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今週の一言

 

これでも原発再稼働を進めるか

2015年3月16日



隅田繁雄さん(「日野市民9条の会」代表・「NPO法人日野市民自治研究所」理事)

総理大臣のウソ

 事実でないこと、根拠のないことを、あたかも真実であるかのごとく喋ったり書いたりすることを、日本語では「ウソをつく」と言う。そうする人のことを「ウソつき」と呼ぶ。国を代表する総理大臣がそうすれば、その影響は甚だ大きい。
 他でもない。我が総理大臣、安倍晋三氏がそれを地で行ったのだからビックリした。誰もが驚かされた、そのウソは一昨年9月のこと。彼がブエノスアイレスでのオリンピック招致演説で、福島原発事故の汚染水について言及したのはいいとして、「状況はコントロールされている。影響は港湾内の0.3?でブロックされている」と世界に向かって大見得を切ったのである。
 これは誰もが知る通り、真っ赤なウソであった。あの直後、相馬市の一漁師は「ふざけんじゃない。コントロールできていないから、汚染水にこんなに苦しめられているんじゃないか」と憤っていた。東電も「完全に遮断できているわけではない。放射性物質が港湾の外に広がっている可能性がある。タンクの高濃度の汚染水が漏れて、外洋に流出した可能性もある」としぶしぶ認めている。また管轄官庁である経産省は、隠しようがなく「1日300tの汚染水が海に流失している。港湾の出入口は開いたままなので、海水が出入りしている」と開き直っている。
 実は安倍氏の招致演説の以前から、世界中のメディアは強い懸念と厳しい指摘を数多く寄せていた。それゆえ安倍氏の「ウソ」はすぐ見破られ、大きく取り上げられ、日本政府と東電の当事者意識の欠如が国際的な批判を招いていた。

東京電力のインペイ

 3・11から4年、安倍総理の招致演説からだけでも1年半が経った。しかしあのウソは、今もそのまま続いている。つまり状況はコントロールされていないし、影響は港湾内の0.3?にブロックされてはいない。高濃度汚染水は海に垂れ流され続けている。こと汚染水問題に関しては何も変わっていない。むしろ一層深刻化していると言っていい。
 この間、国と東電が膨大なお金を使って、「汚染水対策の切り札」の喧伝の下、ALPS(多核種除去設備)や凍土壁の採用が試みられてきた。しかし前者については、いくつもの改良型の試運転をしてきたが、まだ本格的稼働に至っていない。また後者は冷却液を通せば1カ月で凍る見通しだったのが、3か月経っても凍らず、急遽大量の氷を投入したが、効果なく、止水が出来ない状況。絶望的と言っていい。
 これに加えて、東電の無責任極まりない事例が露見した。2月24日の記者会見で発覚したのは、高濃度汚染水の海洋漏出を長期間にわたって隠し続けてきた例である。東電の度重なる不祥事の隠蔽は、枚挙に暇がないので驚かない。またかの感である。
 福島第一原発2号機の屋上部分に溜まっていた放射性濃度の高い雨水が、雨どいを伝わり建屋西側の排水路を通って外洋に出ていたという。東電は雨が降るたびに排水路の放射性物質の数値が上がることを知っていた。それも昨年の4月、10カ月も前にその事実を把握しながら公表しなかった。言い訳は「排水路の清掃をすれば数値が下がると考えて」という幼稚なもの。それでいて対策を講じていないのみならず、数値の把握を続けていたのかどうか、データの公表さえしない。
 そもそも汚染水の実態は、安倍氏が豪語するほど単純なものではない。原発の敷地内に降った雨水に、阿武隈高原からの地下水が合流して、毎日1000t前後の水が敷地内に侵入する。以前は建屋の周りにいくつもあったサブドレン(井戸)からくみ上げて海に流していた。事故で井戸が壊れたため、400t/日の地下水がメルトダウンした建屋内に入り、循環させて冷却を続けている水(溶けた核燃料によって汚染された水)と混じる。これが海に流れ出ているのである。
 敷地内には高濃度汚染水を溜めたタンクが1000基以上ある。ボルト部分や亀裂からの漏れが頻発している。タンクの大半は製造期間は短いが、耐用年数が5年しかないので長くは使えない。タンクから漏れ出た高濃度汚染水は直接外洋に流れ出ている。「港湾内の0.3?でブロックされている」とは全くかけ離れた状況なのである。

