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今週の一言

 

「テロ等準備罪にだまされるな!」

2017年6月12日



足立 昌勝さん(関東学院大学名誉教授)

1 刑法の基本原則と「計画罪」
 近代刑法は、侵害性原則(行為原則)を認め、社会に害悪を与えない限り、処罰されないことを前提としている。すなわち、法益の重さに着目し、既遂・未遂・予備の処罰、既遂・未遂の処罰、既遂のみの処罰の三類型を認めている。
 下の図(共謀罪導入に伴う処罰の中抜け現象)にあるように、共謀罪の導入により処罰根拠がないところ(太☓の部分)が発生する。それについての合理的理由はどこにあるのか。その理由は、法制審議会でも、国会での質疑でも、明らかにされていない。

 これに対して、今回の計画罪(共謀罪)は、「二人以上で計画すること」で犯罪が成立するので、外部的な侵害がいまだ発生していない段階あるいは二人以上の心の中を処罰しようとするものである。法務省は、準備行為がなければ処罰できないというが、それは、客観的処罰条件であり、それの存在は処罰に不可欠であるが、犯罪としては、「計画」で成立しているので、強制捜査を含むすべての捜査が可能となる。
 このことを示しているのが、下のポンチ図(処罰の間隙)である。これは、法務省が自民党法務部会に示した文書であるが、法務省の考え方を如実に示しているものである。


 TOC条約(この言い方には、少なからず抵抗を覚える。このような英語の略称を用いることにより、条約の持つ本質を覆い隠している。Transnational Organized Crimeは、国をまたがって存在する組織犯罪を示しているのであり、国内に限定される組織犯罪がこれに含まれないことは明白であるので、跨国組織犯罪防止条約という名称が正しい。)の5条が上段に掲げられ、「合意+推進行為」とされている。これは、共謀罪そのものである。
 下の段の現行法に行くと、上段の+の所に点線が引かれ、その右側に「処罰の間隙」と書かれ、現行法の下では処罰できず、それぞれの犯罪である既遂、未遂及び予備で初めて検挙できることを示している。この中には、予備より前のものについても、処罰の間隙とし、当局としては、処罰したいという意思を明確に示している。
 それに対して、下の段にある「テロ等準備罪」では、「計画+実行準備行為」とし、計画が終了すれば、「検挙可能」とされ、「実行準備行為」は、処罰条件にすぎないことを示している。
 また、公訴時効の規定により、計画罪の法定刑が5年以下のものについては5年、2年以下のものについては3年の時効が定められている(刑訴法250条)。したがって、その間は、処罰の間隙がある犯罪であっても、未遂罪や予備罪の処罰規定がなくとも、計画罪で処罰できることになり、処罰範囲を大幅に拡大している。

2 予備罪と計画罪の法定刑の逆転現象
 277に及ぶ「共謀罪の対象犯罪」を考えてみよう(この277という数字は、法務省が主張しているもので、1項犯罪と2項犯罪を一つの犯罪として計算している。それぞれを別の犯罪として計算すると、その数は、316に及ぶ)。
 「計画罪」の法定刑には、5年以下のものと2年以下のものがある。
 そこで、現行法上の予備罪処罰の有無と法定刑を比較すれば、いかに多くの計画罪で法定刑の逆転現象が起きているかが明らかである。
 それは、次の7類型である。

 衆議院法務委員会では、枝野幸男議員が強盗罪を例にとり説明を求めたが、林真琴刑事局長からは明確な回答はなかった。
 このような矛盾を残したままの刑事法は許されるのであろうか。

3 対象犯罪の罪種別分類
 5月31日の朝日新聞は、法務省の仕分けに従った5分類に分けた、対象犯罪277の内訳を報道した。
 首相や法務大臣は、テロ対策を強調し、この法律がなければ、東京オリンピック・パラリンピックを開催できないと言い切っていたが、この報道にある「テロの実行に関する犯罪110」は、テロの実行によって起こると思われる結果を示したに過ぎない。これらの単独行為をいくら計画段階で補足しても、テロを未然に防止することはできない。
 このことは、テロの定義にかかわる問題である。
 特定秘密保護法によるテロの三要件では、次のことが必要である。
①政治上の主義その他の主義主張に基づくこと
②国家・他人に主義・主張を強要し、又は社会に不安・恐怖を与える目的
③人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊することの認識
 この三要件に基づき、具体的なテロ行為としては、「人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動」とされている。「人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊すること」がテロなのではない。「そのための活動」がテロなのである。
 また、テロには、「政治上の主義主張」が必要であるが、これら110の類型は、必要とされる「政治上の主義主張」とは全く無関係なものであり、テロの未然防止には役立たないものである。
 このように考察すると、これは、テロ対策を口実とした共謀罪の導入に他ならない。

