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「自衛隊を憲法上位置づける加憲」について(私的感想)

2017年7月10日



山岸 良太さん(弁護士・日弁連憲法問題対策本部本部長代行)

1.はじめに
 安倍総理大臣は、5月3日の憲法記念日に、9条1、2項をそのままにして「自衛隊を憲法上位置づける加憲」のアイデアを表明しました。
 これは、
 ア 従来の自民党改憲草案は、9条2項を全面的に削除した上、自衛権を明記し、かつ、9条の2を新設して自衛「隊」でなく国防「軍」を設けるというドラスティックな変更で、これに対する一般国民の抵抗感は相当強いと思われる。
 イ 直近の緊張した国際情勢については、一昨年の安保法で国民の反対のある中で法律により解決済みとされ、その直後の9条の内容的な改憲はタイミング的な抵抗感も強い。
 ウ 他方で、憲法学者等は自衛隊の存在を「違憲」と言っているが、震災以降、自衛隊の存在は国民に受け入れられてきているので、9条1、2項をそのまま残し「自衛隊を憲法上位置づける」だけの「加憲」ということなら、一般国民の抵抗感も少なく、違憲の問題も解決できるのではないか。
 というアイデアであると思われます。
 しかし、このアイデアには、いろいろ検討すべき点があると思われますので、私の思いつくまま、検討点とこれについて現時点での感想を述べます。
 
2.9条1、2項をそのまま変えないというコンセプトは本当か
 「自衛隊を憲法上位置づける加憲」は、大きく2つのコンセプトに分かれます。
 (a)9条1項、2項を生かし、これに縛られる自衛隊を加憲する(以下「2項を生かす加憲」という)。
 (b)9条1、2項を残しつつも、実際には、9条1、2項に縛られない自衛隊を加憲する(以下「2項を変える加憲」という)。
 例えば、6月22日に報道された位置づける加憲の案は、「前条(9条)の規定は、我が国を防衛するための必要最小限度の実力組織として自衛隊を設けることを妨げるものと解してはならない」というものですが、これは、2項は残すものの、「2項に縛られない自衛隊」を加憲するもので、(b)の「2項を変える加憲」のコンセプトと思われます。
 この(b)は、実力組織である自衛隊を、9条に縛られない存在として憲法上位置づけることになり、1.で紹介した安倍総理の表明したアイデアに必ずしも忠実なものではないのではないかと思われます。また、この「妨げるものと解してはならない」という「『解釈』条項の加憲」は、自衛隊が、9条2項の解釈に違反していることの自認のようにも思えます。
 むしろ、政府や自民党の今の自衛隊は9条2項のもとで合憲という立場からすると、(a)のコンセプトで「前条の規定のもとに…自衛隊を設ける」等となるのではないでしょうか。自民党内でも(a)のコンセプトの案を示す議員の方もいるようですから、党内でのしっかりとした検討が期待されます。

3.「自衛隊を位置づける加憲」の本質的な問題点
 2.記載の問題の他にも、「自衛隊を位置づける加憲」にはいくつかの検討すべき本質的な問題点があります。
 第一に、憲法上に、自衛隊の条項を入れるとしたら、その暴走を制限する条項を入れるためという考え方が立憲主義です。自衛隊の条項のない今の憲法には、当然ながら、自衛隊についての厳格な立憲主義的な制約がなく、「自衛隊を位置づけるだけ」だと、戦前のように再び暴走を許すことになりかねません。
 第二に、戦力不保持や交戦権否定の9条2項を残したまま自衛隊を位置づける場合には、抽象的な「自衛隊」はさておき、「今の自衛隊」の「存在」や「活動・任務」の合憲・違憲の問題、交戦権や武器使用の問題等は、本質的な解決を見ないのではないかという点です。

 以下、(1)(2)に記述します。
 (1)立憲主義の憲法が、なぜ自衛隊等の実力組織を憲法上位置づけるか、立憲主義と実力組織の関係の本質を見失ってはならないこと
 「位置づけるだけ」の改憲には、固有の重大な検討すべき問題点があります。
 それは、憲法上、自衛隊を位置づけるとすれば、立憲主義的に厳格に抑制できるようにしなければならないという問題です。
 なぜ、「実力組織=軍」は憲法に規定されるのでしょうか。立憲主義諸国の憲法の中で「実力組織=軍」が位置づけられているのは、「軍=実力組織」の「暴走」は立憲主義自体を破壊しかねないことから、憲法で暴走を縛るためです。そもそも、近代立憲主義は、一人一人の人権・権利を権力や多数決の横暴から守ることを根本にしていますが、「軍」は実力組織として、これを置く憲法では、その暴走を厳格に抑制する必要があります。
 特に、我国では、戦前、軍部の暴走を抑えられなかった反省から、現行憲法では「実力組織=戦力」を持たないと規定することにより「軍」の暴走を生じさせ得ないという徹底した抑制をしてきたのです。従って、我国が、実力組織としての「自衛隊」を「位置づける改憲」を行うときには、戦前の苦い経験を絶対に繰り返さないよう、憲法上の制約条項を厳格かつ具体的に規定すべきだと思われます。厳格かつ具体的な制約条項を憲法上に作らずに自衛隊を位置づけることは、いわば「檻を作らないで猛獣を家の中に入れる」のと同じではないでしょうか。
 また、我国では、9条1、2項があるのに解釈により自衛隊が存在してきた経緯があり、しかも直近の安保法で長年の政府の集団的自衛権は行使できないという解釈が変更されてしまったことを考えると、自衛隊を憲法上位置づける場合には、後々の拡大解釈や解釈変更による暴走を抑制するため、少なくとも、任務範囲についての具体的かつ明確な規定や、活動開始等についての国会の承認等の規制、自衛隊内外の実効的なコンプライアンス組織、編成や任務についての財政的な規律、自衛隊のトップや幹部以下の政治活動の規制等について、憲法上の抑制の条項を、抽象的なものではなく具体的かつ厳格・詳細に置かなければならないのではないでしょうか。
 この点、戦前、ワイマール憲法を持ちながらナチスの暴走を防止できなかったドイツの憲法(基本法)の関連条項等も参考となります。

