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内閣官房報償費(機密費)情報公開訴訟で一部勝訴しました

2018年3月5日



上脇博之さん(神戸学院大学法学部教授)

1.内閣官房報償費とは?

 皆さん、「内閣官房報償費」をご存知でしょうか?

 これは、内閣官房長官が公務のために自分の判断で自由に支出できる公金なのですが、その使途は世間に公表する必要がなく、たとえ領収書が徴収されていたとしても、会計検査院でさえその領収書をチェックできず、支払いの相手方も知らされないまま検査せざるをえないという超特別扱いされている公金なのです。それゆえ、従来「官房機密費」とも呼ばれてきました。現在では年間14億6000万円が国家予算として計上されているそうです。

 公式の説明を(小難しい表現ですが)紹介しておきましょう。

 内閣官房報償費とは、「国の事務又は事業を円滑かつ効果的に遂行するため、当面の任務と状況に応じ、その都度の判断で最も適当と認められる方法により機動的に使用する経費であり、具体的な使途が特定されない段階で国の会計からの支出が完了し、その後は基本的な目的を逸脱しない限り、取扱責任者である内閣官房長官の判断で支払が行われるとともに、その使用は内閣官房長官という政治家による優れて政治的な判断の下で決定されるもの」。

2.内部文書と目的外支出疑惑
 この「内閣官房報償費」の使途を知りたくて、私は2006年に情報公開しました。その理由は、次の理由からです。

 まず、2001年に、元要人外国訪問支援室長の「外務省報償費(機密費)」詐取事件(逮捕は3月10日)がマスコミで報じられ、機密費が「組織ぐるみ」で流用され、かつ外務省報償費が官邸に「上納」されていたのではないかとの疑惑へと発展しました。

 そして、同年2月には、竹下登内閣(1987年11月6日~1988年12月27日改造~1989年6月3日。内閣官房長官は小渕恵三氏)から宇野宗佑内閣(1989年6月3日~同年8月10日。内閣官房長官は塩川正十郎氏)への「引継ぎ文書」が国会で取り上げられたのですが、この「引継ぎ文書」は、1989年5月に作成された文書で、当時、首席内閣参事官だった古川貞二郎氏が作成したと筆跡鑑定でみなされており、いわゆる「古川ペーパー」とも呼ばれました。

 これは、機密費が外務省から内閣官房に「上納」されたという疑惑を裏付けるもので、かつ、官房機密費が消費税の導入等のために投入されたのではないかと国会で追及され、マスコミも注目し報道しました。

 また、翌2002年4月には、ほぼ10年前の宮沢喜一内閣(1991年11月5日~1993年8月9日)で加藤紘一衆議院議員が官房長官を務めていた時期(1991年11月~1992年12月)の内閣官房報償費のごく一部(14カ月分で約1億4380万円)についての内部文書が国会で取り上げられ、報償費の使途としては相応しくない「国会対策費」や「(政治資金集めの)パーティー」等に支出されているのではないかと追及が行われ、マスコミもこれに注目し報じました。

 以上が真実だとなると、内閣官房報償費は本来の目的以外のために支出されたことになり、違法または不適切な支出と評されることになります。

 そこで、2006年10月、市民団体「政治資金オンブズマン」共同代表である私は、2005年4月~2006年9月までの内閣官房報償費(小泉純一郎内閣の細田官房長官、安倍官房長官時代)の関係資料について情報公開請求したのです。

3.情報公開請求とその裁判で明らかになったこと
 同年11月、一部開示がなされました。その結果、両官房長官がほぼ毎月計1億円(5000万円を2回)を請求していることが判明しました。

 しかし、毎月受け取った計1億円をいつ何のために誰に対して支出したのかが記載されている「具体的に使途のわかる支出関係書類」については「その具体的な使途に関する文書を明らかにすることは、事務の円滑かつ効果的な遂行に支障を及ぼすおそれ」があるし、「他国等との信頼関係が損なわれるおそれ、他国等との交渉上不利益を被るおそれがあるもの」があるとして、1枚の行政文書も開示されなかったし、どのような文書があるかも明らかにされなかったのです。

 私は、部分開示さえなされないのはオカシイ(違法)と判断し、翌2007年5月、大阪地方裁判所に非開示処分の取消を求めて訴訟を提訴したのです(第1次提訴。なお、細田官房長官時代の分は裁判の途中で取り下げましたので、対象になった内閣官房報償費の合計額は約11億円)。

