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ばら撒き的な「地方創生」政策と地方自治原則

2015年3月23日



池上洋通さん(自治体問題研究所理事、多摩住民自治研究所研究室長、日野・市民自治研究所理事)

 いま国会で審議中の来年度予算案で、「目玉」とされているものに「地方創生」がある。内閣官房「まち・ひと・しごと創生本部事務局」が作成した資料を見ると、予算案にあげられている事業数は総計191件・予算総額7225億円であり、別書きされている「その他財政的支援(国家戦略特区・社会保障制度・税制・地方財政等)」の6766億円を加えると、総額1兆3991億円。今年1月の補正予算でも「地方創生」を計上したが、このとき59事業に3275億円を付けた。合わせて1兆7266億円。事業数も金額も、まさに「ばら撒き」というべき手法である。そしてその事業展開については、「政府の手法は『地方中枢拠点都市』『地方中心市』『基幹集落』を設けて、創生事業を支援する。効率的に成果を上げるために、政府が支援地域を"選択"して財政と政策を"集中"する。これでは中山間地域などが選択の対象から外され、『農村たたみ』となる。国の食料自給率の視点がないのも問題。」という保母武彦氏の指摘がある。(日本経済新聞、1月24日夕刊)

1 「ばら撒き」の背景・契機

 こうしたばら撒き手法の背景・契機として、私は次の点を見ている。
 第1は、消費増税も含めて「アベノミクス」が事実上失敗したということである。安倍政権の経済政策に対する評価はさまざまだが、少なくとも地方の経済・社会状況が好転したとの報道はほとんどない。そして地方経済は、国民経済の80%を占めていることからしても、政権内部において、地方選挙対策についての焦りが生じたのは当然のことであった。
 第2は、増田寛也氏ら「日本創成会議」が提起した「人口減少・自治体消滅論」の深刻な影響である。これについては後でもふれる。
 第3は、地方自治体からの「要請」である。特に、昨年10月に全国知事会が出した『地方創生のための提言』は、国に「自由度の高い交付金等の創設」を求め、一般会計予算に「まち・ひと・しごと創生枠(仮称)」の創設⇒5年間で5兆円程度確保し、「推進交付金(仮称)」を創設することなどを提案した。これを生かす形で立案され、11月に立法化されたのが「まち・ひと・しごと創生法」であり、2005年に立法した「地域再生法」の改正と合わせて「地方創生2法」とし、さらに中小企業関係の法律改正による「中小企業需要創生法」なども合わせて提起して、新年度予算が立案されたのである。

2 「知事会提言」に書かれていることと「ばら撒き」手法との矛盾

 当然のことだが知事会の「提言」には地域・自治体の現実が反映されている。
 まず現状認識。「長く続いた少子化の影響で…働き手の減少、消費者の減少、地域コミュニティの担い手の減少が同時に起こっている。これが地域経済の活力を奪い、中心市街地や中小製造業や商業、農林業の衰退などといった形で現れている。/グローバル経済の深化に伴い、地方も世界的な競争の中に置かれ、大量生産型の製造業が海外へと展開し、国内の産業構造がサービス産業を中心とする形へと変化していく中で、人口の多い都市部に雇用の場が集中し、これが地方から都市部に向けた若者の人口流出を招き、地方の人口減少に拍車をかけている。」
 そして今後の政策展開。「…政策の根本的な転換を図ること/全国一律、東京一極集中、キャッチアップ型ではなく、…地方が自主性、独自性を最大限に発揮し、それぞれの課題に応じた対策を講じることができるような形で取り組んでいく必要がある。」
 だが「ばら撒き」手法では、知事会のいう方向での政策展開は困難だ。数多くの事業を掲げて地方自治体や地域の企業などに選ばせるという方法は、自治体の自主性を重んじるようにも見えるが、市町村に対して、国や都道府県が事業ごとに口出しする道をひらくことでもある。地方自治原則から見た「ばら撒き」の最大の問題点はこれだといって良い。

