法学館憲法研究所は、憲法を系統的に研究し、個人の尊厳の実現をめざす非政府組織としての自由な研究機関です

法学館憲法研究所

Mail info@jicl.jp
 
今週の一言
憲法情報Now
 憲法をめぐる動向
 イベント情報
 憲法関連裁判情報
 シネマ・DE・憲法
 憲法関連書籍・論文
 ■今日は何の日?
憲法Voice
研究所・客員研究員紹介
中高生のための憲法教室

憲法文献データベース
日本国憲法全文
リンク集
 
事務局よりお知らせ
賛助会員案内
メールマガジン
ご意見フォーム
サイトマップ

今週の一言

 

「成長戦略」と女性の活躍

2014年10月27日



青山悦子さん(嘉悦大学教授)

 

 政府は、「女性の活躍推進」を成長戦略の中核と位置づけ、総理主導で「女性が輝く社会の実現に向けた全国的なムーブメント」を作りだそうとしている。今臨時国会では、企業や行政機関に女性幹部の登用計画や数値目標の設定を義務付ける「女性活躍推進法案」の成立を目指している。そのために、「すべての女性が輝く政策パッケージ」として6分野35項目が盛り込まれ、女性の活躍推進のための施策がここにきて一気に脚光を浴びている。
 なかでも、政府は、2020年までには、指導的地位に占める女性の割合を30%程度にまでするという数値目標を掲げており、総理自ら経済界首脳に対し、上場企業では役員に最低1人の女性を登用するよう直接要請している。こうした政府要請に応じ、経団連は、女性の役員や管理職登用に関する「自主行動計画」の策定を会員企業に要請し、公開する予定である。また今年に入って、野村信託銀行社長、大和証券取締役、三井住友銀行執行役員、みずほ銀行執行役員、キリン執行役員など上場企業での女性初の取締役、役員就任が相次いで発表されている。
 しかし、日本企業における女性の管理職登用については、極端に低いのが特徴的である。女性労働者に占める役職者の割合は、2013年時点で、係長相当職12.7%、課長相当職6.0%、部長相当職3.6%で、この間緩やかに上昇はしているもののその速度は遅く、依然として極めて低い状況にある(厚生労働省「雇用均等基本調査」2014年)。
 さらに国際的にみても日本の女性の管理職比率は最低水準である。企業の課長以上や管理的公務員を指す「管理的職業従事者」に占める女性比率は、2012年時点でわずか11.1%にしか過ぎない。欧米諸国に後れを取っているばかりではなく、アジアの国々、フィリピン(同47.6%)、シンガポール(同33.8%)にも大きく水をあけられている(JILPT「データブック国際労働比較2014」)。
 ところで、現在世界に目を向けてみると、女性の活躍を進めるための取り組みが先進諸国を中心に進みつつある。ヨーロッパでは、法律によって企業の役員会に一定以上の女性の登用を義務付けている「クオータ制」の導入が進められている。ノルウェーでは、2003年にはすでに上場企業等を対象に、取締役に男女それぞれ40%以上を割り当てる目標を設定し、2006年には法律によってこの割り当てを義務化している。その結果、同国における企業の取締役の女性割合は、2003年には6%にしかすぎなかったのが、2010年には44%にまで大幅に拡大している。その他にも、スペインでは2015年までに男女それぞれ33%以上、オランダでは2016年までに男女それぞれ30%以上、フランスでは2017年までに男女それぞれ40%以上などの目標が設定されている(内閣府「男女共同参画白書」2013年版)。
 「クオータ制」の導入については、我が国の場合、反対意見も多くみられるが、ノルウェーのケースから明らかなように、法律で役員の割り当てを義務化することによって、なかなか進まない女性の役員数を増加させていくことも大きな選択肢の一つと言える。
 また女性に関する情報をコーポレート・ガバナンス等の視点から開示することによって、女性の活躍を推進する動きも広がっている。オーストラリア、イギリス等では、上場企業に対して取締役等の女性割合、ジェンダー・ダイバーシティに関する方針、目標、達成状況等の報告が求められている。
 わが国でも、女性役員の数、管理職の男女比率などの企業の自主的な開示に加え、上場企業ではコーポレートガバナンス報告書に記載を奨励する取り組みも始まっている。東京証券取引所は、2013年4月にコーポレートガバナンス報告書の記載要領を改訂し、取締役会や監査役会の男女別構成数、女性役員の数及び登用への取り組みなどを記載するよう促している。ただし、記載するか否かは企業に任されている任意開示で、公開内容も一様ではないため、さらなる取り組みが求められる。