 その後、「政治資金オンブズマン」は、河村建夫・官房長官(2009年9月の半月だけで2億5000万円)、菅義偉・官房長官(2013年の約13億6000万円)による使途を明らかにさせるために、2つの訴訟を提起しました。2つ目(第2次訴訟)は同じ「政治資金オンブズマン」共同代表の公認会計士の方が、3つ目(第3次訴訟)は研究者の私が、それぞれ原告です。

 第1次訴訟を提起したことで、従来分からなかったことが明らかになりました。

 内閣官房報償費には「目的類型」があり、それについて裁判官が釈明を求めたため、ようやく国が整理し、明らかにした結果、内閣官房報償費には支出の目的別に「政策推進費」「調査情報対策費」「活動関係費」の3つの類型があることがわかりました。

 そのうち、「政策推進費」とは、「内閣官房長官が、政策を円滑かつ効率的に推進するために機動的に使用するもの」であり、官房長官「自ら出納管理を行い、直接相手方に渡す経費」で、非公式の交渉や協力依頼に際して関係者の合意や協力を得るための対価、有益な情報を得るために支払われる対価で、領収書なしも可能である(領収書を徴収しても良い)というのです。
また、内閣官房報償費の支出に関する行政文書には「政策推進費受払簿」「報償費支払明細書」「出納管理簿」「支払決定書」「領収書等」の5つの文書があることもわかりました。

 そのうち「政策推進費受払簿」は、内閣官房長官が政策推進費として使用する額を区分するもので、都度作成されるそうです(月に1~2枚)。

 「政策推進費受払簿」に記載されている情報は、政策推進費を受け取った「年月日」のほか、「前回残高」「前回から今回までの支払額」「現在残額」「今回繰入額」「現在額計」「内閣官房長官(氏名、押印)」「確認((事務補助者)内閣総務官室(氏名、押印))」。つまり、支払相手方の情報は一切記載されていません。

4.最高裁判決の一定の意義
 最高裁第2小法廷(山本庸幸裁判長。以下「最高裁」という)は、昨2017年12月22日に口頭弁論を開き、今年1月19日に、「政策推進費受払簿」と、「出納管理簿」・「報償費支払明細書」のうち「政策推進費の繰入れに係る記録部分」について、それらが開示されても「内閣が推進しようとしている政策や施策の具体的内容、その支払相手方や具体的使途等を相当程度の確実さにもって特定することは困難である」として開示を命じたのです。

 一部勝訴判決です。

 通常の公金とその使途に関する行政文書とは異なり、会計検査院でさえ領収書をチェックしない「官房機密費」と呼ばれた「内閣官房報償費」の使途に関する文書につき、その一部だけではあるものの、原告の請求を認容して開示を命じた点で、最高裁判決は、"画期的な判決"として高く評価できます。

 第一に、これまで情報公開請求しても機密費と呼ばれる内閣官房報償費の使途について1枚の文書も開示されてこなかったのですから、一部であれ使途に関する文書が開示されることになるのは、「開かずの扉をこじ開けた」ことになるからです。

 第二に、原告らの請求が認容された一部は、決して些細な一部ではなく、重大な一部だからです。「政策推進費受払簿」と「政策推進費の繰入れに係る記録部分」の開示が実際に行われれば、内閣官房長官が毎月請求している報償費計1億円のうち、必ずしも領収書の徴収を要せず官房長官が自ら管理し自らの判断で自由に支出できる「政策推進費」が幾らであることが判明し、その結果として、領収書の徴収がなされている場合の多い「調査情報対策費及び活動関係費」が同様に幾らであることも判明します。

 そうなると、例えば、毎月1億円の報償費のうち領収書の必要のない「政策推進費」が7000万円~8000万円もある場合と、2000万円~3000万円にすぎない場合とでは、「政策推進費」、さらには「内閣官房報償費」全体に対する国民の評価は大きく異なることになるでしょう。

 また、第2次訴訟の対象になった金額は半月足らずで2億5000万円が支出されていた上に、民主党への政権交代が確実だった時期で報償費の支出がほとんどないはずの時期なので、高額すぎる2億5000万のうち「政策推進費」が幾らだったのかが判明することは極めて重要です。おそらく重大な政治問題になるでしょう。

