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食の危機と奪われる知る権利

2018年6月25日



天笠啓祐さん(ジャーナリスト)

悪化の一途をたどる食の安全
 食をめぐる状況は、悪化の一途をたどっている。食料がなくなりつつあるわけではない。むしろ大量に作られ消費され、あるいは捨てられている。いま起きている危機は、食の質の低下であり、安全性の危機である。じわりじわり訪れているため、多くの人が気付かない状態で進行している。具体的に述べていこう。
 いま食品添加物が次々に承認されており、加工食品は添加物が多種類、大量に使用されるようになってしまった。農薬の残留基準が緩和され、野菜や果物などでの農薬汚染は深刻である。安全性に疑問がある遺伝子組み換え食品を日本人が世界で最も高い割合で食べている。しかも食品表示制度が業界寄りで、そのことを消費者は知ることができない。できないどころか、さらに分からなくなるように制度の改悪が進められている。
 この危機の最大の要因が、グローバル化である。海外の安価な穀物、原料や加工品の流入を加速してきた。いまスーパーやコンビニなどに行き、食品売り場を覗くと、一見国産に思える惣菜やお弁当、加工食品も、その原料のほとんどに輸入食材が用いられている。野菜はアジア、穀物は米国、食品添加物は中国産が増えており、国産の原料はごくわずかである。
 輸入穀物や野菜は、長距離輸送の際に起きるカビや腐敗などを防ぐため、農薬を多量に用いることを当たり前にしている。ポストハーベスト農薬である。食品添加物も輸入ものが増大しているが、特に増えているのが中国産で、不純物が多く安全性に懸念が生じている。さらには北南米産の穀物では遺伝子組み換え作物が増え続けている。

食品安全委員会はできたものの
 消費者が食の安全を強く意識した大きな出来事が、2001年に起きたBSE(狂牛病)の発生だった。この出来事をきっかけに消費者の食品行政に対する不信が強まり、2003年7月1日、食品安全委員会が設立され、食品安全基本法を施行し、食の安全を守る仕組みが作られたはずだった。この食品委員会は本来、政府の外に置かれ、客観的・科学的に安全性を評価することが求められていた。EUなど諸外国ではそのようになっている。しかし日本では内閣府の中に置かれたことで、政治的な影響をまともに受けることになってしまった。いわば経済性が安全性より優先されるようになってしまったのである。しかもTPP(環太平洋経済連携協定)締結に向けて動き出した時期に、安全性より貿易をいっそう優先するようになり、国際基準に合わせて緩和が図られてきた。その代表が、食品添加物である。
 このところ急ピッチで新たな食品添加物の承認が進められている。安全性評価もまともに行われないまま、次々に日本政府が承認しているのが「国際汎用添加物」である。食品添加物は、安全性評価や承認が各国ごとに行われてきた。なぜ各国ごとかというと、それぞれの国で食文化が異なり、摂取する食品の種類や摂取量が異なるからである。しかし、そのことは貿易促進には都合が悪い。ある国で認めているのに、他の国では認めていないものが多くなり、食品の輸出入ができなくなるためである。そこで国際統一化を進める動きが強まった。いわば欧米で認めているものは、日本でもどんどん認めるべきだということで、「国際汎用添加物」がリストアップされ、次々に認められてきたのである。
 TPP参加が現実化する中で、厚労省はさらに承認をスピードアップするために、政府による規制・制度改革に係る方針(2011年4月8日閣議決定)に基づき「食品添加物の指定手続の簡素化・迅速化」措置を決めたのである。垂れ流し認可体制ともいえるものが作られたのである。これは同時に、海外からの加工食品の輸入を増やすことにつながったのである。