 しかし、そもそも、我が国では、出産を契機に働いている女性の約6割強が退職し、M字型雇用が依然として続いている状況にある。企業内で基幹的な業務を担う総合職で採用された女性のケースでも、厚生労働省の調査によると、10年後には65.1%が離職している状況にある。そして勤続年数を重ね、管理職へ登用されるためにはさらに高いハードルが待ち構えていることになる。現在、「男女雇用機会均等法」によって、雇用の各ステージで性別を理由とする直接的な差別は禁止されている。しかし、間接差別については、2006年の改正均等法で禁止されたとはいえ、依然として目に見えにくい形で企業の雇用慣行として存在しているのが現状である。コース別雇用管理制度を導入している企業での雇用管理区分による差別(総合職は男性、一般職は女性という雇用慣行)、配置における差別(女性を責任のある重要な仕事には配置しない)、教育訓練の機会における差別、人事考課における低い評価、その結果としての昇進・昇格差別、男女間の賃金差別等々の問題である。いずれも現在では制度的には、差別が目に見えにくい性に中立的なものとなっているが、運用の段階で恣意的に運用されており、女性にとっては働き続けるためのモティベーション低下となっているといえる。
 このような状況に対し、国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)は、日本政府の第6次レポート審査(2009年8月)において、日本政府の取り組みを不十分とし、雇用に関して以下の点に懸念を表明している。@労働市場における水平的・垂直的職務分離、A雇用管理区分によって女性を差別するコース別雇用管理制度、B男女間の賃金格差及びフルタイムとパートの賃金格差、C有期雇用及びパートにおける女性比率の高さ、DILO100号条約に基づく同一価値労働同一賃金原則を確認する規定の労基法上の欠如等々である。CEDAWが懸念したこれらの点については、その後も改善されているとは言えず、依然として大きな課題として残ったままである。日本政府が今年の7月に提出した第7次及び8次のレポートを見ても、CEDAWが懸念した点についての改善の跡は見られない。
 日本は1985年に女性差別撤廃条約を批准はしたものの、その後政府による改善の動きは鈍く、CEDAWの各国委員からは、条約の理念を国内法に取り入れていないのではという批判の声が上がっている。また個人やグループによるCEDAWへの申し立てを可能とする「選択議定書」の批准も勧告の中で求められているが、いまだに批准されていない。
 以上のような大きな課題を残したままで、総理が国内外に向けて、「女性の活躍」の推進を唱えることには大きな違和感を感ぜざるを得ない。今回の「成長戦略」では、労働力人口が減少するなかで、我が国最大の潜在的労働力である女性労働力の活用は不可欠であるとして、女性の活躍推進のための環境整備が遅まきながら進められようとしているが、併せて「働き方」の改革も進められようとしている。具体的には、「柔軟で多様な働き方ができる社会」の構築のためと称しての正社員改革、すなわち「多様な正社員」制度の普及、弾力的な労働時間制度の構築、「労働者派遣法」の大幅な規制緩和など、働く女性にとっては見過ごせない問題がセットとして登場してきている。働く女性が真の意味で輝くためには、今何が求められているのか。私たちは、この「女性活躍推進法案」の行方と共に、「働き方」の改革の行方をしっかりと監視し、検証していくことが必要となりそうである。

◆青山悦子(あおやま・えつこ)さんのプロフィール

慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。現在、嘉悦大学経営経済学部教授。専門は人事労務管理、女性労働。主な業績は、『東アジアの国際分業と女性労働』(共著)ミネルヴァ書房1997年、『現代企業経営の女性労働−労務管理の個別化と男女の自立−』(共著)ミネルヴァ書房1999年、労務理論学会編『経営労務事典』(「日本の女性労働」8−1執筆)晃洋書房2011年、「パートタイム労働者の均等・均衡待遇原則」(「嘉悦大学研究論集」第53巻第2号)2011年など。





 
[今週の一言][憲法情報Now][中高生のための憲法教室][憲法文献データベース][事務局からのお知らせ]
[トップページ]