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税が拡げる格差と貧困

2016年7月11日



浦野広明さん(立正大学法学部客員教授)

 タックスヘイブン(tax haven)は「租税回避地」のことである。タックスヘイブンについては国際的な規制を求める発言が相次ぐが、ちょっと待ってほしい。タックスヘイブンは遠い国のことではない。大企業や富裕層にとって今の日本はタックスヘイブンであることを見逃してはならない。上場企業の2015年度の配当は、「上場する約3600社の配当を集計したところ、総額は前年度比1割増の10兆9000億円と初めて10兆円の大台に乗せ、最高となる」と報じられるように巨額である(日本経済新聞2016年6月3日)。
 安倍首相は施政方針演説で、「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指します」と述べた(2013年2月28日)。冗談はほどほどにしてほしい。目指すどころか、今でも日本の大企業や富裕層は手厚い租税特別措置(優遇税制)によって、税負担が著しく軽減、ないしは完全に免除されている。
 大企業や富裕層は、自由権法理(国家権力に干渉されない権利)を振りかざし、財産権の自由(課税逃れの恩恵)を手に入れる。この優遇税制は庶民の重税と生活の犠牲のうえに進められる。
 安倍政権は、2016年度税制改定で、法人税の税率(現行:23.9%)を、2016年4月1日以後に開始する事業年度から23.4%に、18年4月1日以後に開始する事業年度から23.2%に引き下げた。現行の法人税率はいくら所得があっても一定率の税負担であるから、所得の多い大企業ほど税負担が少なくなる。憲法の応能負担原則からすれば、法人税であっても累進税率を採用すべきである。アメリカの法人税は累進税率を採用している。わが国でも所得税における7段階の累進税率(5%、10%、20%、23%、33%、40%、45%)をとるべきである。
 日本の大企業は、各種の租税特別措置(優遇税制)によって、実際の税負担率は低い。
優遇税制の利用によって巨大商社が実際に支払った税負担は、法人実効税率が35%から40%であった2010年度から2014年度までの5年間において、三菱商事(7.9%)、伊藤忠商事(2.2%)、三井物産(マイナス0.7%)と「ただ」同然だった(税制評論家・税理士の菅隆徳氏調べ。『税制研究』69)。このように、タックスヘイブンの恩恵に浴した日本の大企業や富裕層は白昼堂々と税逃れをしている。すぐに手をつけるべき課題が「タックスヘイブン国日本」の改革である。 
 大企業優遇税制は法人税にとどまらない。輸出売上に対する消費税率は8%ではなく0%である。この0%税率を適用したトヨタ自動車は消費税を1円も払わず、推定で4,887億円の還付を受けている(2015年3月期)。
 わが国の消費税の税率はヨーロッパに比べても低くない。食料品の税率は、イギリス0%(標準税率20%)、ドイツ7%(同19%)、フランス5.5%(同20%)である。日本は、食料品にも8%の税率を適用しており、世界的にみて消費税率は高い。消費税は、年間所得が200万円と1,000万円の人が、100万円の消費をして、消費税を8万円負担したと仮定した場合、所得に占める消費税負担割合は、前者が4%、後者は0.8%である。消費税は低所得者に重い負担を強いる憲法14条(法の下の平等)違反の税なのである。
 個人の所得税負担率は、所得が1億円を超えると下がる。その要因は株の売却・配当益に対する税制である。2003年度税制改定によって、上場株式の配当や売却益所得については、いくら所得があっても、わずか10%(所得税:7%、地方税:3%)課税とした(証券優遇税制の採用)。この10%の税率は2013年12月末で適用期限が切れ、14年1月から、税率を20%(所得税:15%、地方税:5%)に戻した(その他に復興特別所得税が13年から25年間所得税額に2.1%が上乗せされる)。戻したと言っても20%税率(租税特別措置法37条の10)自体が金持ち優遇であることには変わりない。
