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医療費抑制と地方統制を強める医療保険制度改革関連法案

2015年4月3日



長友薫輝さん(三重短期大学教授)

はじめに

 今年3月3日、安倍内閣は医療保険制度改革関連法案を閣議決定し、国会へ提出した。国民健康保険法、健康保険法、高齢者医療確保法などが一括された同法案は、2013年12月に成立した社会保障改革プログラム法に基づいたものである。
 同法案には、国保の都道府県単位化をはじめとする医療費抑制策の強化、保険給付の縮小と患者負担増などが盛り込まれた。地方自治体に対しては、医療費抑制策に積極的に取り組まざるを得ない状況が整備されるなど、私たちの医療保障への影響が懸念される。

1.医療保障における都道府県の役割強化

 医療保障は主に「医療の提供体制」と「公的医療保険による皆保険体制」によって実践されている。同法案は、医療費抑制策のさらなる強化を目的に、この両者において都道府県の役割を強化するものである。都道府県に医療提供体制の管理責任(供給量の調節)と国保運営(保険料収入と保険給付等)の責任を持たせる、医療費抑制を目的とした新たな政策手法が登場することになる。
 都道府県には「地域医療構想」を策定し医療の供給量の調節を行いながら、「医療費適正化計画」において医療費水準の目標設定が求められる。各都道府県内で病床再編や後発医薬品の使用割合などの目標値を設定し、達成に向けて努力するという手法で医療費抑制を図る。その際には、住民の受療行動などのデータを使って医療費を各地域で管理することも検討されている。このようなデータ利用に符合するのは、医療分野における利用拡大が今国会に提出されているマイナンバー制度(社会保障・税番号制度)である。私たち地域住民が医療費抑制に駆り立てられる仕組みが整備されつつある。

2.医療の提供体制の再編

 「医療の提供体制」の再編は「川上の改革」と称して病床の機能分化を推進し病床削減を図るとともに、「川下の改革」として介護保険の給付抑制等を図るというもので、ケアの連続性を意識したものではない。川上から川下へと一方通行でデザインされた、医療費抑制を主眼に置いたものである。さらに、地域での受け皿として「地域包括ケアシステム」の構築を目指し、地域住民のボランティア活動等をシステムに組み込む。同時に、保険給付の範囲を狭くすることで部分的な市場化、産業化の拡大が企図されている。
 こうした再編策について、病床削減によって病院から追い出される入院難民、看取り難民の増加が懸念されるなど、地域医療・介護の現場から政策方針に疑問視する声が浮上している。私たちが地域で暮らす上で必要としているのはケアの連続性であり、途切れのない医療・介護体制づくりにある。
 現在進められている社会保障制度改革では、自助・共助の強調を行い、疾病・貧困・失業等の公的責任で対応すべき問題を自己責任や家族・地域の助け合いに還流しようという説明と政策を展開しつつある。自助と共助の強調、民間活力の活用(市場化・産業化)、ボランティアの活用などは1970年代末に自民党が提唱した「日本型福祉社会論」を想起させる。

3.国保の都道府県単位化

 医療保障の「公的医療保険による皆保険体制」に関しては、皆保険体制の基盤でもある国保を都道府県単位化する政策が進められている。国保の都道府県単位化は医療費抑制策の新たな政策手法である。具体的には、2018年度から国保を都道府県単位化するというもので、国保の運営をすべて市町村から都道府県に移行するという、いわば完全移行型の都道府県単位化ではない。
 市町村が引き続き国保の運営を担い、都道府県も加わって医療費抑制の新たな手法が展開される。市町村は、都道府県が示す市町村ごとの「標準保険料率」と、市町村ごとに決められる「納付金」(保険給付費を賄うために必要な額)にもとづいて、保険料率を決めて徴収する。「納付金」を都道府県に納めるために、各市町村が保険料引き上げや徴収強化を図り、保険料の滞納や保険証の取り上げが拡大しかねない。「納付金」は医療費水準や所得水準をもとに決められるため、医療費の抑制がいっそう迫られることになる。
 このように国保の都道府県単位化は、都道府県が先述の医療提供体制(医療費水準)に見合った保険料水準を決定していくこととなり、医療提供体制と保険料の直結を図ったものとみることができる。
 国保には自営業者や年金生活者、低所得者、無業者世帯が多く、財政運営が厳しい状況にある。国保加入世帯の保険料負担は他の公的医療保険加入者に比べて重い負担となっている。そのため、国保の都道府県単位化にあたって3,400億円の公費が投入される。これは住民や自治体の声に押されたものであるが、不十分なものである。財源は、後期高齢者医療に対する他の被用者保険からの支援金を増やして浮いた費用が充てられる。国の責任を後退させ、社会保障を「保険者間の助け合い」に変質させる性格を帯びている。
 公的医療保険間同士での財源の奪い合いに終始するのではなく、社会保障制度として医療保障を確実なものとするには、国と使用者に対して財政責任を求める共同の取り組みが必要となるのではないだろうか。

おわりに

 今回の社会保障制度改革は社会保障における公的責任を地域住民、地方自治体、保険者間の助け合いに転嫁するとともに、医療費抑制策の地方統制を強める方向へと舵を切っている。こうした政策の動向を見据え、自治体には医療費抑制という観点だけでなく、住民の健康を支え、地域の医療保障をどうつくるかという視点で住民の実態把握に努めるとともに、住民参加の手立てを講じるなどの対応が求められる。地域の医療保障づくりを考え行動すれば、医療費抑制を主眼とする政策の転換こそ必要とされるのではないだろうか。
 病気や健康など、自己責任や助け合いでは解決できない問題がある。だからこそ社会的な制度として歴史的に発展してきたのが社会保障であり、その土台となるのは憲法25条の生存権保障である。住民の声が生きる医療保障づくりを進め、憲法を身近に、生存権を実感できる社会を目指すことが求められている。

◆長友薫輝(ながとも まさてる)さんのプロフィール

1975年宮崎県生まれ。三重短期大学教授。
自治体問題研究所理事、日本医療総合研究所理事などを務める。


<法学館憲法研究所事務局から>

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