 (2)9条2項の存続を認める限り、現在の規模・装備の「今の自衛隊」を合憲化できないのではないかという点
 ① そもそも、9条2項の「戦力不保持」「交戦権否定」を生かしたまま、「自衛隊」という文言を憲法の条項に加えることで、今の規模・装備、活動内容の「自衛隊」を矛盾なく合憲と位置づけられるのでしょうか。
 「自衛隊」が、加憲により憲法上位置づけられたとしても、あえて改正されることなく9条2項の制約がそのまま残される以上、その編成や活動内容がどんなものであっても合憲となりうるかは法律上の検討を要する点となり得ます。
 9条1、2項を維持した上で憲法上位置づけられる「自衛隊」は、本来は、「島嶼部を含めた領土・領海を保全する警備隊」的なものと「災害時等の国民の生命・財産 を保全する災害救援隊」的なものに改組しないと合憲とならないという考え方もあり得るのではないでしょうか。実際、国民が自衛隊を肯定するときのイメージは、これに近いものではないでしょうか。
 一方、今の実存としての「自衛隊」は、アメリカ、ロシア、中国等に次ぐ世界有数の巨大な実力組織であり、このような「自衛隊」は、あえて2項を存続させるとい う選択の改憲がなされる中で、位置づけを加憲された途端に違憲の存在になりかねないのではないでしょうか。
 この点、従来の自民党改憲草案は、9条2項の「戦力不保持」を削除する改憲をして、この問題の分かりやすい解決をしており、今日の「自衛隊」を合憲化するには、この自民党改憲草案の考え方が論理的なのではないでしょうか。もっとも、この正面からの改憲案が国民に受け入れられそうもないという読みがあって、安倍総理の提案があることは、1.に記載した通りです。
 ② 安保法を合憲化できるのでしょうか。
 安保法について違憲とする主張は、従来、政府は憲法9条1、2項や憲法13条の解釈により、自国の防衛についての必要最小限の個別的自衛権に限定して合憲と言ってきたのに、それを超える集団的自衛権は違憲だというところにあります。とすれば、9条1、2項をそのままにして自衛隊の存在を位置づけるだけでは、集団的自衛権を行使できる自衛隊が合憲か否かは解決しないとも考えられるのではないでしょうか。また、自衛隊の活動や任務の文言を多少加えたとしても、任務の範囲について具体的かつ明確な規定の加憲を行わない限り、改憲しても多くの憲法学者等を納得させることはできないのではないかとも考えられます。
 ③ 2項の交戦権の問題も解決されません。
 国際的には「実力組織=軍」に他ならない自衛隊について、一切の交戦権を否認したままで機能できるか、特に、海外での任務に問題が残るのではないでしょうか。現状の「位置づけるための加憲」の条文案で、交戦権の扱いに触れたものはまだないようです。
 国際法上の権利である「交戦権」の存否について、「持たない」と「宣言」している9条2項をそのままにして、国際司法裁判所や他国の司法機関等において、自衛隊員の人権を守る解釈がなされるか心配が残るのではないでしょうか。
 ④ 「武力行使」と「武器使用」の問題も解決されない。
 現在の安保法では、自衛隊の部隊としての武力行使としか言いようのないものが、個人としての自衛官の個人責任の「武器使用」と整理され、たとえば、アメリカの巨大空母の「米艦防護」も、自衛官個人の武器使用と整理されています。
 改憲後も、この不自然な自衛官の個人責任は、そのままになるのでしょうか。この点も、自民党改憲草案は、9条2項を削除し、戦力としての自衛隊の武力行使と整理する分かりやすい解決をしており、この考え方が論理的と言えるのではないでしょうか。
 この①②③④は、安倍総理の「自衛隊を位置づける加憲」が、従来の自民党の改革草案と比べて変則的な改憲案であることを示しているのではないでしょうか。

4.おわりに
 以上の他にも、「自衛隊を位置づける加憲」には、改正を発議し国民投票を行うという、我国がいまだ経験したことのない莫大な政治的エネルギーを投入するほどの実務的な必要性があると言えるのか等々、まだまだ多数の検討すべき点があるように思われます。
 憲法改正は、国民にとって極めて重大な問題で、同じ条項について何回もやる性質のものではありません。また、9条の問題は、我国のみならず、東アジア、世界のあり方にも関わる大問題ですから、今後、どのように自民党内の論議が進んでいくのか、法律家として、また、一国民として、注視していかなければならないと考えています。

◆山岸 良太(やまぎし りょうた)さんのプロフィール

1980年 弁護士登録(第二東京弁護士会)
     森・濱田松本法律事務所所属
1999年4月〜2000年3月 第二東京弁護士会副会長
2013年4月〜2014年3月 第二東京弁護士会会長
2013年4月〜2014年3月 日本弁護士連合会副会長
2014年4月〜現在 日本弁護士連合会憲法問題対策本部本部長代行





 



 
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