農薬の残留基準緩和が相次ぐ
 農薬汚染もグローバル化の影響を受けてきた。輸入食品の農薬汚染が問題になったきっかけは、中国から輸入された野菜に高濃度の農薬が残留していたことからである。このことがきっかけになって、2006年5月29日から、農薬の食品への残留問題で、規制の方法が変更になった。ネガティブリスト制からポジティブリスト制への移行である。ネガティブリスト制では、リストに掲載されていない農薬や、基準値設定のない農薬は、規制できなかった。それに対して、ポジティブリスト制では、リストに載っていない農薬に一律で残留基準(0.01ppm)が適用され、それを上回った農作物は流通が禁止された。規制強化であり、消費者には分かりやすくなった。
 その結果、米国産の作物、とくに果実を直撃した。米国産のイチゴ、オレンジ、サクランボ、レモンなどが、基準値オーバーということで輸出できないなどのケースが出始めた。米国は、タイ、台湾、メキシコ、フィリピンに続いて、果実での違反件数が多い国の一つにあげられている。米国は日本がとっているポジティブリスト制をやり玉にあげた。TPP交渉の過程で、そのポジティブリスト性を無効にするかのように、農薬の残留基準が緩和され、その勢いは今日まで続いてきたのである。
 そのグローバル化の象徴とみられてきたのが、遺伝子組み換え(GM)作物である。国際アグリバイオ事業団(ISAAA)によると、2016年におけるGM作物の作付け実績は1億8510万ヘクタールになり、世界の農地の10%を超えた。その大半が米国モンサント社であり、種子の独占化がすすみ、多国籍農薬企業による食料支配が強まっている状況が示されたといえる。現在、世界で販売されている種子の約60%が、わずか4社の多国籍農薬企業が支配する、寡占化が起きている。トップ企業モンサント社に続く米国デュポン社、スイスのシンジェンタ社、独バイエル社の4社である。この4社によって世界で使用される農薬の3分の2が製造されている。種子を支配し、農薬を売り込み、食料を支配するためのGM作物開発であることが、いっそう明瞭になってきたといえる。それを後押ししているのが、米国の食料戦略であり、その有力な武器が貿易自由化圧力である。しかも、米国などGM作物作付け国に食料を依存しているのが、私たちの食卓である。

改悪された遺伝子組み換え食品表示制度
 消費者が食の安全を守るうえで、大事だと思ってきたのが食品表示である。食品を選択する際に、それだけが頼りとなっている。しかし、現実問題として、加工食品には基本的に原産地表示がない。輸入食材が使われていても分からない仕組みになっている。食品添加物も、簡略表示や一括表示が多く、ましてや輸入されたものかどうかは表示されていない。遺伝子組み換え食品も豆腐・納豆・味噌程度しか表示されていない。そのため消費者は、選択することができない状態に置かれ続けているのである。
 米国政府通商代表部は毎年、自国の輸出を増やすために、日本を含めて各国の制度に介入してきている。そこでは米国の最大の輸出戦略商品である食料について、最大の障壁が他国の食品表示制度にあると指摘している。厳密で正確な表示ではなく、いっそう簡略化した表示や、遺伝子組み換え食品に至っては表示自体をなくさせようとする動きもみられる。日本政府もそれを受けて、いっそう消費者に背を向けた制度に改悪しつつある。今年3月には新しい遺伝子組み換え食品表示制度が提案されたが、そこでは「遺伝子組み換え」という文字自体をほとんど使うことができなくする制度が提案されている。消費者はその食品が遺伝子組み換えかどうかまったく分からなくさせようというのである。市民の最も大切な権利のひとつである知る権利、選ぶ権利が、食の分野で奪われつつある。

◆天笠啓祐(あまがさ けいすけ)さんのプロフィール

1947年東京生まれ、早大理工学部卒、『技術と人間』誌編集長を経て、現在、ジャーナリスト、市民バイオテクノロジー情報室代表、日本消費者連盟共同代表、遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン代表、法政大学・立教大学元講師。主な著書『原発はなぜ恐いか』(高文研)、『中高年のためのくすりとつきあう常識・非常識』(日本評論社)、『遺伝子組み換え食品入門』『生物多様性と食・農』(緑風出版)『遺伝子組み換えとクローン技術100の疑問』(東洋経済新報社)、『いのちを考える40話』『脱原発一問一答』(解放出版社)、『子どもに食べさせたくない遺伝子組み換え食品』『子どもに食べさせたくない食品添加物』(芽ばえ社) 、『地球とからだに優しい生き方・暮らし方』(つげ書房新社)ほか多数。





 
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