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原発再稼働の拒否権を市民自治で可能にする

2016年12月19日



上原 公子さん(脱原発をめざす首長会議事務局長) 

 皆さんは、2014年5月21日「大飯原発3,4号機運転差し止め訴訟」の福井地裁判決を覚えていらっしゃるでしょうか。憲法の根本精神を、司法がこんなふうに語るとは、思ってもいませんでした。多くの人々に希望をもたらした、素晴らしい「憲法のはなし」です。

『個人の生命,身体,精神及び生活に関する利益は,各人の人格に本質的なものであって,その総体が人格権であるということができる。人格権は憲法上の権利であり(13条,25条),また人の生命を基礎とするものであるがゆえに,我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない。』
『コストの問題に関連して国富の流出や喪失の議論があるが,たとえ本件原発の運転停止によって多額の貿易赤字が出るとしても,これを国富の流出や喪失というべきではなく,豊かな国土とそこに国民が根を下ろして生活していることが国富であり,これを取り戻すことができなくなることが国富の喪失であると当裁判所は考える。』
(福井地裁判決から抜粋)

 私は現在「脱原発をめざす首長会議」の事務局長をしていますので、今日は、その立場からお話をいたします。
 「脱原発をめざす首長会議」は2012年4月に69人の地方自治体首長(元職を含む)で設立されました。現在100人の会員で、政府に対する意見や問題提起、再生可能エネルギー政策支援活動などを、盛んに行っています。
 2011年3月に発生した福島原発事故は、多くの人々に故郷を捨てて避難することを強いることになりました。また、被ばくの不安を生涯背負わなくてはいけないという、将来に多くの禍根を残すことになってしまいました。現在でも、福島原発の事故処理の先が見えないままです。避難生活を続けている人たちには、様々な問題が噴出しています。先日露呈した、横浜市における自主避難の子どもが長期間いじめにあっていたことは、その典型的な事件といえます。今だ、安定的な暮らしができず、働く場も転々とせざるを得ない人たち。親の貧困や生活の不安定のために、進学をあきらめる子供たち。そして、被ばくによる子供の甲状腺がんの発生は174人になっています。これは、憲法の保障する基本的人権に深くかかわる、13条(幸福追求権)、25条(最低生活の保障)、26条(教育を受ける権利)、27条(勤労の権利)を、国家が放置している状態にあることを意味します。
 しかも放射能汚染は、立地自治体のみならず、広範囲に及んで、第1次産業や、観光など産業にも多大な影響を及ぼしています。
 このような事態に至って、多くの自治体の首長は本当の幸せは経済効果よりも、安全とか住み続けられることの方が大事であると、本音では気付いています。なぜなら、首長の一番の責任は、住民の生命財産を守ることと課せられているからです。
 住民の生命と財産を守り抜くためには、もはや原発とは共存できるはずもないのです。
 もう一つ大事なことは、地方自治体は憲法第92条にある「地方公共団体の組織及び運営に関する事項は、地方自治の本旨に基いて、法律でこれを定める。」ということです。
 「地方自治の本旨に基づいて」とは、「住民の意志によって地方自治体の運営を決める」ということです。つまり、どう生きたいのか、そのためにはどんなまちにするのかは住民がその決定権を持っているということです。「脱原発をめざす首長会議」は「住民の生命財産を守り」「住民の決定権」が、憲法の求める民主政治で実現すべき最重要課題と考えているのです。
 そこでこの間、その精神に基づき、UPZ(原発から30㎞)内の自治体の「避難計画」策定の義務、再稼働にあたっての立地自治体の同意権、高レベル放射性廃棄物最終処分地選定について、重点的に問題提起をしてきました。
 「避難計画」策定に関しては、主にUPZ内の自治体に限っていることを主に問題としてきました。実際避難をする事態になれば、UPZ外の避難者受け入れ自治体も大きな影響があるにもかかわらず、何ら保障もないまま膨大な避難者の受け入れだけを強要されています。自治体によっては、人口の半分近くを受け入れることになっているのです。現実的ではなく、全くあり得ないことです。再稼働のために、「避難計画」策定をアリバイとしたとしか思えません。福島原発事故では、200km以上にも汚染が及んだのですから、全自治体で真剣に避難計画を策定することによって、原発事故の際、住民の生命財産が守れるのか本気で原発に向き合うべきだと考えます。
 再稼働にあたっての立地自治体の同意権も、同じ理由で問題です。ご存知のように原発事故は、風向き、気象状況でどの範囲が汚染されるか予想が付かないのです。周辺自治体は、原発立地による交付金や特別配慮の補助もないにもかかわらず、一旦事故が起こればば、甚大な被害を被ることを、福島原発事故で目の当たりにしました。にもかかわらず、再稼働の同意権が、立地自治体だけに限定されていることは、周辺の自治体の苦しみは無視されていると言えます。再稼働の同意権は、周辺自治体にも当然あってしかるべき権利です。
 そして、最近持ち上がってきた、高レベル放射性廃棄物最終処分地選定についてです。 原発事故の高レベル放射性廃棄物の処分に関してだけでなく、原発は稼働した分、高レベル放射性廃棄物が発生します。すでに、使用済み燃料だけでも17000トンがあると言われています。原発を再稼働しなくても、すでにこんなに多くの危険な放射性廃棄物が、必ずしも安定的といえない状況下にさらされているのです。世界中がこの最終処分場問題で行き詰っている中、政府は、再稼働を加速させるために、今年12月中に最終処分の「科学的有望地」を公表する方針であり、日本列島の沿岸部の市町村が指定される見込みです。
 これまで、原発再稼働に関しては、立地自治体の問題と見ぬふりをしてきた自治体も 、最終処分地問題に関しては、当事者になる可能性が出てきたのです。そこで、「同意権」並びに「拒否権」を地方自治体が持つことが、重要になってきます。憲法第92条の地方自治の本旨は、こんな時に発揮されるべきでしょう。
 幸い、「核関連施設・廃棄物拒否条例」を制定している自治体が、全国に19カ所あります。地方自治・住民自治に基づき、まちづくりの選択権は、本来自治体住民が持っています。「民主政治」の根本精神はここにあるはずです。住民が地域ルールである条例をつくり、高レベル放射性廃棄物最終処分地を自分のまちに持ち込ませないことにより、再稼働をさせない歯止めになるになるのではないでしょうか。再稼働より優先すべきは、今ある廃棄物をどうするのか、徹底して議論すべきです。

