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憲法改正について

2017年10月23日



板井 優さん(弁護士・熊本中央法律事務所長)

1 軍事基地と経済そして平和
 かつて沖縄は、「金は一時、土地は一生」といわれた土地闘争(島ぐるみ闘争)の結果、米軍基地の地代で潤った時期があった。その時に、「ものきーしど、わがうーす」(物をくれるのが私の主人)ということでいいのか、という新聞報道がなされた。その後、沖縄では米軍基地を返還させ、それを民間で開発した方が経済的には県民のために優位ということになった。今、辺野古新基地建設をめぐって、翁長雄志(おながたけし)県知事が反対運動の先頭に立っている。基地よりもホテルを作り沖縄を観光で売り出そう、ということがその根底にある。
 熊本は軍都と言われた。かつて、市内の中心部には旧帝国陸軍第6師団の基地があった。しかし現在は辛島(からしま)公園がある。この公園は、明治の終わりから大正にかけて熊本市長であった辛島格(いたる)を記念してつくられた。辛島市長は当時市内の中心部にあった軍事基地を郊外に移転させ、跡地を商業地として開発した人である。基地経済ではなく平和経済、これが評価されたのである。
 もちろん沖縄では経済的な理由だけで米軍基地の移転を求めたのではない。翁長県知事の父親(助静氏)は、当初沖縄翼賛会に加勢して沖縄戦に参戦したが、沖縄本島南部での激戦の中で、(翁長県知事の)祖父を連れて移動中、摩文仁(まぶに)地区の壕でアメリカ軍の艦砲射撃により目の前でその父を失った。助静氏は、日本軍の敗残兵が住民を壕から追い出し、食料を奪い取る光景を何度も見ている。摩文仁は、沖縄戦で多くの民間人犠牲者を生んだ地であり、まさに戦争の惨禍そのものであった。
 1875年、廃藩置県に先立って、当時の明治政府は琉球王国に対して、いくつかの改善策を指示した。しかし、琉球王国は軍事基地の設置だけは受け入れなかった。その理由は次のとおりである。
 「日本軍の常駐は拒否。南海の一孤島に過ぎない琉球にいくら軍備を増強しても敵国に対処することは出来ず、小さな島国に軍隊を置けばかえって外国から侵略を招く恐れがある。軍事力を持たず『柔よく剛を制するもの』のたとえのとおり、むしろ礼儀を正して友好的に隣国の人と付き合うことによって国を平和に維持することが賢明である。」(『沖縄 平和の礎』岩波新書・太田昌秀著 174頁)
 不幸なことに、沖縄戦でこの危惧は現実のものとなった。当時の沖縄県民の約4分の1 である15万人余が戦争で命を失った。この経験が「命(ぬち)ど宝」という言葉を生む。
 激戦地となった沖縄本島南部の糸満市の南側に名城(なしろ)の浜がある。そのすぐ傍 に当時「白梅の塔」があった。県立第2高等女学校の生徒たちが看護名目で沖縄戦に狩りだされ、塔のコンクリートの裂け目から女子学生を含むと思われる無数の頭蓋骨が見えた。私は高校1年の時に遠足でそこを訪れた。目の前の白い砂浜にはハマグリが生息していた。今でもハマグリを見るたびに「白梅の塔」のことを思い出す。

