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今週の一言

 

今こそ子どもたちの権利確立の闘いを

2015年12月14日



児玉勇二さん(弁護士)

1、弱者である子供よりも、世界一の企業、強い軍事国家づくりを目指している安倍政権の教育再生政策は、この目的のために子ども・教師・父母たちを強引に従属動員させようとしている。そのため子どもたちの人権状況は極めてますます悪化している。
 厚生労働省が2014年公表した統計によると、わが国の子どもの貧困率が2012年に16.3%(約300万人)と、1985年以降で最悪になった。6人に1人の子どもが、貧困に陥って、ひとり親世帯に限れば、貧困率は54.6%と先進国で最悪の水準だといわれている。
 2012年は、大津のいじめ自殺事件が社会問題となって、文科省は、12年4月から約半年間に全国の小中学校で把握したいじめの件数は14万件で、前年度1年分の2倍を超えていたと公表している。
 2011年度は1年間で7万4000件、12年度19万8000件、中でも小学生は3.3万件が11.7万件に増えている。
 13年度はいじめの小学生の件数は12万2721件で過去最悪となっている。
 2013年度に学校を30日以上欠席した小中学生は計18万1301人そのうち不登校児は11万9617人となって、15年度文科省調査では、14年度の実態の速報値は2年連続増加で、小学生は2万5866人で1691人増加、255人に1人で過去最悪、中学生は9万6789人で、1608人増で36人に1人。ほぼクラスに1人の割合で不登校児がいることになっている。
 児童相談所の2013年度の児童虐待の相談対応件数は戦後最大の7万件で、児童虐待防止法施行前(平成11年度)の6倍に増加、14年度は前年比20.5%増で8万8931件、虐待死は高い水準で推移している。
 15年9月、文科省が発表した昨年の小学生の暴力行為は1万1468件で、前年比約5%増で過去最多。小1は5年前の2倍以上に増えた。
 マスコミでは、これらについて子育て世帯の経済苦や、雇用の不安定の急増にあると指摘している。

2、世界での日本の子ども青年達はすべての指標で最低の数字が出ている。ユニセフによって行われた経済協力開発機構(OECD)加盟国の15歳を対象とした幸福度に関する調査は、24ヵ国中日本は「自分は孤独だと感じる」率がトップで、ほぼ3人に1人は孤独を感じている。
 日米中韓4ヵ国でのアンケートで「自分は価値のある人間だ」と答えた割合はアメリカ57.2%、中国42.2%、韓国21.2%に対し、日本は7.5%と極端に低く、また、「自分は優秀だと思わない」の割合は、アメリカ11.2%、中国32.7%対し、日本は83.2%と非常に高い数字となっている。
 WHO(2014年度7月発表)の15〜24歳の自殺率の国際比較(10万人あたり)で、2010年のイギリス、ドイツ、フランスなどが6人前後、日本は14.8人。日本は1991年に7人と、比較7ヵ国中で最低の自殺率だった。ところが四半世紀で2倍以上、7ヵ国の中で最も高い国となっている。日本の教育予算は、OECDの調査で国内総生産(GDP)に占める公的な教育支出は、日本は12年分で3.5%と、比較可能な32ヵ国中最下位で、教育費負担〈OECD加盟34ヵ国〉も国公立大学の年額の授業料も見ても、北欧などの無償と比べてみると、5000ドル以上で、韓国、アメリカなどと同じように最も高い国となっている。

