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今週の一言
「戦争させないために ~ 憲法裁判と平和憲法」
2019年10月28日

児玉勇二さん(弁護士)

1、はじめに
先日の参議院選挙は、安倍政権が目標としていた自公維など改憲勢力が、改憲発議に必要な3分の2の議席を確保できず、自民党も改選比で9議席減らし参議院単独過半数を割り込む結果となりました。それに対して市民と野党の共闘は、全国32の一人区のすべてで野党統一候補を実現し、10選挙区で大激戦を制し、一人区2議席から10議席へと躍進したことは共闘について大勝利と言えるものでした。私達市民連合と交わした13項目共通政策の共闘の力で、まだ連合政権構想実現の本気の共闘にまで至ってない不十分なところはありますが、また一歩前進し、安倍政権の目指す、アメリカと戦争する国への暴走の9条改憲への打撃となったことは間違いないことです。

それにも関わらず安倍首相は「少なくとも憲法改正について議論すべきというのが参院選での国民の審判だ。」と全く事実と違った強弁をせざるをえなくなっています。安倍首相に一番力を入れてほしい政策では、憲法改正はたった3%にすぎません(朝日新聞7月24日)、その選挙後臨時国会も遅らせ、改憲布陣を強化した内閣改造をし、小泉環境相を人気の目玉とし、昨年の韓国最高裁の徴用工判決をきっかけとした輸出規制強化を発動して、日韓間の最悪の対立を激化させ、その排外主義的なナショナリズム強化の中で、再び5割の支持率復活を果たし、改憲策動をなりふり構わず、強めようとしています。しかしながら、消費増税、年金社会福祉問題、森友加計政治疑惑問題、失敗だらけの外交問題など困難な課題を抱えた臨時国会が始まります。3000万人署名など改憲阻止の、消費増税反対の、原発反対の、辺野古基地建設反対の、先程の市民連合国民要求13項目実現、日韓市民連帯などの数々の我々の市民運動が発展して、先程の改憲発議3分の2を割らせた市民と野党の共闘の発展的な流れと共に、改憲阻止できる、場合によっては頑張れば安倍政権を打倒できる段階に近づくものと思われます。

私の本は、その意味でも、読んだ皆さんから、まさしくこの政治情勢にピッタリの「戦争をしない、させないため」の題名のみならず目次も、中身もこの政治情勢ピッタリのそれに闘う行動指針となる本だとお褒めの言葉を多くの人から頂いています。署名街宣などで、一緒にこの本も宣伝している、新聞機関紙に宣伝してほしいとの声や要請もきています。慶應義塾大学名誉教授の小林節先生から「憲法9条になぜこだわるべきか、本書を読めば、腑に落ちる。」、和光学園理事長、獨協大学名誉教授の古関彰一先生から「東京大空襲から安保法制までの論考をとうして、“戦争はいやだ”という主張がよく分かる本です。」と嬉しい推薦の言葉も頂いています。

2、本の中身を紹介します
[1]まずこの本は、一貫して、悲惨な戦争体験、戦争被害の事実から出発しています。
そして今の日韓問題の徴用工問題もそうですが、この本にも書きましたが、ILO条約29条違反の強制労働、1926年奴隷条約違反の危険労働や劣悪な環境下の死者も大勢出たような労働実態を、戦前、戦争中の労働力不足を植民地支配下の韓国朝鮮の人たちを欺罔して強制的に引っ張ってきた加害と被害の事実をまず忘れてはなりません。従軍慰安婦も裁判所でこの事実が認定されているのです。この戦争責任の清算が戦後不十分であったため、過去のその努力も踏みにじって、その歴史認識がない安倍政権とこれを支えている右翼日本会議の人々が再び大国意識で輸出規制など発動して、排外主義的なナショナリズムを煽って、尊敬と冷静さで隣国との、中国強制連行裁判などの経験を学びようともせず、話し合いでの真の和解を遠ざけているのです。マスコミも政治家も、多くの国民もそれに引きずられ安倍改憲にも利用されているのです。

