解の相違は解消せず、具体的課題について合意に至らなかった、とのことですが、今回は何としても合意に至らせましょう。
その直接の関連として、2017年ノーベル平和賞受賞のICANのその授賞理由:同年 7月7日に国連の場で122カ国の賛成で採択された初の「核兵器禁止条約」(Treaty on the Prohibition of Nuclear Weapons)への貢献。
それを唯一の被爆国日本が批准・署名しないという事実。
これは糺されねばなりません。
付記:昨年10月29日、九条地球憲章の会、研究会での発表
注) 筆者個人の見解です。
◆浜地道雄(はまじ みちお)さんのプロフィール
1965年(S40)、慶応義塾大学経済学部卒業
同年、ニチメン(現双日)入社。石油部員としてテヘラン(イラン)、
リヤド(サウディアラビア)駐在
1988年(s63)、帝国データバンクに転職。同社米国社長としてNYCに赴任
2002年(h14) ビジネス・コンサルタントとして独立
現在、
・EF Education First Japan, Senior Advisor
(ノーベル博物館のスポンサー。世界最大級の国際教育事業)
・National Geographic/Cengage Learning kk, Project Consultant