法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

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歌にしてみて読みなおす憲法前文

2017年12月4日



真思惟(まーしい)さん(ふぉーくシンガー)

●憲法の前文と10個の条文を歌にしてみました
 憲法9条を読んだときに印象に残る言葉がありました。「希求」です。
「日本国民は正義と秩序を貴重とする国際平和を誠実に希求し…」
 「願う」「望む」より、願いを求めて実現していくという確かな意思を感じます。世界の人々が、互いに尊重しあって幸せに暮らしている未来への確信と希望が伝わってきます。「希求」、憲法の心のように感じました。そのとき、憲法の条文を歌にしてみたいと思いました。条文を理論的に理解することはもちろん必要ですが、感性で憲法の心が感じられる、そんな試みをしたくなりました。
 現在、オリジナル憲法ソングが11曲になりました。前文は1〜5の5曲編成となります。13条の「個人の尊重」、19条、21条、20条、14条を合わせた「自由権と平等権」、そして9条の「Article9」、これら8曲は、すべて条文だけの歌詞となっています。そのほか条文にオリジナル歌詞を加えた楽曲が「25条の歌」、「立憲主義」(99条)、「もう一つの義務」(97条、12条)の3曲です。以上11曲が収録されたCDブックスが、本の泉社さんから年内に出版される予定です。ぜひお聴きいただけると有難く存じます。
 憲法を歌にしてみると、今まで読み飛ばしていた個所が気になったり、わかりずらかった文章の意味が見えてきたり、いろいろと新しい発見がありました。例えば前文冒頭の1文は、文が長く読みづらい箇所ですが、そこで私は動詞に着目してみました。四つの動詞、「行動し」「確保し」「決意し」「宣言して」、そこをポイントにして読んでいくと文の全体像がすっきり入ってきました。

「日本国民は 正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために諸国民との協和による成果とわが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言しこの憲法を確定する」

 そうやってこの個所を読み取っていくと、憲法の基本原理とされている、基本的人権の保障、国民主権、平和主義が一つの文の中に全部入ってる!と妙に納得したのでした。

●人類普遍3フレーズの発見
 2文の「そもそも国政は 国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」は、日本語の韻を踏んだ実に歯切れのいいフレーズで、自然とメロディが浮かんできました。このあとに3文「これは人類普遍の原理であり…」が続きます。憲法は、政治が国民のためにあること、政治家は国民のために政治を行うことを、どこまでも変わることのない「人類普遍の原理」としました。最初は、「人類普遍の原理」って、ちょっと大げさなような気もしましたが、今回、前文を読みなおして新しく気づいたことがあります。憲法前文には同じような意味の言葉が三つあるのです。

「人類普遍の原理であり」
「人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚する」
「政治道徳の法則は普遍的なものであり」

 まるで哲学書のようなスケールが大きく意味深い言葉です。私は勝手に「人類普遍3フレーズ」と名付けてみました。

 「人類普遍3フレーズ」の二つ目「人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚する…」は、第2段落の1文に登場します。これは、あの有名な哲学者カントの思想ではないかと思いました。カントは、人間は、他者の人格を自分と同じくらい大切にして、互いに尊重しあう存在であり、そこに人間の尊さがあるとしました。そして、そのことは国と国との関係にも当てはまると考えました。国同士が互いに尊重しあう関係を築ければ戦争はおこらない。このことを深く自覚した日本国民は「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」、この姿勢が9条につながっていきます。

 「戦争は絶対にしてはいけない」
 この言葉、私が小学生、中学生のころ、いろいろな先生からさんざん聞かされました。親、親戚のおじさん、近所のおばさん、たくさんの大人たちが言っていました。そうか日本は戦争しない国なんだ。子ども心に、嬉しさと誇りを感じていました。

 最後の「人類普遍3フレーズ」は「普遍的な政治道徳」です。憲法は「いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」、このことを普遍的な政治道徳としました。私はこの言葉もカントからきていると思っています。自国(自己)の尊厳と同じように他国(他者)への尊厳を重んじる、それが国際社会の普遍的な政治道徳であると。
 いつごろからか、政治家や評論家が、「国益」という言葉を盛んに使うようになりました。聞くたびに、私は違和感をもちました。最近では「(自国)ファースト」という言葉も使われだしました。なにか根本的なところで勘違いされているような気がします。「(自国)ファースト」がお好きな政治家の皆さんには、この憲法前文の政治道徳をぜひ学んでいただきたいと思います。

 次の文は、そのための、とってもすぐれた教材です。

「じぶんの國のためばかりを考えて、ほかの國の立場を考えないでは、世界中の國が、なかよくしてゆくことはできません。世界中の國が、いくさをしないで、なかよくやってゆくことを、國際平和主義といいます。〈略〉この國際平和主義をわすれて、じぶんの國のことばかり考えていたので、とうとう戰爭をはじめてしまったのです。」文部省『新しい憲法の話』(1947年)

 第4段落で「日本国民は…この崇高な理想と目的を達成することを誓う」と宣言しました。「崇高な理想」とは、きっと人類普遍3フレーズをまとめたものでしょう。理想は、まだ達成されない面もありますが、この理想は人類普遍の政治道徳の完全実現です。基本的人権獲得の歴史のように、幾多の試練に堪えながら、近い将来、必ず実現すると憲法前文は確信しています。そして日本国民は、その実現のために全力をあげると宣言しました。
 私たちは現実の生活に目を奪われ、理想を求めていくことを忘れていたのかもしれません。「人類の理想の実現」、若いときはもう少し意識していた言葉、その大切さに憲法前文はあらためて気づかせてくれました。

◆真思惟(まーしい)さんのプロフィール

ふぉーくシンガー
1957年生まれ国立市在住
音楽事業室「風企画」主宰
柔らかなメッセージソングをめざしてライブと創作の活動を続けている。
ブルーグラスフォークバンド「真思惟(まーしい)&グラスフォーカーズ」結成(2005年〜)
オリジナル曲CDアルバム「だいじょうぶ」(2009年)
CDブックス「歌で感じる憲法−前文と10の条文」(仮称) 2017年12月、本の泉社より出版予定。






 
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