だからこそ、この本は対内的な戦後補償のみならず加害責任の対外的戦後補償の裁判も紹介して、その被害者の方々の戦争とその戦後も苦しみ続けてきた、歴史的真実をまず学ばければならず、そこから 今こそ戦後の戦争責任をどう考え解決するかの途の、ヒントが見いだせるものと確信しています。小林節先生も推薦文で言っているように、なぜ日本国平和憲法、9条、前文ができたのか、これを守らなければならないのか、そのためにも、先のアジア太平洋戦争で、2000万人のアジアの人々を殺し、310万人の日本人が死んでいった歴史の真実を学びます。古関先生が、言う、なぜもう戦争は嫌だがわかる、数々の対外的戦後補償すべき戦争だけでなく、まだ補償がされていない国際法では違法の無差別爆撃の空爆、原爆、沖縄地上戦、軍隊での対内的戦後補償裁判での被害者の皆さんの、壮絶な戦争体験でまた戦後一生苦しんできた被害者の方々の、忘れてはならない人たちの悲痛な声を聞かなければならないのです。その被害事実を私達は直視することが大切なことを「第I部 もう戦争はいやだ」で述べています。

(1)最初の部分で、シベリア抑留体験者の戦後不戦兵士の会の一昨年なくなった猪熊得郎さんの陳述書から、地獄絵図の戦場体験と暗い谷間の時代を生き抜いてきた、二度と戦争を繰り返してはならない気持ちを持ち続け平和憲法を護る闘いをし、それ故に安倍首相らの戦争を知らず、最近では、「戦争で領土を取り戻す」と平気に口に出せる若い政治家たちの「戦争ごっこ」を平気でしようとしていることに痛烈な批判をしています。

(2)渡辺紘子さんの空襲体験は、「ちゃあちゃん、ポンポン痛いよ」と連れて逃げ回った妹が死に、機銃掃射の直撃でおぶった弟は頭も顔もわからず、まるでザクロのようになって鳴き声も挙げず死んで、機銃掃射でやられた自分の指とともに、死ぬまで背負っていかなければならない現実に疲れて、父、妹、弟の死が無駄死にでなかったと、国の偉い方に言ってほしいと願っています。この本のすべての裁判での被害者の声がこの本の戦争嫌だの、戦争をなくす、平和憲法を護る原点なのです。

[2]しかしながら安倍政権は,2014年7月過去の政府答弁などで認められなかった歴史的事実を覆し,立憲主義に反し,平和憲法,特に憲法9条改正を行わず,政府の解釈改憲として,集団的自衛権の行使容認を閣議決定してしまったのでした。そしてそれに基づいて2015年9月とうとう、違憲の戦争する国に舵をきった新安保法制を異常な強行採決で成立させてしまったのです。自国を守るため止むを得ないとされてきた専守防衛を超えて、アメリカなどのために軍事力を行使できる集団的自衛権行使、後方支援をできる自衛隊として、先制攻撃敵基地攻撃能力をもった自衛隊軍隊として大きく変貌して、アメリカから武器を爆買し軍事大国にいつの間にか変貌を遂げてきています。その上で、その完成として、未だ半分以上の人たちが反対しているにもかかわらず憲法9条に自衛隊明記するなど4項目の平和憲法改正に前のめりにふらつきながら猛突進しているのです。

[3]私自身の人生の柱としている「子どもたちを再び戦場へ行かせない」という弁護士としての活動が緊急かつ重要な局面にきていると自覚しています。しかしそれにもかかわらず、一方では、多くの国民は、無関心で、若者も、SNSなどに没頭して、ハンナ・アーレントの言う新聞も本も読まずに思考停止となり、無関心層が懸念するほど広がっています。黙示の共犯者となっています。これに自信をえて強権的にナチスと同じように戦争への暴走を安倍官邸のいうように「ワイルド」にスピードアップし日本は極めて危険な戦争局面前夜に来ていると考えています。しかし、一方では昨年のはじめから北朝鮮情勢も米朝会談、南北会談で北朝鮮半島の非核化、東北アジアの非核化、国連での核兵器禁止条約の採択などの世界史の視点での動きの中で、戦争の違法性と人間の尊厳をめざす本流の流れも強まってきています。国内では、市民と野党の共闘の流れも前進してきています。

このような状況を直視しながら、このような危機の中、平和憲法を武器として、むしろ平和憲法を日本のみならず世界中の平和の宝にできると考え、後半はそのために「第II部 戦争させないために」を大きなタイトルとして次の通りの構成にしました。

<1>その戦争させないために、共同代表として伊藤真弁護士も参加している訴訟の「第4章 安保法制違憲訴訟裁判」を紹介しています。
一、はじめに
二、憲法9条の解釈の歴史的変遷と具体的事実
三、憲法破壊の安保法制の国会審議
四、戦争法の殺し殺される危険性
五、新安保法制の成立とその後の実施による重大な明白な権利侵害
六、自衛隊の実態と変遷
七、南スーダン、イラク派遣の日報問題