 税制問題でしばしば槍玉に上がるのは宗教法人である。宗教法人の課税問題は、小規模宗教法人(小規模の寺社教会)と巨大宗教法人とを区分して考えなければならない。小規模宗教法人は、大半が収益事業をおこなっていなく法人税等が課されない。これをもって税金がかからないかのように見られがちだがそれは誤りである。住職、神主、牧師などは宗教法人の宗教活動に伴う収入から、給与を得て生活をしている。給与には所得税や住民税などが課されている。また、寺社教会の支出する各種費用には消費税が課されている。小規模宗教法人は些細な入金を「現物給与」に認定され、源泉所得税の追徴に泣かされている例が散見される。
 大規模宗教法人はどうであろうか。矢野絢也元公明党委員長はつぎのように述べている。「公私混同問題は、まだいくらでも残されていた。例えば美術品問題がある。池田氏はお眼鏡にかなった美術品を世界中から買い集めていたが、購入は学会の会計だった…管理も曖昧で高価な絵画が、いつのまにか池田氏宅に飾られていたというようなケースもあったようだ」(『私が愛した池田大作』講談社)。
 落合博実氏(元朝日新聞編集委員)は、税務署の公示によって知った創価学会の収益事業に係る申告所得金額を発表している。それによれば2002年=約143億2000万円、03年=約181億1000万円、04年=約163億5000万円となっている(『徴税権力 国税庁の研究』文藝春秋)。この数字は公示制度があればこそ知りえた所得である。
 申告書公示制度は、1950年に導入されたもので、所得税、法人税、相続税の申告書が提出された場合、その申告書に書いてある税額、課税対象金額が一定額を超えるものについて、税務署がその納税者の住所・氏名、税額などを一定期間公示するものであった。
 自公両党は公示制度を2006年度税制改正によって廃止した。廃止により、政治家や創価学会の収益事業に係る申告所得金額などはまったく知る手立てはなくなった。公示制度は、所得税は所得税額が1000万円超、相続税は課税価格2億円超、贈与税は課税価格4000万円超、法人税では所得の金額4000万円超、が基準となっていた。
 公示制度は「国民の知る権利」の保障であり、一刻も早く復活すべき制度である。
 国民本位の税制は、税の支払い方と税の使い方において憲法の精神を生かすことによってのみ実現する。税の支払い方について日本国憲法(憲法)が考える原則は、各人が経済的な負担能力に応じて税負担をするという応能負担原則(応能原則)である(13、14、25、29条等を根拠)。この原則は、国税、地方税、社会保険料(使途限定目的税)など、すべての租税に当てはまる。次に考えなければならないのは税の使途についてである。憲法は、平和的生存権(前文)、戦争の放棄・戦力および交戦権の否認(9条)、生存権(25条)をうたっている。この憲法の下で国民が「納税の義務を負う」(30条)のは払った税金が平和に生存するために使われること、すなわち「全税が福祉社会保障目的税」であることを前提にしている。
 日本税制をかつてあった制度にゆるやかに戻すだけで、国税と地方税は1年間で28兆4,384億円の増収が見込める(不公平な税制をただす会『福祉とぜいきん』2016年5月30日)。
 健康で文化的な国民生活を保障するには、応能原則実現の柱となる所得課税(国税においては所得税・法人税)の総合累進化を進める以外に方策はない。日本のタックスヘイブン化をくい止めることが、日本税制の最も重要な課題である。
 あらゆる選挙は、税のとり方と使い方を決める意思表示の機会である。常にそのことを念頭において投票することが望まれる。

◆浦野広明(うらの ひろあき)さんのプロフィール

立正大学法学部客員教授(税法学)
税理士(合格科目:簿記論・財務諸表論・法人税法・所得税法・相続税法)
日本民主法律家協会副理事長
日本租税理論学会理事
公益財団法人第五福竜丸平和協会監事
税理士(東京税理士会所属・池袋経理事務所所長)
衆議院予算委員会中央公聴会の公述人(2012年3月2日)

【著書】
 『現代家庭の法律読本』(岩波書店・共著)
 『納税者の権利と法』(新日本出版社)
 『日本語きほん帳』(朝日新聞社・共著)
 『税務行政における予防法学の実践』(成文堂)
 『税務調査に堂々と立ち向かう』(日本評論社)
 『税が拡げる格差と貧困』(あけび書房)



 



 
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