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消費者被害の現状と消費者裁判手続特例法活用の課題

2018年1月29日



磯辺 浩一さん(特定非営利活動法人消費者機構日本専務理事

消費者被害の現状
 2016年度に全国の消費生活センターが受け付け、全国消費生活情報ネットワークシステム(PIO-NET)に登録された消費生活相談情報の総件数は887,316件でした。そのうち「契約・解約」と「販売方法」のいずれかが問題となっている「取引」に関するものが85.7%を占めています。※1
 被害やトラブルにあった方のうち相談・申出をした方が55.2%であり、相談・申出をした方のうち市区町村等の行政機関の相談窓口に相談・申出をしたのは7%という調査結果※2を考えると、消費者被害やトラブルの件数はさらに大きいと推測できます。
 そして、2016年度にPIO-NETに登録された消費生活相談情報の契約購入金額の平均は105万円、既支払金額は平均41万円となっています。※3
 このように消費者被害は、相対的に少額の被害が多数発生するという特徴があります。
 消費者被害については、消費者と事業者の協議、消費生活センターのあっせん、または国民生活センター等による和解仲介等により被害回復が図られることが多いのですが、これら双方の合意による方法が不調に終わった場合、訴訟によらなければ被害回復をはかることはできません。しかし、消費者被害は比較的少額な被害である場合が多く、消費者法にもとづく主張は本人では難しいこともあり、代理人の選任も負担となります。それでなくとも日常生活を忙しく送っている消費者は、訴訟を提起することを躊躇してしまいます。

共通の原因で相当多数に発生した消費者契約被害回復のための制度
 このような特徴をもつ消費者被害のうち、共通の原因で相当多数に発生した消費者契約に係る被害を回復するために、消費者裁判手続特例法 ※4が2016年10月に施行されました。(同法にもとづく制度を以下「集団的消費者被害回復制度」という)同法では、裁判手続を大きく二つの段階に分けます。第一段階(共通義務確認訴訟)では、事業者の法的責任(金銭支払い義務の有無)について判断します。第一段階で事業者の金銭支払い義務が認められた後、第二段階(簡易確定手続)に移行し、個々の被害消費者の債権額を確定していきます。

 第一段階の訴訟を提起できるのは、政府から認定を受けた特定適格消費者団体だけです。個々の被害消費者は、第一段階で事業者の金銭支払い義務が認められた後に、第一段階の訴訟を遂行した特定適格消費者団体に授権して、第二段階から手続に参加すればよい仕組みになっています。たとえ第一段階で特定適格消費者団体が敗訴したとしても、その場合の判決の効力は個々の被害消費者には及ばないので、あらためてひとりひとりの被害消費者が通常の民事裁判を提起する道は残されることになります。
 「集団的消費者被害回復制度」では団体がまとめて弁護士に委任することになるので、被害消費者ひとりひとりがそれぞれに弁護士を探して委任するよりも、費用の面でも低廉になります。
 ただし、「集団的消費者被害回復制度」では、拡大損害、逸失利益、慰謝料などは請求できないという制約があります。

消費者裁判手続特例法活用の現状と課題
 消費者裁判手続特例法が施行されて1年3カ月余が経過しましたが、共通義務確認訴訟が提起された事案はまだありません。
 同法にもとづき特定適格消費者団体として認定を受けたのは、消費者支援機構関西と私ども消費者機構日本の2団体にとどまっています。
 特定適格消費者団体の認定以降、消費者機構日本に寄せられる消費者からの情報提供は認定前の月10数件から、月20数件と件数が増え、内容も財産被害に係るものが増えており、消費者からの期待を実感しています。
 しかし、「集団的消費者被害回復制度」では、訴訟の対象事案について、制度施行の2016年10月1日以降の契約事案または同日以降に不法行為が行われた事案と限定しています。この間、寄せられた情報の多くが法施行前の契約事案であり、対象事案とはなりませんでした。また、10月1日以降の契約事案で、共通性・多数性があると考えられる事案であっても、相手方事業者から被害額を回収できる見込みが持てず、訴訟提起に至っていない例もあります。
 一方、裁判に至る前に問合せや申入れ等を行う中で、実質的な解決が図られた事案が2件あります。(必ずしも共通義務確認訴訟提起の要件を満たしていた事案とは限りません)
 一つ目は、リゾート会員権制度を会員同意なく一方的に廃止すると通知された事案です。会員側に生じる損害を賠償する必要性を指摘したところ、制度廃止そのものが撤回されました。
 二つ目は、ウィルスソフトの自動更新に関して、契約していない別のソフトの自動更新案内を誤って顧客にメール送信してしまい、誤認した顧客が二つのソフトを契約してしまったという事案です。当該事業者は、誤って契約したと考えられる顧客に個別メール等で確認し、返金対応の提案をするとの対応がされています。
 このように、裁判外の申入れ等を進め、実績を積み重ねる中で、共通義務確認訴訟の提起に至る事案も出てくるものと考えております。
 特定適格消費者団体として認定された2団体はいずれも、法律専門家と消費生活専門家のボランティアによりその活動が維持されており、財政面では会費・寄付金により支えられています。私ども消費者機構日本でいえば、現在の体制では訴訟提起の件数は、年2件程度にとどまらざるを得ません。社会的に求められる活動量から考えればいたって不十分であり、それぞれの団体の財政基盤強化と組織体制強化が課題となっております。消費者庁も特定適格消費者団体の支援の在り方について検討しており、昨年度は仮差押えの際の担保金を立て替える制度が具体化されました。また、民間では消費者スマイル基金※5が設立され、消費者や事業者から幅広く寄付を募り、消費者団体の公益的活動への助成が開始されています。特定適格消費者団体の事業へも助成が行われることが期待されます。消費者機構日本では、みずからの組織財政基盤強化をすすめるとともに、これらの支援の具体化についてもさらに加速、拡大していただくよう要請しております。
 加えて、特定適格消費者団体の数についても2団体にとどまらず、さらに認定がすすむことを期待するものです。

※1 消費生活年報2017(独立行政法人国民生活センター編)
※2 平成29年版消費者白書
※3 消費生活年報2017(独立行政法人国民生活センター編)
※4 正式には「消費者の財産的被害の集団的な回復のための民事の裁判手続の特例に関する法律」
※5 特定非営利活法人消費者スマイル基金 詳しくは、下記ウェブサイトを参照ください。
http://www.smile-fund.jp/

特定非営利活動法人消費者機構日本

◆磯辺 浩一(いそべ こういち)さんのプロフィール

特定非営利活動法人消費者機構日本専務理事
1960年 生まれ
1999年 全国消費者団体連絡会 事務局次長
2004年 消費者機構日本 理事・事務局長
2010年11月から現職















 



 
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