2 解散・総選挙と自民党の憲法改正草案
 今年10月10日衆議院の解散が公示され、同月22日に衆議院総選挙を行うとされた。安倍晋三首相はこれを機に朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の発射したミサイルが日本の上空を飛び越していったことをわが国の危機(国難)であるかのように煽り立て、自衛隊を憲法9条に明記する改正を行おうとしている。
 すなわち、自民党は2017年10月2日、選挙公約の重点として①憲法に自衛隊を明記、②教育無償化、③緊急事態対応、④参院選「合区」解消の4つを掲げた憲法改正原案を党内外の十分な議論を踏まえ国会で発議し国民投票を行うことを目指すとしている。そして、①北朝鮮の脅威、②少子高齢化を「二つの国難」と明示し、北朝鮮の政策を変えさせるため「圧力を最大限に高める」と主張している。新しくできた希望の党は、安全保障関連法案を容認し、憲法改正については、自衛隊の存在や知る権利、地方自治を上げ「時代にあった憲法の在り方を議論する」としている。
 総選挙の結果が分かるのは、この一文を出稿した後である。したがって、この一文では、主に自民党の憲法の改正草案に関連しての評価を述べたいと思う。
 自民党の改憲草案に対する総括的な検討は、伊藤真著『増補版 赤ペンチェック自民党 憲法改正草案』(大月書店)に詳しいので、是非それを入手して読んでいただきたい。
 自民党が自衛隊を憲法に明文化するのは、自衛隊の本格的軍隊化、海外派兵を実現することにある。近時、海外派兵される自衛隊員の人権が最高裁の範囲内で裁かれるのは、 自衛隊員の人権の軽視であるとして、軍法会議を作って機能させるべきだという本が出版されている。霞信彦著『軍法会議のない「軍隊」』(慶應義塾大学出版会)がそうである。
 しかし、海外派兵され、そこの人々を殺さざるを得ない状況に追い込まれることがそもそも人権侵害ではないのか。安倍首相は、自衛隊を文民統制するから大丈夫だという。しかし、文民統制をしたからといって事の本質が変わるわけではない。諸外国に軍事介入しているアメリカだって軍隊を文民統制下に置いているとしているのである。
 自民党の憲法改正草案では、もともと自衛隊ではなく国防軍の創設を提起していた。その後、自民党は国防軍ではなく、自衛隊を憲法に明記することなどを重点公約として提起し、これを具体化しようとしている。
 自民党は、その前提として、憲法改正草案で、日本国憲法の掲げる戦争放棄への決意を掲げた前文を全く骨抜きにしている。戦争の放棄は、戦争の惨禍・恐怖と欠乏を二度と繰り返さないことを前提にしている。日本国憲法は、戦争そのものをなくすためには「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と謳っている。武力の行使は一見簡単に紛争を解決するように思えるが、大変な被害を国民に与える。憲法には戦争被害を二度と起こさない立場から前文がつくられたのである。
 かつてアメリカが、日本からアメリカに敵対する日本軍国主義の温床を憲法レベルでも根絶やしにしようとした。この状況を持ち出して、日本国憲法をあたかも日本国民がつくったものではないかのような攻撃をする人たちがいる。
 しかし、日本国民は大変な戦争の惨禍を受け、二度と戦争を起こさないようにしてきた。日本国民はその闘いの過程で、憲法を自らのものとしてきた。しかしながら、アメリカの意向に迎合した日本の軍国主義者などは、日本国憲法とは矛盾する安保条約による法制を擁護し、自衛隊を育成してきた。
 自民党はこうした中で、その後、直接憲法を変える方向を転換し迂回して、自衛隊の海外派遣や武力行使に関する様々な立法を行い、総仕上げとして自衛隊を憲法に明文化しようとしているのである。これでは、国防軍と言おうが自衛隊と言おうが軍隊であることに変わりはない。

3 まとめ
 今、国際紛争を解決するために、戦争という武力行使を行うのか、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持」するために粘り強く努力するのかが大きく問われている。安倍首相は、北朝鮮のミサイル問題を持ち出すことによって戦争という武力行使の道を選択しようとしている。私たちは、日本の被爆者が国連でも見せたように、戦争の惨禍の実態を粘り強く国内・国際社会に訴えてこの選択がおろかであることを理解してもらわなくてはならない。


◆板井優(いたい まさる)さんのプロフィール

1949年沖縄県那覇市生まれ。1979年4月弁護士登録。
1986年3月から1994年10月まで水俣法律事務所開設。
現在、熊本中央法律事務所所長。
主な経歴は、水俣病訴訟弁護団事務局長。ハンセン病西日本訴訟事務局長。川辺川利水訴訟弁護団長。トンネルじん肺根絶九州ブッロク弁護団長、原爆症認定集団訴訟熊本弁護団長、「原発なくそう!九州玄海訴訟」共同代表、公害弁連代表委員。
単著『裁判を住民と共に』(熊本日々新聞社)、共著『脱ダムへの道のり』(熊本出版文化会館)、『裁かれた内部被爆』(花伝社)、『水俣学講義第3集』(日本評論社・原田正純編著)。


*法学館憲法研究所事務局から

『増補版 赤ペンチェック自民党 憲法改正草案』伊藤真著(大月書店)






 
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