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「臨時国会冒頭解散に対する憲法研究者有志の緊急声明」について

2017年10月9日



稲 正樹さん(国際基督教大学平和研究所顧問)

 9月27日に私たち憲法研究者有志は、「臨時国会冒頭解散に対する憲法研究者有志の緊急声明」(以下、緊急声明と略)を発表しました。10月2日現在で、97名の賛同者を得ています。事務局を担った者として、緊急声明の概要を紹介し、若干の補足をします。
 緊急声明は、今回の解散・総選挙にいたる手順が、議会制民主主義の趣旨にそぐわないこと、今後の総選挙とその結果が憲法と立憲主義を危機にさらすおそれのあること、主権者がこの総選挙の意味を十分に認識し、メディアが公正な立場から報道することが必要であることを骨子にして、以下の諸点を指摘しています。
 第1は、臨時国会の召集請求が長く放置されてきたことです。憲法53条は、「内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。」と規定しています。野党は、森友学園・加計学園疑惑に関して説明責任を果たさず、共謀罪法案の成立を強行し、強引に国会を閉会した安倍政権の対応を厳しく批判してきました。国民の要求を背景にした野党は、国会が国民の負託に応え、疑惑の真相解明に取り組むことが不可欠であるとして、憲法53条に基づいて、6月22日に臨時国会の召集を要求しました。
 ところが、憲法53条には内閣の召集決定の時期が明示されていないことを奇貨として、内閣は臨時国会の召集要求を放置したまま、9月22日になって9月28日の召集を決定しました。
 憲法学説では、内閣が合理的理由もなく相当な期間内に召集を行わないことは、憲法53条の趣旨に反するとしています。内閣法制局長官も2003年に、「召集時期の決定は内閣に委ねられているが、召集のために必要な合理的な期間を超えない期間内に召集を行うことを決定しなければならない」と答弁しています。安倍内閣は安保法(戦争法)を強行成立させた2015年にも、野党による臨時国会の召集要求を拒否した前例があります。内閣による臨時召集決定の3ヶ月にも及ぶ放置は、少数派の意見も十分に反映させて国政を進めて行くという議会制民主主義の趣旨に反するものです。
 第2に、ようやく召集を決定した臨時国会を冒頭解散したことの問題性です。国会における一切の議論を封殺して、森友・加計問題を明らかにしないまま真相解明からの逃げ切りを図った安倍首相は、「丁寧に説明する」という首相自身の国民への約束を公然と破る暴挙にでたものです。党利党略・私利私欲で解散に打って出た安倍首相は、およそ民主主義国家における議会の重要性を歯牙にもかけない人物であることを示しました。
 第3に、内閣の解散権の根拠については、憲法7条説、憲法69条説のほか諸説があります。このなかで、学説でも実例でも、憲法7条説が有力です。しかしながら、衆議院の解散とは、衆議院議員の全部に対して、その任期終了前に議員としての身分を失わせることを意味するので、内閣の解散権には憲法習律上の制約があるとして、内閣が解散できる場合は以下の6つに限定されると指摘する有力な学説があります。
 すなわち、(イ)内閣に対して衆議院が信任を拒否した場合、(ロ)不信任を議決されなくても内閣の政治的生命を賭した重要案件が衆議院で否決された場合、(ハ)政権担当者の政治的基本性格が改変された場合、(ニ)前総選挙時に国民の承認を得ていない重要な立法・条約締結その他重要政策を新たに行う場合、(ホ)選挙法大改正の場合、(へ)任期満了時期の接近の場合です。これ以外に、「漠然と安易に、解散理由を承認すべきではない」のです(深瀬忠一「衆議院の解散」『宮沢先生還暦記念・日本国憲法体系第四巻』有斐閣)。解散は基本的には行政部が立法部を抑制する手段ですから、内閣の解散権の行使に憲法習律上の制約を設ける見解が支持されます(中村睦男「衆議院の解散」『憲法30講』青林書院)。
 今回の解散・総選挙は、以上のどの場合にも該当しません。解散を決めた後に泥縄式に争点を設定しています。社会保障の充実のように国民が反対しにくいものと、自衛隊加憲論・改憲論のように議論が分かれるものをセットにして、解散・総選挙によって首相に対する信任を求めるという構造になっています。国民が判断できないようにしたうえで判断したことにしようとしており、解散権の濫用です(浦田一郎「解散は首相の『専権事項』か―その手続を考える」しんぶん赤旗2017年10月3日)。憲法7条では、「国会の召集」「衆議院の解散」のいずれも、「国民のために」行われなければならないことを明記しています。国民のための臨時国会の召集であり、国民のための衆議院の解散でなければなりません(杉原泰雄説)。事前に議会の審議を経て国民の前に問題が明確にされずに、「国難突破」のための解散・総選挙だと一方的に言い立てるのは、解散権の濫用であって、憲法7条の趣旨に反します。
 第4に、緊急声明では、解散が内閣総理大臣の「専権事項」でないことを簡潔に指摘しています。解散の実質的決定権は、内閣総理大臣ではなく、内閣という合議体に帰属することは明白です。
 第5に、緊急声明では、改憲論議のあり方について以下のように述べています。現在の様々な政治、社会問題の根本的な要因が憲法にあるかのように、憲法を変えることによってこの国が直面している問題が解決するかのように主張している、情緒的で意図的な改憲論の横行は問題です。このような傾向は未だ支配的な潮流になっていないが、警戒を強めなければなりません。
 第6に、緊急声明発表後に明らかになった自民党の選挙公約では、憲法改正を重点項目の一つとして掲げ、「自衛隊の明記、教育の無償化・充実強化、緊急事態対応、参議院の合区解消の4項目を中心に、党内外の十分な議論を踏まえ、憲法改正原案を国会で提案・発議し、国民投票を行い、初めての憲法改正を目指します」としています。希望の党の選挙公約案では、「憲法9条をふくめ憲法改正論議を進めます」「憲法全体の見直しを、与野党の協議によって進めて行きます」と記しており、国会での憲法改正論議に積極的に関わる姿勢を鮮明にしています。日本維新の会も選挙公約に憲法9条改正を盛り込んでいます。これら改憲推進政党は具体的にどのように憲法9条を改正しようとしているのか。自衛隊の明記とは憲法規範上、憲法政治上どのような意味をもつのかを、明確に説明する必要があります。改憲の具体的な内容を明記しないまま、漠然と選挙公約の項目に入れることによって、結果的に改憲に関する国民的承認をかすめ取ろうとしているのではないでしょうか。
 第7に、緊急声明ではマス・メディアに対して、今度の選挙にあたって、自由闊達で国民的な論議を喚起する報道姿勢を堅持することを期待しています。
 最後に、今回の解散・総選挙のいちばんの課題は、特定秘密保護法・安保法=戦争法、共謀罪法を廃止し、立憲主義・民主主義・平和主義を取り戻し、国民のための憲法政治を実現していく道を切り開いていくことです。図らずも、5年近くにわたって安倍政権が行ってきた諸施策に国民の審判が下す機会が与えられました。主権者としての見識と力量を発揮するチャンスが到来しました。憲法を擁護する「不断の努力」(憲法12条)と「自由獲得の努力」(憲法97条)に努めていきましょう。