4 テロリズム集団の定義と組織的犯罪集団
 法案は、「テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者」を犯罪主体としている。
 ここで規定されている「テロリズム集団」とはどのようなものか。政治学的、社会学的、マスコミ的、一般的な意味では、それぞれ異なっていても構わない。しかし、ひとたび法律で規定するからには、その定義は、一義的に定められなければならない。
 特定秘密保護法12条2項では、「テロリズム(政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動をいう。)」と定義され、その定義は、昨年制定された小型無人機飛行禁止法(ドローン規制法)6条1項でも使われている。
 もしこの定義を採用し、「テロリズム集団」を定義づけると、「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要し、又は社会に不安若しくは恐怖を与える目的で人を殺傷し、又は重要な施設その他の物を破壊するための活動を行う集団」となるであろう。
 果たしてこのような定義でよいのであろうか。それについての徹底的な審議が待たれるところである。
 この定義で「良し」としたら、組織的犯罪集団との関係で重大な矛盾が発生する。
 テロリズム集団は組織的犯罪集団の例示なのであり、そのすべてが組織的犯罪集団に含まれていなければならない。しかし、その定義を採用すると、組織的犯罪集団に含まれない部分がかなり多く見受けられてしまう。
 組織的犯罪集団は、長期4年以上の刑を定めている罪の実行を「共同目的」とするものであるにもかかわらず、テロリズム集団には、3年以下の懲役である「物の破壊」が含まれ、さらに、「人を殺傷し、又はその他の物を破壊するための活動」をすることも含まれている。それは、具体的には、人の殺傷や物の破壊の準備行為、資金調達などそれに向けた諸活動を指しているのである。これは、器物損壊罪よりもさらに軽い法定刑が定められているものと思われる。それらは、すべて、組織的犯罪集団の枠からはみ出てしまうものであり、この規定ぶりは、明確性に欠けるものであり、憲法31条が要請する「明確性の原則」に違反している。
 では、どのような定義をしたら、これらの矛盾を解消できるのであろうか。これについては、立案当局が答えを出す義務があるが、今のところ、明確な定義は出されていない。これは大きな問題であり、法律用語に明確性が認められないことになってしまう。

5 破防法の破壊的団体と共謀罪
 破防法は、団体を定義し、「特定の共同目的を達成するための多数人の継続的結合体又はその連合体をいう。但し、ある団体の支部、分会その他の下部組織も、この要件に該当する場合には、これに対して、この法律による規制を行うことができるものとする。」と規定し、団体については、幅広くとらえている。
 そのうえで、「暴力主義的破壊活動」を行った団体を「破壊的団体」とし、その活動制限を認めている。
 そこでいう暴力主義的破壊活動とは、「イ 内乱罪、外患誘致・外患援助に当たる行為やその教唆、その実行の正当性又は必要性を主張した文書図画の印刷、頒布、掲示、無線通信等による通信等の行為(4条1項1号)、ロ 政治上の主義や施策を推進・支持し、又はこれに反対する目的をもって、騒乱、放火、爆発物破裂、往来危険、汽車転覆等、殺人、強盗、爆発物の使用、検察・警察・刑務官・公安調査官等に対する凶器や毒物を用いた公務執行妨害・職務強要をなすこと、及びこれらの行為の予備・陰謀・教唆・せん動(4条1項2号)」である。
 この破防法は、団体の活動を制限するものであり、個人を処罰するものではないが、破壊的団体は、法案でいう「組織的犯罪集団」に含まれることは間違いがない。法案では、別表第三に掲げる罪の実行を共同目的とするものとしているが、破防法の暴力主義的破壊活動のうち、刑法79条内乱等幇助、同106条騒乱罪、同108条現住建造物等放火罪、同109条非現住建造物等放火罪、同117条激発物破裂罪、同125条往来危険罪、同126条汽車転覆等罪、同236条強盗罪、組織的犯罪処罰法3条組織的殺人罪は、別表第三に含まれるものであり、それらを相談した二人以上の者は、計画罪に問われることになる。
 破壊的団体は、公安調査庁により指定されているが、その実態は雲の向うであり、私たちが知る由もない。
 この計画罪が破防法適用団体に適用されることは、非常に大きな政治的意味を持つものであり、政権に反対する勢力を一網打尽に取り締まる権限を警察に与えることになってしまう。

 これを表にすると、次のようになる。

<PDF>

6 最後に宣伝
 筆者は、今年の4月、三一書房より、「『テロ等準備罪にだまされるな』—『計画罪』は『共謀罪』そのものだ」を上梓した。
 ここでは紙数の関係で詳細には論じられなかったけれども、本書では、資料に基づき、多くの論点に検討が加えられている。ぜひ、本書も手に取り、「テロ等準備罪にだまされない」ようにしてもらいたい。
 また、多くの資料は、私が呼びかけ人として組織化を進めた「共謀罪の創設に反対する百人委員会」のホームページには、多くの資料がアップされているので、そちらも参照していただければ、幸いです。

 

◆足立 昌勝(あだち まさかつ)さんのプロフィール

1943年4月 東京都文京区湯島に出生
湯島小学校、文京区立第四中学校、東京都立小石川高等学校、中央大学法学部、同大学院を経て、
1972年4月 静岡大学法系短期大学部専任講師
  同助教授、教授を経て、
1992年4月 関東学院大学法学部教授
2014年3月 関東学院大学定年退職
2005年10月 中国山東大学法学院客員教授
2006年9月 中国遼寧省公安司法管理幹部学院客員教授

1996年4月 関東学院大学法学部長(1998年3月まで)
1980年以来、日弁連刑事法制委員会の助言者を務めている。

ドイツ・オーストリアを中心とした刑法主義刑法及び近代刑法成立史を研究し、そこで得られた知見を基として、悪法反対運動に深くかかわっている。
また、カンボジア、東ティモール、ラオス等の発展途上国の司法事情を視察し、それぞれの国で研究会等を開催した。

主著として、
国家刑罰権力と近代刑法の原点(1993年、白順社)
刑法学批判序説(1996年、白順社)
警察監視国家と市民生活(1998年、白順社)
近代刑法の実像(2000年、白順社)
Q&A心神喪失者等処遇法(2002年、現代人文社)
共謀罪と治安管理社会(2005年、社会評論社)
未決勾留16年(2007年、編集工房朔)
さらば!共謀罪(2010年、社会評論社)
改悪「盗聴法」—その危険な仕組み(2015年、社会評論社)
「共謀罪」なんて いらない!?(2016年、合同出版)
「テロ等準備罪」にだまされるな!(2017年、三一書房)




 



 
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