3、私は今年の春、明石書店から出した「子どもの権利と人権保障」の本で、第二次安倍内閣の教育政策の問題性を指摘した。1、2の原因背景を考えてみる。
 第二次安倍内閣は「強い日本を取り戻す」ための「教育再生」を重点政策に掲げて、日本の国際的な競争力を回復するための国民総動員体制を敷き、子ども政策を大転換しようとした。首相直属の下に設けられた新自由主義経済体制を促進する財界代表を中心に、様々な諮問会議で、教育については教育再生実行本部で我が国の経済的政治的国際的競争力強化を、また、軍事大国化を目指した憲法を改正していく方向を示し、新自由主義的な新国家主義的な教育を強化しようとした。@競争と評価によって子どもを早期の段階で選別しA少数の勝ち組の子は日本の将来を担うリーダーとして優遇しB大多数の負け組の子は、普通教育から放擲し、非正規雇用の単純労働者になる道を歩ませC予想される負け組の欲求不満を抑え、勝ち組であるリーダーに仕える精神を形成するため新しい愛国心(公共に尽くす心)や規範意識の強化を徹底し、国民総がかりで(大学・学校・保育所・幼稚園・企業や警察を含む地域・家庭等)全ての子どもにそれらを内面に関することを最も重要な教育目標化しD子どもも教師も日常的に法律と規律と上意下達による命令や達成目標に縛られ、評価の対象となり、これらに異を唱えたり成果を出せない者は「不適格教員」あるいは「ダメな子」としてレッテルを貼られ、公教育の場から排除される。これが戦争法を今年の秋強引に強行した流れに沿った軍国主義教育体制へとつながっていっている。
 新自由主義経済によって経済的格差・貧困が拡大するにもかかわらず、生活保護削減に見られるように、子どものための教育福祉予算は極限まで削減され、子どもを持つ家庭の貧困は、ますます増大していく。
 経済的貧困ゆえに保育・教育を受けられず、進学を諦めざるを得ない子どもが出現している一方、豊かな子ども期の保障に不可欠な「幸福、愛情及び理解のある雰囲気」を、生活に追われる親との間で構築できなくなっている。他方で、経済的に豊かな 親はわが子を勝ち組に入れるべく、幼少期から強いプレッシャーをかけ、激しい受験戦争に駆り立てている。
 今までの国が責任を負ってどの子どもにも平等に教育を保障することは全く後退し、家庭は、国策としての人材作りのための家庭教育を担わされ、もし失敗した場合には、自己責任と見なされる。
 これらの道から振り落とされ、問題行動や非行に走る子どもたちには学校へのゼロトレランスの導入や学校と警察と地域社会が連携して「規範意識の強化」等を図り、子どもに対する規律の強化が日常化している。警察の連携と警察が介入し、少年法も戦後から目論まれていた検察官関与、そして刑期の長期化そして少年法被疑者の43.5%を少年法の保護主義から後退させる18歳年齢への引き下げなどが図られようとし、子どもに対する監視と取締りの強化がますます日常的にも広がっている。軍事大国化への治安体制維持を確立しようとしているのである。
 このような中、日本の大多数の子どもたちは憲法13条の個人の尊厳と成長発達権が保障されず、誰からも「ありのままの自分」を認めてもらえず、学校では憲法26条で保障されている学ぶ喜びを失わしめられている。孤独と絶望の中でうめき、競争と管理と評価の下で親や先生の期待に応えられない「価値のない情けない自分」と考え、諦め、あるいはそれらに過剰適応して息切れを起こしている。
 そして、本来子どもの権利実現のための教師の教育の自由が憲法23条で保障されており、子どものこの人権侵害状況を回復する権限と役割が本来あるにもかかわらず、その教師の管理統制が強化されて、教育の自由も失い、教師達はますます教師の喜びと生きがいを失わせしめられている。

4、それでは、これらの新自由主義経済化、軍事大国化、そして、この教育体制とどう向かうか。私はこの流れの中で多くの幅広い教育関係者、弁護士、学者などと共に@本来、教育委員会事務局がいじめ隠蔽などの原因となっていたにもかかわらず、これを口実として本来教育の民主化を図るべき教育委員会を解体しようとする動きに対し。A今まで道徳の教科化を国は実現しようとしていたことができなかったにもかかわらず、第二次安倍内閣でいじめなどを口実としながらも、国家主義的な教育基本法改悪の中で示された愛国心教育を進めるための道徳教科化、その教科書の国定化を進めようとする動きに対して。Bそして、戦争法実現する前提として、大学への日の丸君が代の実現を図ろうとしたことに対する反対声明を、それぞれ国に出し、一定の影響を与えた。また、七生養護学校性教育介入事件で、最高裁学テ判決に依拠して、政治的不当支配禁止、教育の自主性尊重を判決で認めさせ、今の教育反動化への闘いの武器としている。
 そして、今、憲法、旧教育基本法、子どもの権利条約実現のために、3回の子どもの権利条約で勧告された過度の教育競争こそが、いじめ、非行、不登校などへの影響を与え、そのため、この教育体制を改革すること。教師・父母と子どもとの関係が、最高裁学テ判決で示されている父母と教師との人格的接触こそが子ども達の成長発達につながることができなくなっていることの改革を。新自由主義的な企業の教育への影響が大きくなり、国は企業と違って教育費を大幅に削減し、あらゆる学校現場で子どもたちの成長発達を、教師の教育の自由を後退させている。子どもの権利条約NGOが今まで以上に子どもの権利条約を大きな運動の武器としてこの条約の実現を図る運動を強化していこうと私自身は考えている。
 そして、当然ながら「子どもや青年達を再び戦場に送るな」を合言葉に、戦争法を廃止し、子どもたちがこの大義のない戦争に参加することのないように、平和と民主主義と立憲主義を実現しようとする人たちと連帯して、また、そのための教育を新しく再生していくことに、余生をこれに注ぎたい。

◆児玉勇二(こだまゆうじ)さんのプロフィール

1943年、東京生まれ。
68年、中央大学法学部卒業。71年、裁判官就任。73年、弁護士となる。
DCI日本支部再建共同代表、子どもの権利条約市民・NGO報告書をつくる会共同代表、日本弁護士連合会「障害のある人に対する差別を禁止する法律に関する調査研究委員会」委員、「チャイルドライン支援センター」監事、元立教大学非常勤講師「人権論」。
主な著書に、『知的・発達障害者の人権―差別・虐待・人権侵害事件の裁判から』(現代書館、2014年)、『性教育裁判―七生養護学校事件が残したもの』(岩波ブックレット、2009年)、『子どもの人権ルネッサンス』(明石書店、1995年)、『障害をもつ子どもたち』(編著、明石書店、1999年)。共著に、『障害のある人の人権状況と権利擁護』(明石書店、2003年)、『ところで人権です―あなたが主役になるために』(岩波ブックレット、1999年)、『子どものための人権ノート』(明石書店、1995年)、『子どもの人権110番―子どもたちをどのように救済できるか』(有斐閣、1987年)。




 
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