「臨時国会冒頭解散に対する憲法研究者有志の緊急声明」PDF

◆稲正樹(いな まさき)さんのプロフィール

1949年生まれ。1973年北海道大学法学部卒業。1975年北海道大学大学院法学研究科修士課程修了。国際基督教大学などで憲法を担当。2016年3月に退職。現在は、国際基督教大学平和研究所顧問。「憲法研究者と市民のネットワーク」(略称:憲法ネット103、2017年10月9日発足)世話人。専攻は憲法、アジア比較憲法、平和研究。
論文等:改憲をめぐる言説を読み解く研究者の会(編著)『それって本当? メディアで見聞きする改憲の論理Q&A』かもがわ出版、2016年(共著)
"Abe's Politics: Past, Present and Future," in Michael Heazle and Andrew O'Neil (eds.), The 5th Annual Australia-Japan Dialogue, Policy Convergence and Divergence in Australia and Japan: Assessing Identity Shift within the Bilateral Relationship, Griffith Asia Institute, 2016.
「アジア諸国の二院制」アジア法研究9号、2016年。
「『戦争法制』の内容分析」国際基督教大学社会科学ジャーナル80号、2015年。
金美景、B・シュウォルツ(編著)『北東アジアの歴史と記憶』勁草書房、2014年(共訳書)。
「安倍政権の進める戦争する国づくりと特定秘密保護法」法と民主主義487号、2014年。

















 
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