3 日本国憲法の地方自治原則と「地域・自治体の連合」としての国家

 日本国憲法は、中央政府の三権と同じく「章」を立てて「地方自治」を規定した。中央政府と各地方自治政府の対等性は明白である。そして第8章は、「国民」とは区別される「住民」を主語とした諸条項を規定し、地方自治における住民の主権者性を示した。
 この場合、中央政府が憲法14条の「法の下の平等」によって一般的な基準を法制化するのに対して、地方自治政府の任務は、基本的人権を住民個人の日常生活において具体的に実現することである。その任務を果たす際の判断が自治的であるのは、@自由に生み出される個々人の生活に向き合うこと、A住民が生活する地域は、個別的に自然的・歴史的・社会的特性を持っていることによる。
 つまり日本国憲法は、この国を連邦制でも道州制でもない「基本的人権の具体的実現を任務とする、多様な特性の上に立つ地域・地方自治政府の連合」とし、各地域において、中央政府と対等な、住民主権の政治的共同体とその政府を確立することを構想したのである。この前提には憲法の「非軍事・平和国家原則」がある。軍事的・統制的な「挙国一致体制」は、自治の徹底した地方自治政府構想とは相容れないからである。また、地方自治体の主権者たる住民のうちに外国籍住民を含め、多国籍的住民による政治的な地域共同体を認めたことも、この制度理念によるものといえよう。
 ここで「人口減少・自治体消滅論」についてふれておく。日本創成会議の提起は、あらためて「人口問題」「地域問題」に目を向けさせた点で評価すべき面もあるが、何よりも憲法の地方自治原則が抜け落ちている。地方自治体の存立に人口規模は関係ない。例えば人口100人の地域で地方自治体を形成し運営することは、制度上も現実的に十分に可能である。またそうでなければ、日本のように森林が65%の面積を占め、多様な自然・生物体系を持つ国土の、将来にわたる存続は不可能だ。そのために地方自治法では、町村においては、議会に代えて「住民総会」による議事運営までも規定しているのである。

4 あるべき「地方創生」政策と現場における基本姿勢

 これらを考えると、あるべき「地方創生」政策は、知事会の「提言」もいうように、これまでの政策を根本的に転換することだということになる。しかし同時にそれは、知事会「提言」のような5年間程度で豊かな成果が得られるものではない。当面の事業に実験的な面があったにせよ、あるべきは恒常的なプログラムである。
 ここで中央政府の責任は、すべての地方自治体に対して、「法の下の平等」原則に基づく富の再配分、自治体から求められる支援の手立てを持続的に行う体制を確立し、住民と自治体が安心して将来に向かって進めるようにすることである。
 それと同時に、すべての自治体と住民が、いま、現実的に直面する「地方創生」の政策展開に向き合うことが求められている。そのとき重要なことは、住民の主体的な参加を得た職員集団との共同的・民主的な計画立案の場の確保である。その内容は、これまでの事業についての率直で誠実な点検であり、今後の事業の創造、持続についての自由な「提言」である。そしてそれらのチームが、事業現場においても恒常的なものとして育つ条件を確立していくこと、それが地域コミュニティの活性化にもつながるように組み立てていくことだ。そしてこのときに重要なのは、財源が「国の恩恵」などではなく、何らかの形の税によるものであることの認識である。
 最後に、ここまでふれることができなかった、真の「地方創生」のために最低限実現すべきことを書いておく。
 @東日本大震災からの復興を「地方創生」の最優先課題に位置付けること。
 A一刻も早く原発事故被害を収拾し、すべての原発の廃止を決定して、地域的な再生型エネルギー政策とその事業体制を確立すること。
 B沖縄における新基地建設をやめ、すべての軍事基地の段階的廃止を計画すること。
 以上である。

◆池上洋通(いけがみ ひろみち)さんのプロフィール

1941年、清水市(現静岡市)生まれ。
フリーライターの後、1974〜92年東京・日野市役所職員。
1992〜2002年 自治体問題研究所常勤役員。月刊『住民と自治』編集長
千葉大学(教育学部)ほかで非常勤講師など
現在、自治体問題研究所理事、NPO法人・多摩住民自治研究所研究室長、
NPO法人日野市民自治研究所理事、ほか
地方自治ほかの多数の著書・共著・論文がある。



 



 
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