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「地方創生」のねらいと対抗軸

2015年2月23日



岡田知弘さん(京都大学教授)

はじめに
 2014年5月8日、増田寛也元総務大臣を座長とする日本創成会議が、2040年までに半数の自治体が消滅する可能性があるというレポートを自治体名とともに発表し、名指しされた全国の自治体に衝撃が走った。
 安倍首相は、そのような「地方消滅」の危機への「救世主」であるかのような言い回しで「地方創生」重視を掲げ、同年9月の内閣改造において、石破茂自民党幹事長を担当大臣に指名した。
 さらに、第一次安倍内閣以来の宿願であった憲法の明文改憲を、自らの手で成し遂げるために仕掛けた昨年末の解散・総選挙も、あえて「地方創生関連法案」の成立を待ってのことであった。
 安倍内閣は、なぜ、ここまで「地方創生」にこだわるのか。また、それは善良な地方自治体関係者が期待するような効果を生み出すものなのだろうか。

T 「地方創生」のねらい
 総選挙後、安倍内閣は「地方創生」関連で純増5000億円の地方交付税予算を準備した。このこともあって、多くのマスコミは「地方創生」を、統一地方選挙目当てのものであると報じている。しかし、「地方創生」は、そのような短期的なねらいだけではなく、今後の国のかたちを方向付ける長期戦略のなかに位置付けられていると考えるべきである。
 それは、一言でいえば安倍流「富国強兵」国家づくりの一環としての地方制度及び国土の再編であるといえる。
 「強兵」というのは、言うまでもなく2014年7月の閣議決定による集団的自衛権をめぐる「解釈改憲」、さらに今春に企図されている自衛隊法等一連の法改定に至る「戦争ができる国」づくりの方向である。
 他方で、「富国」路線というのは、決して国民が富む経済政策という意味ではない。少数の多籍企業の利益を最大化させることが目的である。産業競争力会議による改訂版「日本再興戦略」(昨年6月)では、多国籍企業の「稼ぐ力=収益力」が最大目標とされ、雇用、福祉、医療、エネルギーに加え、農業が重点分野に据えられた。そのための方策として規制改革会議では、雇用、医療と並んで農業の「岩盤規制」に「ドリル」で「風穴をあける」ことに固執している。その「ドリル」の役割を果たすのが「国家戦略特区」制度である。
 このことは、先の総選挙の際の自民党「政権公約2014」でも、確認することができる。第一に、「地方創生」と道州制との関係について、「道州制の導入に向けて、国民的合意を得ながら進めてまいります。導入までの間は、地方創生の視点に立ち、国、都道府県、市町村の役割分担を整理し、住民に一番身近な基礎自治体(市町村)の機能強化を図ります」と明記した。あくまでも、道州制導入までのつなぎとしての「地方創生」の位置づけである。実際、石破地方創生担当大臣は、「地方創生」のほか、国家戦略特区及び地方分権改革担当大臣であり、安倍首相からは道州制導入の検討も指示されている。
 第二に、国家戦略特区と「地方創生」との関係についても、「地方創生を規制改革により実現し、新たな発展モデルを構築しようとする『やる気のある、志の高い地方自治体』を、国家戦略特区における『地方創生特区』として、早期に指定することにより、地域の新規産業・雇用を創出します」と述べている。すでに特区制度を活用して、新潟市にはローソン、養父市にはオリックス、ヤンマーが農業に進出している。安倍首相は、この「政権公約」に基づいて、国家戦略特区の追加指定を、石破担当大臣に指示している。

U なぜ、道州制にこだわるのか
 安倍首相は、第一次内閣発足時の政権構想として、憲法改定、教育基本法改定とともに、道州制の導入を掲げていた。日本経団連も「グローバル国家」のかたちをなす「究極の構造改革」として道州制導入を強く要求してきた。
 自民党及び財界の道州制論は、第一に現行の都道府県と国の出先機関を廃止し、10程度の道州政府をおき、基礎自治体も人口30万人程度に統合することを標榜している。その理由は、経団連幹部が述べているように、行政組織のリストラによって国際機能をもった空港、港湾、高速道路の建設資金数兆円を確保し、内外の多国籍企業を誘致するためであった。
 第二に、中央政府、道州政府、基礎自治体の役割分担を明確にし、中央政府については外交・軍事・通商政策、道州政府は産業基盤投資、経済開発、高等教育、そして基礎自治体は住民に最も近い初等教育・医療・福祉サービスに特化するというものである。この論理でいくと、米軍基地問題については、基礎自治体も道州政府も何もいうことができず、中央政府の決定に従わなければならないことになる。いわば、明治憲法下での国と地方団体との垂直的関係に戻ることになる。まさに、道州制は、「戦争ができる国」づくりの地方制度面での必要不可欠な要素なのである。
 しかも、このような役割分担論では、中央政府及び道州政府は、憲法13条の幸福追求権、25条の生存権等、平和的生存権に関わる保障責務を負わないことになってしまう。現行の地方自治法に定められた地方自治体の責務である「住民の福祉の増進」を否定し、もっぱら経済成長だけを追求する広域自治体としての道州政府を描いているのである。