これらはこの裁判での重要な請求の原因になっています。
また自衛隊の海外派遣派兵戦争裁判として、平和的生存権を根拠に自衛隊出動の差止めを求めた湾岸戦争を、イラク戦争を、またその裁判を紹介し、2008年の5月の名古屋高裁が自衛隊派遣の9条違反の違憲性を、平和的生存権が具体的な権利であることを認め、判決が確定したことを紹介し、これに基づいて今回の安保違憲訴訟でもこの平和的生存権を、また憲法13条からくるあらゆる分野で判例で認められつつある人格権をもって、自衛隊の出動命令差し止めにも活用していることを述べています。
これらはぜひ憲法問題でもあり政治問題でもあり歴史問題でもありこの箇所をぜひ読んでいただいて、この裁判は勝てるものであり、今戦争させないためにも勝たなければならないものなのです。自衛隊をアメリカの戦争戦略に協力させないことが今私達に緊急に求められているのです。

<2>しかしそれでも多くの人から私達に、それなら北朝鮮、中国から責められたらどうするのかと素朴な疑問質問がきます そのとき私達は日本のみならず世界中に平和を広げていくことしかその方法はなく、それを多くの人に示さなければならない重要な箇所です。
安倍政権の言う核抑止力や積極的平和(本当は軍事)主義への対案なのです。本当の積極的平和主義なのです。「第5章 世界史の中で考える」の目次で戦争違法性の20世紀から現在までの流れを紹介しています。

一、戦争の違法性
(1)戦争違法性の流れ、国際連盟と国際連合
(2)戦略爆撃の規制、民間無差別爆撃の禁止
(3)平和地域共同体
(4)核兵器禁止条約が国連で採決
(5)平和を実現するために積極的行動をとること
(6)北東アジアの平和  

二、コスタリカの積極的平和主義を
(1)コスタリカの憲法
(2)コスタリカの平和をつくる教育

3、そして最後に
「第6章 私たちは今何をしなければならないのか」のタイトルで
(1)今年の5月3日の憲法記念日で私達の平和集会と改憲集会が開かれこれらの人々とのせめぎあいになることを。
(2)民主主義・立憲主義と日本型ナチズムの到来と野党共闘が私達のもっとも今現在の大きな政治課題が書かれています。
ここではドイツの最も進んでいたワイマール憲法がナチスヒットラー到来によって崩壊していった歴史は、ご存知のように、これを真似ようとした安倍首相、政権、麻生副総理、日本会議が言う政治論、教育論、司法論、マスコミ論、フアシズム論、青年論からも、読んでいくと似通っていて、一種の不気味さを感じますが、これらを前提課題としてこの野党と市民の共闘がこれに対峙できる、今後の多くの闘い行動の課題方向が見えてくるはずです。
(3)そして今戦争前夜にあり、もはや無関心と無知は許されないことを私の大好きな中島京子さんの「小さいお家」から、尊敬している知の巨匠加藤周一さんの「羊の歌」の一節を紹介して「もう戦争は始まっている」「この2019年がその分岐点の年になっていたかもしれません」「今何をすべきか、何をしなければならないのか」私達は肝に命じておくべきです。そして、「安倍改憲阻止に向けて」9条改正の問題を最後として解説し「米国とともに世界中で武力を行使できる軍事大国を阻止しなければならないのです。」で終わります。
ぜひ買い求めて、広げてください。
このことで、安倍改憲阻止、軍事大国化を食い止め世界中に平和を作っていくことに少しでも力になりたく願っています。

◆児玉勇二(こだま ゆうじ)さんのプロフィール

1943年、東京生まれ。
68年、中央大学法学部卒業。71年、裁判官就任。73年、弁護士となる。
東京大空襲裁判弁護団副団長、全国空襲連運営副委員長、安保法制違憲訴訟弁護団常任幹事、七生養護学校裁判弁護団長、中国人損害賠償請求事件弁護団員、市民平和訴訟弁護団員、国連子どもの権利条約カウンターレポートを創る会共同代表、世田谷戦争をさせない1000人委員会共同代表、コスタリカの平和を学ぶ会共同代表、元立教大学非常勤講師「人権論」

主な著書に
『子どもの人権ルネッサンス』(明石書店、1995年)
『ところで人権です あなたが主役になるために』(岩波ブックレット、1999年)
『性教育裁判 七生養護学校事件が残したもの』(岩波ブックレット、2009年)
『知的・発達障害者の人権差別・虐待・人権侵害事件の裁判から』(現代書館、2014年)
『子どもの権利と人権保障』(明石書店、2015年)
『戦争裁判と平和憲法』(明石書店、2019年)
その他


 

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