法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
憲法をめぐる動向
イベント情報
憲法関連裁判情報
シネマ・DE・憲法
憲法関連書籍・論文
今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

LGBT問題の現状と課題 〜東京・中野区の取り組み。そして全国へ

2018年9月10日



石坂わたるさん(中野区議会議員)

★LGBTの置かれている状況
 私がLGBTのG(ゲイ)の自覚を持ち始めたころから約30年が経ちました。その間に社会の状況は格段に変わりましたが、今でも様々な課題が残されています。いくつかを取り上げたいと思います。

●教育上の課題
 「ロシア人のAくんも、車いすを使っているBさんも、ひとり親のCくんもみんな一緒だよね。みんな一緒で仲がいいのが一番だよね」という言葉、教育の場で耳にすることがあるのではないかと思います。しかし、「みんな一緒」と言われたときに、お父さんが韓国人のXくんや、学習障害のあるYさんや、お母さんとその同性カップルと一緒に3人暮らしをしているZくんが、「自分も一緒だ」と思えるのかと言えば、そうはならない場合があります。
 クラスメイトが「Aくん、Bさん、Cさんは一緒だけど、Xくん、Yさん、Zくんはみんなとどこか違う」と思い始めることや、Xくん、Yさん、Zくん自身がそう感じてしまうこともあります。もし、「XくんやYさんやZ君のような人も一緒」という指導をさらに行った場合、また別のだれかが疎外感を感じたり排除されたりすることが起こりえます。
 もしも、担任の先生が「社会にはいろいろな人がいるように、クラスにもいろいろな人がいるよね。国籍も、心身の状態も、家族もいろいろな人がいるよね。そして、クラスの友達は一人一人違っていて、誰一人として同じ人はいない。『みんな違ってみんないい』そんなクラスにしたいよね」といってくれたならばそれで救われる子どもたちはもっと増えるのではないかと思います。

●LGBTの職場や社会での生きにくさ
「LGBTの社員がいたっていいんじゃない?」
「そうそう、オリジナリティあふれるセンスや独自な視点や独創性を生かして働いている人が多いし、うちの職場でもそういう人が活躍できるようにしたらいいんじゃないかな?」
「知人の職場では、同性愛者であることをオープンにしていて、人一倍たくさん働いて、業績を上げて、会社の利益に貢献してて、管理職からの信頼も厚いと聞いたよ」
こうした会話が出てくる会社の雰囲気はLGBTが働きやすい会社の雰囲気の例として思い浮かべる方がいるかもしれません。
 しかし、こうした会話を聞いた時「何のとりえもない平凡な自分、人並みか中の下くらいにしか働けていない自分は、そんな風な活躍はできないし、とてもカミングアウトなんてできないな。もしもバレたら、SOGIハラに遭って職場に居づらくなるんだろうな」と思ってしまうLGBTの社員がすぐそばにいるかもしれません。
 (なお、性的指向・性自認のことをSOGIと言います。LGBTはSOGIにおけるマイノリティではありますが、性的指向・性自認はグラデーションでとらえるべきもので、セクシュアリティは千差万別であり、性的マジョリティもそのSOGIのグラデーションの中に位置づけられます。)
 相手を性的マジョリティだと決めつけて、恋愛や家族などについて根掘り葉掘り聞くことや、幸せの形を押し付けること、LGBTであることが分かったうえで嫌がらせをしたり、冷遇をしたり、矯正しようとしたりすること、目の前にLGBT当事者がいることを知らずにLGBTを揶揄する発言をして相手を不快にすることなどはSOGIハラ(セクハラの一種)と言われます。また、「ゲイであればみんな優れたセンスを持っている。」、「ゲイであっても能力があったり努力家であったりすることによって人一倍の成果を上げれば認められる。」という決めつけも当事者を苦しめることになることを知っていてもらえたらと思います。