V 「選択と集中」による「地方創生」の限界
 現在、増田レポートの自治体消滅論を大前提にした地方制度改革論議や国土形成計画の見直しが開始されつつある。そこでは、人口20万人以上の中核都市・政令市を中心に地方連携中枢都市圏をつくり、拠点都市に行政投資、経済機能、人口の集積をはかる「コンパクトシティ」を形成することと、それらを高速道路網やリニア新幹線等の「ネットワーク」建設で結合することが目指されている。これらは、先に指摘した道州制導入の際の州都や30万人基礎自治体づくりの物的・制度的地ならしという側面ももつといえる。
 だが、このような従来の新自由主義的「選択と集中」を踏襲した「地方創生」には、根本的な限界がある。第一に、少子化現象を引き起こした最大要因は、第一次安倍内閣下でも推進された非正規労働の拡大政策によって若年層が結婚できる雇用形態、所得を得ることができなくなったことにある。しかも、その青年の非正規雇用が最も集積しているところは東京はじめ大都市である。労働改革を真逆の方向にしない限り少子化問題は解決できない。
 第二に地域経済の衰退を引き起こしたのは、多国籍企業主導の経済のグローバル化や構造改革政策、市町村合併政策である。「地方創生」は、医療、福祉、農業といった人間の生存に関わる領域を、市場開放し、外国の多国籍企業の参入も推進するものでもある。その足がかりが「国家戦略特区」であり、完成形態がTPPである。このような構造改革の継続は、一部の多国籍企業を潤しても、圧倒的多くの地域の産業や住民の暮らしを決定的に破壊することになろう。

W 憲法を暮らしの中にいかした小規模自治体から学ぶ
 以上のような自治体や国土再編の構造改革路線への対抗軸は、憲法理念に則り地方自治の重要性を主張するとともに、住民自治を基にした福祉の向上をはかり、人口を維持し増やす地域づくりを実践してきた「小さくても輝く自治体フォーラム」運動に見いだすことができる。
 小規模自治体ほど、住民一人ひとりの命と暮らしに視点をおいたきめ細かな地域づくりや、有機農業や森林エネルギーの活用、地球環境問題への取り組みが可能になることは、長野県栄村や阿智村、宮崎県綾町、徳島県上勝町、高知県馬路村などの取組みからすでに明らかなことである。島根県海士町や福島県大玉村、北海道東川村などでは人口を増やしているのである。
 小規模自治体の優れた地域づくりの展開を見れば、団体自治と住民自治が結合してはじめて、住民の福祉の向上をともなう地域づくりがすすむことがわかる。まさに「憲法を暮らしの中にいかした」実践であり、これを大規模自治体にも応用し、広げていくことが求められている。
 今必要なのは、グローバル企業が活動しやすい制度空間としての道州制や市町村合併ではない。むしろ、高齢化がすすみ、災害が頻発している国土において、誰もが住み続けられるような、小規模自治体をベースにした重層的な地方自治制度と、何よりも憲法や地方自治法の理念に基づいた住民の福祉の向上を第一にした地域再生の方向こそ、求められている。

【参考文献】
岡田知弘『「自治体消滅論」を超えて』自治体研究社、2014年

◆岡田知弘(おかだ ともひろ)さんのプロフィール

京都大学大学院経済学研究科 教授 専門は地域経済学
自治体問題研究所理事長
主な著書に『地域づくりの経済学入門』(自治体研究社)、『増補版 道州制で日本の未来はひらけるか』(自治体研究社)、『震災からの地域再生』(新日本出版社)など。


<法学館憲法研究所事務局から>
 当サイトではこれまで「地方自治・地方公共団体」に関わっても様々な情報を発信してきました。参考にしていただきたいと思います。



 
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