 熊本県や鳥取県のように、最近想定外の地震や火山の噴火があちこちで起こっています。地震列島は、活発化しています。こんな日本で、原発再稼働を認めることは、まさに過酷事故の再現を容認するに等しいと言えます。再稼働を認めた自治体は、今度はその責任を負わなければなりません。
 誰もが、自分らしく幸せに生きたいと願っています。わが利益のために、他人を不幸にしてはいけないとも憲法第13条(個人の尊重)で言っています。今、経済に不安があるからといって、大きな過酷事故の可能性といったリスクを認めてはいけないのです。私たちは、今生きている全世界の人々だけでなく、未来の子どもの対しても、責任を負っていることを決して忘れてはいけないのです。
 憲法第8章(地方自治)は、私たちに主権者としてなすべきことが書かれています。暮らしに直結した地方自治を、市民自治という主権者の手で育て上げてこそ、みんなが幸せになる「民主政治」の道が開かれていくのです。
 1996年8月に原発建設反対の住民投票を成し遂げた新潟県巻町の事例を、今こそ主権者の決定権として学びとしたいと思います。

◆上原公子(うえはら ひろこ)さんのプロフィール

1949年5月3日(憲法記念日)、宮崎県生まれ。
1989年東京・生活者ネットワーク代表。
1991年東京都国立市市会議員。
1996年国立市景観権裁判原告団幹事。
1999年5月、国立市長に立候補し当選、
2期8年間市長を務め、2007年4月に退任。
現在「脱原発をめざす首長会議」事務局長
 「教育・子育て9条の会」呼びかけ人
  「自治体議員政策情報センター長」

[著書共著]
『〈環境と開発〉の教育学』(同時代社)
『どうなっているの? 東京の水』(北斗出版)
『国民保護計画が発動される日』(自治体研究社)
『市民が広げる議会公開』(現代人文社)
『無防備平和 市民自治で9条を生かす』(高文社)
『しなやかな闘い』(樹心社)
『国立景観訴訟 自治が裁かれる』(公人の友社)
『脱原発で住みたいまちをつくる宣言』(影書房)

 

<法学館憲法研究所事務局から>

上原公子さんには、以前当サイトで「 憲法と地方自治の本旨をかみしめて・・・ 」(2004年7月26日)で登場いただいています。

 



 



 
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