●LGBTの貧困や心身の病気
 「自分はみんなと違うんだ」、「自分はマジョリティと同じようには活躍できないな」という思いにとらわれて子ども時代をすごしたり、職場でのいづらさを感じてきたりしてきた人の中には、(LGBT全体の中での一部ではあるかもしれませんが、)LGBTでない場合よりも高い確率で、自己肯定感が低いままになってしまう人、罪悪感を抱えてしまう人、周囲に対する信頼感を感じられずに孤立をしてしまう人が多くいます。その結果、抑うつ状態になったり、自分を大切にすることができないままに心身に対して好ましくない形でのリスクの高い刹那的な行動を選択してしまうようになったり、あるいは、依存に陥ったりということも少なくありません。また、未来に展望が持てないままに学校をやめてしまう、同じ場所に長く勤められずに職を転々と変えてしまう、長期にわたる失業状態に陥ってしまう、失業・カップル間のDV・行く当てもなく実家を出てしまう等によって住まいがない状態(路上でのホームレス、ネットカフェ難民、友達の家を転々とする、寮のあるセックス産業に従事する、身体を提供することで食事と寝床を提供してくれる相手を探す等)になる人もいます。((参考)LGBTハウジングファーストを考える会

★政治的チャレンジとしての中野区での動向
 こうした状況をどのように変えていくのか、市民運動で社会に訴えて変えていく、市場と経済の力で企業や投資家や消費者を変えていく、情報発信で社会の雰囲気を変えていくなど様々な方法がありますが、市場と社会の力で変えられないものを変えていく方法の一つに政治があります。

●政治的なアプローチ
 憲法や法の精神に則って正しい答えを導き出して正義を実現するのが司法、法律を誤りなく忠実に実行して万人に平等なサービスを提供するのが行政であるとしたとき、議会(地方議会や国会)の特徴はどのようなものなのでしょうか。一つの善があってそれを実現することが難しいことや、放っておけば社会や市場が解決するというわけにはいかない課題に対して、多様な住民や国民の声を代弁し、合意形成を進め、最終的な決定は各議員の政治的判断に則って多数決で決めつつ、少数派の意見もその中に盛り込んでいくことを模索していくのが合議制である議会の役割です。
 議員はLGBTの存在に対して、絶対的な善悪といった本人の中の価値基準によって判断をすることもありえますが、それ以上に、その扱う領域にあるいは有権者の中に、自分の支持者の中に、自分に投票をしてくれるかもしれない人の中に、議員である自分を頼って困りごとや市民として気づいたことについて意見や相談を寄せてくれる人の中にLGBT等がいるのだと思えることなどが作用して議員の言動を決めることにつながることもあります。
 敵を定めて正しい主張を続けていくという方法もありますが、理解をしてあるいは理解をしようとする仲間を議員の中に増やすとともに、反目・敵対して立ちはだかる勢力を懐柔して減らして信頼関係に変えて行くというやり方もあります。私は比較的後者を選択してきました。

●中野区における外堀を埋める作業
 中野区では、同性パートナーシップ制度の要綱を作った区長は自民党・公明党の推薦を受けた田中大輔区長であり、議会構成も自民党が議会における第1党であり、自民党と公明党あるいは、自民党と旧民主党と保守系諸派・保守系無所属の組み合わせで過半数という状況でした。中野区の5か月前に制度がつくられた福岡市を除くと非自民勢力の力で首長になっている首長の自治体でパートナーシップ制度がつくられている状況という中で、制度の立ち上げを目指すこととなりました。(これは日本の多くの自治体でも当てはまる状況であると思われます)
 国や世界の動向を示しつつ否定できない質問という形で、ごく当たり前の基本的人権をLGBTが享受できる主体であるか否かを問う形で否定できない当然の権利を確認していく作業に取り組む段階。障がい者や外国人や高齢者等とLGBTが共通する困りごとを当事者の声も紹介しながら具体的に一つ一つ取り上げて解決していく作業に取り組む段階。誰が聞いても「それはひどい」と思ってもらえるLGBTが抱える課題について解決をしていく作業に取り組む段階。そしてLGBTもその他の社会的マイノリティも含めたすべての人の人権への配慮や困りごとの解消を進めていく根拠となる条例(中野区の場合はユニバーサルデザイン推進条例)を制定する段階。ユニバーサルデザイン推進条例の理念の上にこれまでの制度運用では解決しきれない問題を解決していく方法としての同性パートナーシップ制度の開始という段階を、行きつ戻りつしながら外堀を埋めて城内に入りこむ作業をしてきました。