原子力規制委員長のゴマカシ

 周知の通り、「原子力規制委員会」が環境省の外局として設置されたのが2012年9月。設置法の第1条(目的)には、「・・・原子力利用に関する政策に係る縦割り行政の弊害を除去し、一の行政組織が原子力利用の推進及び規制の両方の機能を担うことにより生ずる問題を解消するため、原子力利用における事故の発生を常に想定し・・・安全の確保を図るため必要な施策を策定し・・・」と謳っている。
 法の目的がこういう表現になっているのは、「故あって」のこと。規制委の前身、「原子力安全・保安院」が行政の「弊害」や「問題」を体現していたからである。原子力の規制や安全確保に留意せず、もっぱら「推進」に注力していたからである。経産省の外局である資源エネルギー庁の特別機関という立場上、経産省傘下の一体感、人事交流が常態化していたからである。
 この規制委が2014年9月10日、九電川内原発1号機・2号機について、安全対策の主要部分が新規制基準を満たしているとする審査書を正式決定した。再稼働への実質ゴーサイン。安全審査の合格第1号である。これに続き、規制委は同年12月17日、関電高浜3号・4号の新基準適合を了承した。その日、田中俊一規制委員長の定例記者会見があった。以下、委員長とロイター通信の記者との間で交わされた質疑応答の一コマである。
 Q:関電高浜3号機・4号機の審査書案で、安全と確認されたのか。
 A:新しい安全要求というか、規制基準に適合しているということを認めたということである。
 Q:安全なのか、安全ではないのか。
 A:そういう表現の仕方を私は基本的にとらない。
 Q:安全だということではないということでいいか。
 A:安全ではないとも、安全だとも言っていない。
 まるで禅問答である。なぜ委員長は「安全だ」と断言できないのか。またそう言えるように規制しないのか。委員長は言質を与えないよう、また免責にも配慮しながら、結局何も答えていない。これが「原子力の規制や安全確保」を最大の目的にしている行政機関の責任者の回答だろうか。もとより規制委はアクセルを踏む部署ではない。ブレーキを効かせるのが大きな責務だったのではなかったか。そうでなければ、前身の組織と一体どこが違うのか。
 規制委への申請は、これからも後を絶たない。委員長自身が「九電玄海、関電大飯、四電伊方等はそう遅くない時期に結論が出る」と明言している。規制基準のクリアが相次ぐだろう。再稼働の門が大きく広げられる。再稼働だけではない。新増設も後に控えている。結果として3・11前に回帰するのだろうか。
 
総理や規制委員長も日本のエネルギー政策の転換を

 一昨日、来日中のドイツのメルケル首相が講演を行い、安倍総理とも会談した。それらの中で、物理学者でもある彼女はエネルギー政策の大転換として決めた脱原発に触れ、その理由をこう語っている。「素晴らしいテクノロジーの水準を持つ日本でも、事故は起きる。現実とは思えないリスクがあると解った」と。これこそ国の「明日」を考えた政治家の、賢明な決断ではないか。
 それに比して、安倍総理は原発再稼動推進に向けて一直線。田中規制委員長の対応を大歓迎している。安倍氏が命じたのか、田中氏が総理の意を忖度して動いているのか、その辺は定かではない。ともかく両者は意気投合、一心同体の感である。安倍氏は、規制委の新規制基準を再稼動推進のツールとして活用し、安全の「お墨付き」が出来上がったかのごとく振舞っている。そして「世界で最も厳しい」基準をクリアすれば、再稼働を進めると断言してはばからない。もっとも国会でその根拠を問う追及に耐えられず、最近は最も厳しい「レベルの」と言い換えてはいるが。
 ところで、田中委員長は汚染水処理について、「薄めて海洋投棄」の主張を繰り返している。また避難者の帰還の基準値となる放射性線量の大幅緩和を提唱したのも彼だった。彼は生業を奪われた漁業者や郷里を追われている多くの避難者の「痛み」が解らないのか。
 安倍総理や田中規制委員長は、この国の明日を考えているのだろうか、委ねて大丈夫だろうか。

 主として汚染水問題と規制委員会にしぼって書いてきたが、もう紙幅がない。最後に、ここまでの材料だけでも、メインタイトルのフレーズ「これでも原発再稼働を進めるか」を問いかけたい。

◆隅田繁雄(すみだ しげお)さんのプロフィール

 1937年、大阪市生まれ。高校・大学と学生運動(原水禁、勤評、警職法、60年安保等)に参画。
 大学卒業後、上京。東京で会社勤務の傍ら労働運動に参画。その後ベトナム反戦・イラク反戦、反公害、反原発等の活動に参加。
 リタイア後、活動拠点を地域に移し、住民運動・反戦・反原発等に参画。
 現在「日野市民9条の会」代表。「NPO法人日野市民自治研究所」理事などに就任。


<法学館憲法研究所事務局から>

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