 だからこそ、最高裁判決は"真っ暗闇に大きな光を当てた判決"と高く評価できるのです。

5.いまだに開示されず
 菅義偉・官房長官は、最高裁判決直後の記者会見で「政府として重く受け止める」と述べました。その発言から6週間を超えましたが、いまだに開示を実行してはいません。最高裁判決が下され、国は一部敗訴したのに、いまだに情報を出し渋っているのです。

 私たち原告は代理人の弁護士を通じて最高裁判決前から(その後も)要望書の手渡しや直接の面会等を求めてきたのですが、決して応じようとはしません。異常です。判決後1カ月が経過した時点でNHK等の報道機関がそのことを報じたほどです。

 いくら立憲主義と民意を蹂躙し、行政文書の隠蔽や虚偽答弁がお得意の安倍政権であるとはいえ、最高裁判決が下されたのですから、そろそろ私たちの要望に応じ、一日も早い開示を行ってほしいものです。このままでは独裁国家と変わりません。

上脇博之 ある憲法研究者の情報発信の場 

◆上脇 博之(かみわき ひろし)さんのプロフィール

神戸学院大学法学部教授・憲法学

1958年7月生まれ。鹿児島県姶良郡隼人町(現「霧島市隼人町」)出身。
1984年3月、関西大学法学部卒業
1991年3月、神戸大学大学院法学研究科博士課程後期課程単位取得退学
1991年4月-1993年3月、日本学術振興会特別研究員(PD)
1994年4月、北九州大学法学部・専任講師(赴任)
1995年4月、同大学同学部・助教授
(2001年4月、北九州市立大学法学部・助教授[大学の名称変更])
2002年4月、北九州市立大学法学部・教授
2004年4月- 神戸学院大学大学院実務法学研究科・教授
2015年4月- 現在

学位
博士(法学) 2000年2月 神戸大学

市民運動
政治資金オンブズマン」共同代表
憲法改悪阻止兵庫県各界連絡会議」(兵庫県憲法会議)事務局長
公益財団法人「政治資金センター」理事
国有地低額譲渡の真相解明を求める弁護士・研究者の会」会員
など

単書
(1)『政党国家論と憲法学 - 「政党の憲法上の地位」論と政党助成』信山社・1999年[北九州大学法政叢書17]。
(2)『政党助成法の憲法問題』日本評論社・1999年。
(3)『政党国家論と国民代表論の憲法問題』日本評論社・2005年[神戸学院大学法学研究叢書14]。
(4)『ゼロからわかる政治とカネ』日本機関紙出版センター・2010年。
(5)『議員定数を削減していいの?』日本機関紙出版センター・2011年。
(6)『なぜ4割の得票で8割の議席なのか  いまこそ、小選挙区制の見直しを これまでに出た本/なぜ4割の得票で8割の議席なのか-1/』日本機関紙出版センター・2013年。
(7)『自民改憲案 vs 日本国憲法  緊迫!9条と96条の危機』日本機関紙出版センター・2013年。
(8)『安倍改憲と「政治改革」 【解釈・立法・96条先行】改憲のカラクリ』日本機関紙出版センター・2013年。
(9)『どう思う?地方議員削減 【憲法と民意が生きる地方自治のために】』日本機関紙出版センター・2014年。
(10)『誰も言わない政党助成金の闇  「政治とカネ」の本質に迫る』日本機関紙出版センター・2014年。
(11)『財界主権国家・ニッポン  買収政治の構図に迫る』日本機関紙出版センター・2014年。
(12)『告発!政治とカネ  政党助成金20年、腐敗の深層』かもがわ出版・2015年。
(13)『追及!民主主義の蹂躙者たち  戦争法廃止と立憲主義復活のために』日本機関紙出版センター・2016年。 
(14) 『追及! 安倍自民党・内閣と小池都知事の「政治とカネ」疑惑』日本機関紙出版センター・2016年。
(15)『日本国憲法の真価と改憲論の正体  施行70年、希望の活憲民主主義をめざして』日本機関紙出版センター・2017年。
(16)『ここまできた小選挙区制の弊害  アベ「独裁」政権誕生の元凶を廃止しよう!』あけび書房・2018年。



 



 
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