●同性パートナーシップ制度の効果と限界と意義
 なお、外堀を埋めて城内に入ったとはいえ、同性パートナーシップ制度が本丸とは言い切れない面があります。同性パートナーシップ制度は「法的効果がない」と言われます。基本的には強制力のない制度であり、それをどう活用可能なものとするのかは、受け取った行政機関、民間企業(金融機関、不動産事業者、保険会社、民間病院等)にゆだねられています。
 これによって、カップルで共同してローンを組む、二人の名義で賃貸住宅を借りる、死亡保険金の受け取りにパートナーを指定する、瀕死で家族以外面会謝絶状態の連れ合いと面会をするなどが可能となることが期待されます。
 しかし、これはあくまでも「期待」であって、効果を認めるかどうかはサービス提供者に委ねられています
 しかし、その可能性を広げるあるいは実際にサービスを受けられる場が増えているというのは紛れもない事実であり、制度がない自治体の同性カップルが、制度のある自治体の同性カップルと比べて不利であり不利益を被っているとも言える状況になってきています。

●手段としての同性パートナーシップの意味と目的とすることの危険性と行政の理解を得ることの難しさ
 同性パートナーシップ制度ができることで具体的な行政や民間のサービスを受けることができるようになる可能性が広がりますが、それ以上に登録をしたカップルが社会的に承認をされたという安心感や社会的に認定されたという気持ちを得られること、登録をしていないカップルや、それ以外のLGBT当事者も社会が同性カップルを公的に認めたことによってLGBT全体が社会的に肯定された、社会倫理的にも是認されたという感情を持つことができる、自己肯定感も高まるという意味があります。
 しかし、その一方で、行政が制度を作る目的としては具体的な住民の利便性の向上や不便の解消にあるのであって、自己肯定感を高めたり、承認欲求を満たしたり、社会倫理に関与するものではないという考え方もあります。そうした点においては、制度を作ることによる具体的な効果を上げて制度設計を進めることが必要でありますし、その一方で、制度ができ、カップルであることを明かすことができないために登録に踏み切れない同性カップルも含めてすべてのLGBT当事者にとって様々な不安や不便を解消できるきっかけにできるものにしていくことが必要です。
 登録に踏み切れたカップルに対してパートナーであることの証明書を発行しさえすればLGBTの抱えるすべての問題が解消されると考えるようなことがあってはならないと思われます。これを一つのきっかけあるいは手段として、LGBTに対する冷遇や偏見を解消し、すべての人の性的指向・性自認などの多様性が尊重され護られる社会を進めていければと思います。また、中野区で段階的に進めてきた方法は時間のかかる方法でもありますが、保守系が強い他の自治体でも実現可能でありえる方法であると思われます。多くの自治体がそれぞれの地域の実情に併せて様々な性的指向や性自認の人が暮らしやすい社会を作っていただけたらと思います。

◆石坂わたる(いしざか わたる)さんのプロフィール

中野区議会議員(無所属)、精神保健福祉士、行政書士。
立教大学大学院修了【修士(社会デザイン学)】
養護学校教諭、公立教育センター職員、専門学校非常勤講師(児童福祉・保育)などを経て、現職。
LGBTのG(ゲイ)の当事者としての視点、障碍児教育の現場の経験などを活かして地域課題の解決に議会の中で取り組んでいます。

石坂わたるHP





 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]