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今週の一言

 

排出ゼロを目指す「パリ協定」時代 世界の潮流は「脱石炭」

2017年2月27日



鈴木康子さん(気候ネットワーク事務局)

 2015年12月、フランス・パリで開催されたCOP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)において、京都議定書に続く温暖化防止の国際ルールとして「パリ協定」が合意されました。この協定は、2016年11月4日に発効しました。採択から異例のスピードで発効に至った背景には、気候変動の影響に対する各国の危機感の高まりがあります。パリ協定の大きな目標として、「今世紀後半までに温室効果ガス排出量をゼロ(脱炭素化)」にすること、産業革命前と比べて気温の上昇を「2℃よりはるかに低くすること、さらに1.5℃に抑える努力をすること」が掲げられています。
 日本を含む130カ国以上の国や地域が参加し、中国やインドなどの新興国もパリ協定において対策を進めることを約束しています。しかし、現在、各国が掲げている削減目標だけでは不十分なことも明らかになっており、さらなる削減努力が必要です。パリ協定では、5年毎に各国の目標を見直し、必要に応じて目標を引き上げる機会があります。先進国であり、対策のための資金も技術もある日本は、世界をリードする役割が求められています。

石炭火力発電を売り込む日本
 石炭、石油、天然ガスといった化石燃料を燃焼することで、大量のCO2を排出します。最新の研究によると「1.5℃未満」を達成するためには、地球上の化石燃料埋蔵量の85%を燃やすことはできません。つまり、化石燃料を使用する時代を終わらせる必要があるのです。こうした中で、化石燃料の中で、最もCO2を排出する「石炭」を規制する動きも出てきました。しかし、日本は国内で新規に45基もの石炭火力発電所の計画があるだけでなく、新興国に対しても「高効率で環境負荷の少ない日本の石炭火力発電技術は「温暖化対策」に有効な手段である。」と主張し、インフラ輸出の成長戦略として位置付けています。2017年1月にも安倍首相は火力発電関連企業や経済団体を伴い、トップセールスを行ってきました。しかし、環境破壊や健康被害への懸念から、地元住民が強い反対の声をあげている事業もあります。日本の政府機関や複数の金融機関、民間企業が関わっている事業において、土地収用などを巡って人権侵害が深刻化しているケースもあり、日本の私たちにも無関係ではありません。

海外の分析に見る日本の孤立姿勢
 2015年11月に、経済協力開発機構(OECD)が石炭火力発電の輸出に対する公的支援に制限を掛けることに合意したことを皮切りに、欧米各国の政府機関、民間企業の間では、CO2の排出量の多い石炭火力発電所の建設や輸出への投融資に制限をかける動きが加速しています。しかし日本は石炭関連の輸出をするだけでなく、石炭に対する巨額の資金支援を行っており、この状況は海外から厳しい批難を受けています。2016年11月のCOP22・マラケシュ(モロッコ)の開催中にドイツのNGOジャーマンウォッチが発表した世界の主要国・地域の温暖化対策への取り組みランキングでは、61カ国中60位で「落第」と評価されました。これはG7諸国の中で最下位です。また、COPに先立つG7伊勢志摩サミットに合わせて英国の民間シンクタンクE3Gが発表したG7のエネルギー政策比較でも日本はワースト1でした。こうした評価は、全て国内外で石炭火力発電を推進していることが原因です。


出典:報告書『新・隠された石炭支援:G7 各国は世界の石炭公的資金支援をどのように隠しているのか』2016年5月(NRDC, OilChange, WWF他編)
<http://sekitan.jp/jbic/2016/07/11/1724>

ダイベストメントの動き
 石炭に限らず化石燃料関連事業から金融資産(株、債券、投資信託など)を引き揚げる動きは「ダイベストメント(投資撤退)」と呼ばれています。既に欧米の政府機関・民間企業の間では石炭関連投融資からの撤退が広がっており、公的基金に限らず、民間銀行が石炭関連融資からの撤退を宣言するケースも少なくありません。今後ますますダイベストメントへの動きが広がり、よりクリーンで持続的なエネルギーへの投資に資金が増えることにより、再生可能エネルギー市場は拡大していくでしょう。
 最近のダイベストメントの事例としては、2017年1月、日本が官民をあげて推進しているインドネシアの中ジャワ州タンジュンジャティB石炭火力発電所の拡張計画において、フランス大手銀行ソシエテ・ジェネラルが融資撤退を決定しました。この発電所計画には、日本の国際協力銀行(JBIC)と3メガバンクを含む複数の銀行が融資を検討していますが、ソシエテ・ジェネラルの撤退により事業の遅延が見込まれます。さらに、欧米の環境団体はこの計画に関与している自国の金融機関に対して融資撤退を求めていることから、他行が事業への融資撤退に踏み切る可能性もあり、日本はここでも孤立してしまいます。

加速する脱石炭の流れ
 世界は脱石炭に向かって大きく動き出しています。温暖化対策、大気汚染や健康問題の改善、さらに経済的な視点から脱石炭への動きが加速しています。フランスは2023年に、イギリスが2025年、カナダは2030年に石炭火力発電を全廃する政策目標を発表しています。中国やインドにおいても、深刻化している大気汚染対策とあわせて、100基以上の石炭火力発電の建設計画をキャンセルし、再エネを増やす計画を進めています。低炭素化技術やカーボン市場に関する情報と分析を行っているブルームバーグ ニュー エナジー ファイナンス(BNEF)は、多くの地域・国で2030年代に、太陽光・風力発電が最も低コストの電源となり、2040年までに世界で新たに導入される発電設備への新規投資のうち、約3分の2を再生可能エネルギーが占めると予想しています。日本の2030年のエネルギーミックスにおける再エネの割合は22〜24%程度となっていますが、BNEFの予想のように日本でも再エネが拡大すれば、エネルギーミックスの想定を上回る可能性が出て来るかもしれません。


出典:経済産業省 長期エネルギー需給見通し
http://www.meti.go.jp/press/2015/07/20150716004/20150716004_2.pdf

化石燃料時代の終焉−日本はどこに行く?
 元サウジアラビアの石油相のアハメド・ザキ・ヤマニ氏は「石器時代は石がなくなったから終わったのではない。石に代わる新しい技術が生まれたから終わった。石油も同じだ——」と警句を残しました。石炭も、石炭がなくなるから終わるのではありません。石炭に代わる新しい、より良いエネルギーが普及するから終わるのです。既に、再生可能エネルギーへの転換意欲が高まっており、化石燃料時代をいつ終わらせるのかを議論する段階に入りつつあります。
 パリ協定のもとで、日本が排出ゼロへ向けた世界の動きをリードするには、石炭に対する姿勢を改め、新興国や途上国の低炭素な発展に貢献し、責任を果たすことが必要です。

◆鈴木康子(すずき やすこ)さんのプロフィール

気候ネットワーク事務局スタッフ。2015年4月より気候ネットワークに参加し、主に石炭火力発電事業の海外投融資プロジェクトに携わる。国際協力銀行(JBIC)を中心とした日本の石炭融資に関する情報サイト『No Coal, Go Green!』を通して、海外における日本の石炭開発事業や石炭にまつわる世界の動きの情報を発信している。



 



 
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