参議院選挙の結果をどう見るか
7月21日投開票の参議院選挙。与党の自公は過半数を確保しましたが、前回2016年参議院選挙より得票数を減らし、自民党は単独過半数を割り、改憲勢力は3分の2以上を確保できませんでした。この結果は、与党・改憲勢力の圧勝とはとてもいえません。
一方の立憲野党。32ある1人区で前回並の10議席を確保し、29選挙区では野党統一候補の票が比例4党(立憲、国民、共産、社民)の票を上回り、立憲・国民は前回民進並の得票がありました。この結果は、立憲野党が一定の踏ん張りを見せたといえましょう。
しかし、立憲野党の闘い方はやはり不十分といえるものでした。自公は半年以上も前から全選挙区の候補者を決め準備をしてきたのに、立憲野党は全ての1人区で候補者を1本化したのは6月に入ってからです。参議院選挙は衆議院選挙と違って、あらかじめ選挙時期はわかるし、今回の立憲野党候補は新人が多いというのに。
また、前回参議院選挙では、関西を中心に複数区で立憲野党が共倒れしたので、私自身は複数区でも候補者調整をすべきだと主張してきましたが、今回も立憲野党はほとんどの複数区で候補者調整をしませんでした。その結果、いくつかの選挙区で改憲勢力に議席を取られています。かつての参議院選挙では、自民が負けて首相の退陣もあったというのに。
安倍政権が狙う9条改憲とは何か
今回の選挙結果から、また昨今の世論調査からすれば、国民は改憲が優先課題とは考えていません。しかし、安倍首相は9月11日の内閣改造・党役員人事で改憲派を多数起用し、10月4日の臨時国会所信表明演説などであらためて改憲に意欲を示しました。本人は改憲をしたいし、改憲を言い続けないと保守層の支持を得られないからでしょう。
その憲法9条に自衛隊を明記するいわゆる「加憲」論は、単に条文を追加するだけといったものではありませんし、単なる現状追認論でもありません。2018年3月に自民党が一本化した9条の「条文イメージ(たたき台素案)」は、衆参両院の議員法制局と憲法審査会の事務局が関与して条文化しているので、結構巧妙に作られており、一般の人には解釈が難しいところもあります。しっかりとこの条文を読み解いていく必要があります。
結局、9条に自衛隊の存在を明記することは、憲法上「自衛隊違憲」が言えなくなることを意味します。憲法学界では自衛隊違憲論が多数派であり、このような議論があったからこそ、自衛隊は軍隊ではない、専守防衛に徹する、海外派兵や集団的自衛権の行使はできないという歯止めをかけてきました。今回の改憲論は、このような歯止めをなくし、「戦争法」で集団的自衛権も行使できるようになった自衛隊を正当化・軍隊化し、アメリカと一緒に戦争をするためのものです。
また、安倍首相など改憲派は、9条「加憲」だけで終わらせるつもりはありません。さらなる全面改憲も考えています。その議論の際にたたき台になるのが、自民党が2012年に発表した「日本国憲法改正草案」です。天皇を元首にし、国民の人権を国家の論理で簡単に制限できるようにし、国防軍に全面的な集団的自衛権行使を認めているのです。
普通に考えれば、今後の日韓関係や米中関係など不安定要素がいくつもあるし、10月1日から消費税率を上げたことで消費は落ち込み、改憲どころではなくなってもよさそうです。とはいえ、相手が安倍政権ですから、警戒感を緩めてはいけません。
改憲に対抗するには何が必要か
この点で、2016年・2017年の衆参選挙で改憲勢力が3分の2以上を占めながら、国会での改憲の発議はおろか、憲法審査会での改憲案の提示さえさせなかったことに自信を持つべきです。国会内外での労組・市民・立憲野党の闘いがこれらを拒んできたのです。
一般的に、この間の共闘は「市民と野党の共闘」と言われていますが、正確には「労組と市民と野党の共闘」です。1980年代に分裂した連合系労組と全労連が共闘し、それに市民が加わって「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」が2014年12月に結成できたから、その後の立憲野党の共闘も実現できたのです。
自民党の強さは権力を握るために大同団結できること。これに対して、左翼・リベラルの欠点は対立・分裂を繰り返してきたこと。この限界をさらに超えていかなければいけません。さらに、戦争法廃止や改憲阻止のためには政権交代も必要です。この間の運動で築かれた野党共闘を維持・発展させ、今後の衆議院選挙で政権交代を目指さなければいけません。地域でも選挙でも本気の労組と市民と野党の共闘ができれば、安倍政権に勝てます。
以上のような、9条改憲の内容と問題点、これに対する対抗論などについて、48のQ&A方式でわかりやすくまとめたのが、10月に刊行した拙著『9条改憲 48の論点』(高文研)です。ぜひ、本書を読んでいただければと思います。
◆清水雅彦(しみず まさひこ)さんのプロフィール
1966年兵庫県生まれ。札幌学院大学法学部教授などを経て、現在、。専門は憲法学。研究テーマは平和主義、監視社会論。戦争をさせない1000人委員会事務局長代行、九条の会世話人。著書に、『治安政策としての「安全・安心まちづくり」』(社会評論社、2007年)、『憲法を変えて「戦争のボタン」を押しますか?』(高文研、2013年)、『9条改憲 48の論点』(高文研、2019年)など。