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犯罪被害者遺族になって思うこと

2017年11月20日



渡邉 保さん(被害者が創る条例研究会 世話人)

2000年10月16日(月) 
 私はこの日を一生忘れることはありません。それはこの日が、当時22歳の長女が理不尽な犯罪に遇って亡くなった日であり、私の人生で最もショッキングな出来事で、予想もしなかったことが起きた日だからです。
 この日から我が家の生活は一変しました。連日の警察の事情聴取、事件を知って駆けつけてくる親戚・知人の対応、メディアの取材攻勢等々と、気の休まることはありませんでした。犯人は逮捕されず「誰が娘を?」「なぜ娘を?」などと考える日が続きました。
 3年後に逮捕された犯人は、当時、我が家から50mほどのところに住んでいた、娘の中学の同級生でした。もちろん交流もなく、娘にとっては眼中にもない存在でした。逮捕前の取り調べでは詳細を自供していたが、弁護士が接見したその日から否認・黙秘に変わったそうです。弁護士が何を言ったのか分かりませんが不思議です。
 横浜地裁の判決日に、無期懲役の判決を受け退廷する被告人に向かって私が、「お前のことは絶対に許さない!」と声をかけた直後、ドアのところで振り返り、私に向かって、「お前が迎えに行かなかったから娘は死んだんだよ!」と叫んだことは忘れられません。人間性のかけらもない輩に愛娘を殺害された悔しさで今も一杯です。
 刑事裁判は、被告が控訴・上告したが無期懲役が確定しました。
 民事裁判でも勝訴しましたが、未だ1円も払われていません。本人はもとより親も知らんぷりで、何の連絡もありません。出した判決が履行されないことに対して、裁判所は何か考えているのでしょうか。何も考えていないように思います。

犯罪被害者の現状
 私が犯罪被害者遺族になった当時は、何処からも何もしてもらえませんでした。相談するところもなく、全て自分ひとりで対処しなければならないと思っていましたし、事実そうせざるを得ませんでした。
 また葬儀の後は、親戚・友人・知人からの連絡は途絶え、妻は分かり合えるのは家族3人だけ、と孤独感が増していき、PTSDで6年半心療内科に通院していましたが、心神喪失状態で踏切内に入り、電車と接触して亡くなりました。
 2006年8月1日のことでした。この日も忘れることはできません。
 私は1人の犯人に、大切な家族を2人奪われたのです。
 当時と比べれば、犯罪被害者に対する国の制度は大きく変わりました。全国犯罪被害者の会(あすの会)の全国署名活動や国への働きかけの結果、犯罪被害者等基本法が成立し、犯罪被害者等基本計画が策定され、刑事裁判の被害者参加制度や損害賠償命令制度ができ、公訴時効も撤廃・延長されました。
 しかし、被害回復、日常生活支援については置き去りにされているというのが現状です。

被害者が創る条例研究会
 いま犯罪被害者支援に積極的に取り組んでいる自治体は数えるほどしかありません。自治体によって犯罪被害者支援に濃淡があってはいけない。全国一律でなければいけない。そのためには全国の全ての市町村が、犯罪被害者支援に特化した条例を制定し、継続的・組織的に取り組むことが必要なのではないか。と考えた私たち犯罪被害者は、被害者学の研究者、犯罪被害者支援に積極的に取り組んでいる自治体関係者の協力を得て、2014年2月に「被害者が創る条例研究会」を立ち上げて活動を始めました。研究会発足後6か月で「市町村における犯罪被害者等基本条例案」—被害者の声に基づく提言—初版を発行することができました。
 2015年度からは、金融庁の預保納付金支援事業の助成を受け、同年7月には「市町村における犯罪被害者等基本条例案」第3版を刊行し、全国1,700余の全ての市区町村に送付し、条例制定を呼びかけました。
 2016年には、二次被害の防止等を盛り込んだ同条例案第4版を発行しました。その他の活動としては、これまでに福岡、東京、大阪、大分、三重、愛知、北海道で、シンポジウムを開催し、ワークショップも各地で行って市町村における犯罪被害者支援と条例制定の必要性を訴えてきました。
 2017年7月には、被害者条例を作ろうとする人の「道しるべ」となるブックレットを発刊しました。
被害者が創る条例研究会 

 少しずつではありますが、被害者条例制定に向けた動きが、各地から聞こえてくるのはうれしい限りですが、一部の自治体職員から「犯罪被害者支援は自治体の仕事ではない」との声が聞こえるのは非常に残念でなりません。一日も早く全国すべての都道府県・市区町村に、犯罪被害者条例が制定され、被害にあった後も、被害者がその町で安心して暮らし続けることができるようになることを願っています。

日本国憲法には
 日本の犯罪被害者支援は、欧米先進国と比べると20〜30年遅れていると言われています。その原因の1つは、大多数の人は、自分や自分の家族は犯罪被害には遭わない。犯罪被害に遭うのは特別な人だ。という根拠のない考え方をしているからではないでしょうか。犯罪被害は他人事と捉えているからではないでしょうか。他人事だから無関心で考えようとしないのだと思います。
 また、日本国憲法には、被疑者・被告人の権利を守る条項は第31条から第40条まで10ヶ条もありますが、犯罪被害者のそれは1ヶ条もありません。それが、司法関係者(特に刑事弁護人)が被疑者・被告人の権利擁護だけを考えて、被害者をないがしろにすることにつながっているように感じます。
 国の基本ともいえる日本国憲法に、被疑者・被告人の権利だけが規定されているのは片手落ちではないでしょうか。私は犯罪被害者の権利条項を、被疑者・被告人のそれと同等以上入れた日本国憲法にしていただきたいと願っています。 

 

◆渡邉 保(わたなべ たもつ)さんのプロフィール

横浜市在住。2000年10月、帰宅途中だった当時22歳の長女が刺殺される。全国犯罪被害者の会(あすの会)が犯罪被害者の訴訟参加、付帯私訴制度の創設に取り組んでいることを知り活動に参加。2006年8月事件後PTSDと診断されていた妻を事故で失う。
犯罪被害者を支える制度の不備を強く感じ、「あすの会」副代表幹事としての活動と共に内閣府(現警察庁)犯罪被害者等施策推進会議専門委員として、第3次犯罪被害者等基本計画策定に尽力した。また、被害者が創る条例研究会の世話人として、全国の市町村に犯罪被害者を支える条例制定を目指して活動している。






 
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